Days

日常と読書日記。 受験生日記は閉幕です。



見:Netflix
info:filmarksIMDb


 2023年配信開始のNetflixオリジナルの大人のラブコメムービー。20年越しの長い長いすれ違いと、急にやってきた追加的な一週間のドタバタ劇を描いている。「ユアプレイス、マイプレイス」という邦題にあるように、一週間だけ互いの家に住み込んで生活をするという話だ。そしてオチだけを見れば非常にラブコメとしてベタベタ展開ではある。その上で、人生を動かすには怖れずに行動しろ、あとちゃんと気持ちを口にしろ、というメッセージを提示するもベタではあるけれど、この展開ならベタベタで十分。

 小説や編集を巡る話でもあるので、アメリカ文学の小ネタがあちこちに散りばめられているのも面白かった。小説好きでないとピンとこないかもだけど、作家の名前の散りばめ方にもセンスがある(無名でもなければ王道すぎない)のが良い。フォークナーやオースターの名前があった(気がする。うろ覚え)一方で、20世紀前半に亡くなった女性作家イーディス・ウォートンの話で盛り上がる場面もある。こういうのは文学好きなオタク心をくすぐるし、元文学少女(いまは小説好きなシングルマザー)であるデビーと、敏腕編集者テオとの関係性を構築するにも役立っている。

 しかしながらアシュトン・カッチャー演じるデビーはロスの家に置いてきた一人息子ジャックのことが気になってしょうがない。「個人としては」親友であり旧友のピーターを信頼はしているが、「母親としては」余計なことをしてほしくない。デビーがニューヨークで過ごす一週間は大学で講義を受けて試験を通過するためではあるが、テオとの文学談義や、今後の展開など、頭の中はいっぱいなのである。パンクしそうなほどに。

 他方で仕事を休みにして久しぶりにロスにやってきたピーターにとっては、ジャックと過ごす時間をいかに楽しむかばかりを考えている。逆に言うと、それだけで良い。試験、息子、文学、ロマンス……頭の中が常にいっぱいなデビーと比べると、ピーターはとても気楽である。もちろんこのギャップが二人の関係を遠ざけてよりすれ違いを加速させるわけだが、ピーターがジャックと過ごすことで、結果的にデビーとピーターもまた違う関係にと進める構図にもなっている。つまりジャックがキューピッドだったのかもしれない。

 一人の成人男性が急に子どもの相手(同性だとしても)をするのは簡単じゃない。これもNetflixオリジナルで少し前に見た『思いやりのススメ The Fundamentals of Caring』を思い出す。この映画は介助者と身体障害者という構図ではあったが、その構図を変えて一人の大人と一人の少年の物語に昇華させる美しい物語だった。ピーターもまた、ジャックを子ども扱いすることの妥当性に悩み始め、かつて少年だったころの自分の思い出話を語り聞かせるのがよい。子どもはいつまでも子どもではなく、いずれ大人になるのだから。



 何かを恐れてしまうのは子どもだけではなく、大人もそうだ。大人の方が、このままがいいという現状維持バイアスが強いかもしれない。ある程度の大人なら、それでも楽しく生きていけるからだ。でも本当にそれがいいの? と再度突きつけるところに、ラブコメの神髄がある。最後まで飽きさせないピーターとデビーのやりとりが最高に楽しくて、最後はスカッとする一本だ。
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