見:Amazon Prime Video
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Amazonが以前から薦めてきていたのと、主題歌がyutoriの「モラトリアム」だということを最近知ったので見てみたWOWOWのオリジナルドラマ。25分で6本で、主題歌をのぞいた本編だけの時間をカウントしても少し長い映画を見るような感覚で一気に見ることができる。原作は青崎有吾の同名タイトルの小説で、日本推理作家協会賞の候補にもなっている。原作も短編集であり、短編一つ一つがドラマ1本という構図になっているようだ。2日ほどで全部通して見てみて、yutoriというまだ若いバンドが歌うのはちょうどいいドラマだなと思った。
「早朝始発の殺風景」は表題作であり、最初の一歩目にあたる。ここで登場する殺風景と加藤木の二人が、最後まで出続ける唯一(二人だが)のキャラクターだ。他の話数は1話完結するものの、「早朝始発の殺風景」で語られる「女子高生通り魔事件」を自分の手で解決しようとする殺風景と、それを止めようか協力しようか悩みながらついて回る加藤木という組み合わせが、結果としてバディものの妙味を出している。
殺風景を演じる山田杏奈は映画『ひらいて』がそうであったように、腹の底が分からない切れ味鋭い表情と目力が印象的だ。今回も適した配役であり、いい演技をしている。加藤木役の奥平大兼は翌年に『君は放課後インソムニア』で映画初主演を務めているが、今作ではぎこちない会話をする男子生徒という役がハマっていた。
「早朝始発の殺風景」は始発列車の20分間の会話劇であるが、他の話数も基本的には2人、多くても3人ほどの会話劇である。場所はファミレス、観覧車の中、自宅の自室……など様々だが、いずれにしても「さほど広くはない密室」である。ファミレスは密室かと言われるとそうではないが、登場するキャラクターがその場を出入りする前に謎が提示→推理→解決までが全部完結するという点では、密室と言ってよいのだろう。こうした演劇的なシチュエーションでミステリーを作る方法は、明治大学時代の経験が生かされていると青崎は語っている。
さていずれの話数においても、鍵になるのは「嘘」である。登場人物の誰かが嘘をついているため、会話が途中から噛み合わない場面が出てくる。その違和感を指摘し、推理する。視聴者にも公平に情報は提供されている。その流れだけを見るとオーソドックスな本格ミステリーだが、「嘘をつく理由」が高校生っぽいし、青春っぽいなと思うのだ
特に「夢の国には観覧車がない」は非常にベタだなと思ったが、「捨て猫と兄妹喧嘩」や「三月四日、午後二時半の密室」では不在の家族というメンバーの存在が鍵になる点も、青春の苦みだと思う。高校生程度だと、行動範囲が大きくは広がらないからだ。狭い範囲で過ごす青春は、ゆえに多くの苦みを保有することになる。
もちろん、もっとも苦い思いをしたのは山田杏奈演じる殺風景だ。非常に変わった名字を「いじられる」経験を多数してきた彼女は常にイライラしているが、自分を守ってくれた同級生がいたこと。その同級生が通り魔の被害に遭ってしまったこと。内容は意図的にぼかされているが、成人男性に襲われたと言う設定であるため、性的暴行が加えられたと仮定するのが妥当なところだろう。そうすると、殺風景が保有する青春の苦みは単なる苦みではない。「まだ弱い存在」であるがゆえに被害を被ってしまうと言う事実と、それに対する激しい怒りだ。
怒りをなだめることは容易ではないし、それが正義とも言えない。では加藤木はどうするのか? 彼の取った選択も曖昧にぼかされているが、こればかりは「曖昧なまま」で終わらせるほうがきれいなのかもしれない。日常の謎は解決できるけれど、非日常の謎は謎のまま温存される。むしろ、された方がよいのでは? というのが加藤木のスタンスであると思われた。
解決された謎については爽やかさを残しつつ、残された謎については苦みを残したまま。現代ミステリー作家だと米澤穂信がそうした苦みを残すミステリー作家として有名な一人だと思うが、青崎もそのような選択をする作家なのかもしれない。とはいえ、殺風景と同級生の関係や、2話や5話で描かれた女子生徒同士の関係など、ミステリーの中に百合を混ぜてくるのはとても青崎らしいなあと思いながら見ていた。苦みの中にほんのりと甘さもあるのが、どこにでもある青春の一つの形なのかもしれない。
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