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日常と読書日記。 受験生日記は閉幕です。



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 2011年放映の『花咲くいろは』以降、3,4年に1本のペースで作られてきたP.A.WORKSお得意の朝ドラ……じゃなくてお仕事物アニメ。『白い砂のアクアトープ』までの4本は長野を舞台にした家族経営のウィスキー蒸留所を巡る物語。また渋い題材にしたなあと思って調べてみたところ、富山県に実在する蒸留所をモデルにしてアニメに仕立てたようで、だからこそやたら細かいこだわりに満ちているんだな、ということもよく分かる一本だった。

 家族経営で代々続く駒田蒸留所だが、長年の営業不振や地震による破損なので、事業の継続自体が難しくなっていた。美大に進学していた駒田琉生が父の死をきっかけに大学をやめて帰郷、社長の座を継ぐことになった。クラウドファンディングなどを活用して設備投資を行い、新たな商品の開発はできたものの、多くのウィスキーファンが望んでいたのは伝説のウィスキー、「独楽(KOMA)」の復活だった。一方、そんなことを何も知らない25歳の新米ニュース記者、高橋が上司の指示のもと駒田蒸留所を訪れて琉生とともに地域の他の蒸留所の取材に同行するが、頓珍漢な言動を繰り返すことでついに琉生の怒りを買ってしまい……という展開である。

 まず主人公だが、琉生と高橋の2人と言って良いだろう。長野サイドの琉生と、東京サイドの高橋。この二人それぞれの成長物語が本作の主眼となっている。特に映画の前半は2人のキャリアの相違に焦点が当てられる。子どものころから絵を描くのが好きで、時間があればスケッチをしていた琉生。美大への進学は、既定路線の一つだったと思われるが父の死により一転する。もっとも、父の死より以前から経営状況が厳しいのは認識していた。覚悟を決めたというよりも、いくらかの覚悟はあった、というタイプの強いキャラクターだ。

 他方で高橋と言えば、上司のお前何社目だという質問に対して25歳で5社目と語る程度には、仕事に対する思い入れは強くない。かつてのバンド仲間の友人と会った時にも、仕事の話題で盛り上がることができない。田無で一人暮らしをしているらしい描写はあるものの、やる気のなさや芯のなさはどこか空虚である。その空虚な高橋が、覚悟を決めた琉生とはどこかでぶつかるだろうと思っていたが、このぶつかり方をさせるのね、という展開で、琉生の見せる照れや恥ずかしさに関しては早見沙織の演技があまりにもマッチしている。

 「何も知らないし、ウィスキーのことなんてよく分からない」高橋の姿勢は衝突を生むが、逆に言うとアウトサイダーとしてトリックスター的に振る舞うことも可能なポジショニングなのである。その点、ある日突然旅館で働くことになった『花咲くいろは』の松前緒花を思い出しても良いだろう(血筋という意味では琉生との共通点も持つキャラだが)。

 琉生を激昂させた後にベテランの職人から知る駒田家の歴史や琉生の半生について、高橋は思いのほか素直に応じる。「何も知らなかった」高橋のこの後の成長は目覚ましいものだが、同時に成長を急ぐあまりミスをやらかしてしまう描写も忘れないのがなんともP.A.らしい。だがそうすることで多くの観客は高橋に思い入れを強くする。観客もまた、「何も知らない」立場だからだ。とはいえ、ようやく高橋が圧倒的成長を見せることで、物語が急展開を見せる。

 家族の物語としてこのアニメを見た時にちょっときれいに終わりすぎているきらいもあるが、そこはご愛敬だと受け止めておこう。それよりむしろ高橋の機動力を使いこなしたことが駒田蒸留所として、アニメとして成功しているポイントだと言える。遊軍的でもあり広報的でもある高橋の役回りがなければ、琉生が目指す駒田蒸留所の再生はおそらく達成されえない。

 他方で、その高橋も孤軍奮闘したわけではない。彼を指導しつつサポートする上司・安元編集長の存在は重要だし、最初から一貫して案内役兼ドライバーを務める河端朋子の存在も光る。目立たないが多くのバイプレイヤーの存在が駒田蒸留所を、そしてアニメ全体を盛り立てながら一つの製品の完成を目指す点は『SHIROBAKO』の制作経験がいくらか生かされているのだろうとも感じていた。

 100分ほどの小さい映画ではあるが、単なる朝ドラ風ホームドラマや地域おこしというスケールを超えた面白さがある。長野と東京を何度も往復し、インターネットの影響力も多用しながらといった現代性が魅力だ。それこそまるで実写ドラマを作るようにアニメを作って見せるP.A.のノウハウや経験がなければなかなかこの完成度の作品を生み出すことは難しいだろう。安心して、かつ満足できる一本である。










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