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日常と読書日記。 受験生日記は閉幕です。



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 『プライベート・ライアン』の次に何を見ようかとGPTに尋ねたところレコメンドされたのが『戦場のピアニスト』だった。GPT曰く「もう一段、倫理の重さを引き受けられそうなら」とのことだったが、主人公にピアニストは兵士ではなくただの民間人で、戦争の一被害者だ。そんな彼にとって倫理とは・・・? という疑問を最初は抱いていたが、なるほど確かにこれは非常に倫理的な映画である。

 ピアニストは実在した人物(シュピルマン)であり、彼の遺した手記がベースになっているとはいえ、いくらか映画的な脚色も加わっていることだろう。ラジオ番組や飲食店などでピアノを弾いて生計を立てていたシュピルマンとその一家のもとにも、ナチスの魔の手が及ぶという筋書きはおそらく史実を踏まえている。夜半、急に聞こえてくる銃声。ベランダから「落下」させられる車いすの高齢者。「移送」の名の下に線路脇に集合させられ、実際に移送されるユダヤ人市民たち。シュピルマンも家族とともに移送されるはずだったが、ひょんなことからお前は乗るなと助け船を出され、一人電車に乗らずに見送る側となってしまう。

 最後までシュピルマンが生き延びたことは史実なので知っている。だからこの映画は、「最後まで生き延びた側の視点」を追体験する映画だ。当のシュピルマン本人はもちろん、生き延びようと狭いユダヤ人ゲットーの街路や家々を逃げ回るが、生き延びられるとは思っていない。しかし生きるためには逃げるしかない。それしかできないシュピルマンの姿が、2時間ずっと続いていく。

 ある時には知り合いの家庭で保護され、体調を崩した際には医師の往診を受ける僥倖にありつくわけだが、しかしその平穏も一瞬にして崩れ去っていく。まさに一難去ってまた一難。逃げのびた先にも、別の難が待っているだけなのだ。だからこの映画は、映画として見る観客にはある種の(皮肉な)退屈さを与える構造になっていると思われる。急に始まる銃声は映画を通じて共通するが、ではその銃声の先に何かが起こるかというと、ない。銃声が鳴る、市民が逃げ惑う、殺されるか連行される。ただただ、そうした悲劇が続いていく。

 こうした撮影のスタイルはまるで『関心領域』の裏表のようにも見える。銃声「だけ」しか聞こえなかった『関心領域』と違い、銃声の犠牲になる市民の姿「だけ」がただただ映し出される。そしてそれらの光景を、兵士ではないシュピルマンはただただ見ていることしかできない。ただこれは逆に言うと、見ること、目に焼き付けることを自分の使命としているようにも見える(これはおそらく映画的な脚色である)。

 だからこの映画で唯一、物語が動くのはシュピルマンがピアニストとして生きられる場面だ。どういう理由かは分からないが、ピアニストとして生きていいと求められる終盤のある場面を見ていて、この映画は「戦場のピアニスト」の物語であり、「ピアニストとして戦場で生きた男」の物語と言えるのだろう。原題は"The Pianist"だが、ここに「戦場の」という3文字を加えたことで戦場を生きたピアニストとは何者だったのか、戦場でピアニストとして振る舞うとかいかようなことなのかをイメージさせることができる。先日見た「落下の王国」と同じように、わずかな付加だが重要な付加になった邦題だ。

 さて、ここにきてようやくGPTの言う「倫理の重さ」について考えられるのかもしれない。なぜドイツ兵はシュピルマンを助けたのか。それは彼がピアニストだったからだろうか? それとも命からがら生き延びたポーランド系ユダヤ人に対して、素朴な同情を覚えたからだろうか? シュピルマンがドイツ兵の名前を知ることはなかったが、このドイツ兵は特定されており、1952年にソ連の収容所で亡くなったことが映画のエンドロール前に紹介される。この映画の公開直前まで生き延びたシュピルマンと、戦後少し生き延びた後に亡くなったドイツ兵。この対比を、どのように考えるべきか。

 「倫理の重さ」は映画を見ている観客にも投げかけられる。あの場面を美しいと感じていいのか。あのドイツ兵に共感していいのか(彼はすでに多くの人間を殺してきたはずだ)。シュピルマンの感情を憶測していいのか。答えは出ないし、出されない。ただ何度も繰り返すようにはっきりしているのは、シュピルマンがピアニストだったということで、彼が戦場でピアノを弾いていたこと。この事実を踏まえながら、ピアノの、音楽の可能性について思いを馳せることはできるのかもしれない。敵であれ味方であれ、音楽の前では一人のリスナーとして、一人の人間としていられたのかもしれない、と。


戦場のピアニスト
ウワディスワフ シュピルマン
春秋社
2023-12-05



◆関連エントリー(第二次大戦関連の映画)
戦争の「終わらせ方」における対立構図と、そのあまりにもずさんな姿 ――『日本のいちばん長い日』(1967年)
戦闘の目的、生き延びる理由 ――『プライベート・ライアン』(アメリカ、1998年)
ローレライ [2005 日本]
穏やかな日常と、不穏な戦争の併存 ――『ヒトラー暗殺、13分の誤算』(ドイツ、2015年)
銃後だけを映し出す ――『関心領域』(アメリカ・イギリス・ポーランド合作、2023年)
二つの地獄と、逃れられない孤立 ――ペリリュー 楽園のゲルニカ(2025年)
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