見:Neflix
キャリアウーマンのシングルマザーのもとで育った筋ジストロフィーの車いす青年トレヴァーと、幼い息子を亡くし、妻との離婚協議にも数年単位で応じていない中年男性ベンの出会いから始まる物語。特定の研修を受けたベンがトレヴァーの介助の仕事を始めるという話だ。時間単位ではなく、ほぼ一日中身体介助や生活支援を行う様子を見ると、介護保険や福祉制度ではなく自費なのかもしれないな、という興味を持ちながらも、屈託のない軽やかな会話劇が続いていくのもこのテーマでは珍しいかもしれない。
トレヴァーがベンに見せた紙の地図と、母親がアトランタに一週間出張するという経緯がこの映画の本当のスタート地点になる。家を出て「ここではないどこか」へ行きたい気持ちを持ちながら、女手一つで自分を育ててくれた母親に心配をかけたくない気持ちも併せ持っているトレヴァーは、夢は夢のまま封印しようとする。自分の過去の担当介護士に対して様々な嫌がらせをしてきた経緯のあるトレヴァーだが、そのたびに新しい人を雇ってくれた母に対して頭が上がらない気持ちがあるのかもしれない。
そうして自重するトレヴァーに対して外の世界を見せてやりたいんだ、と考えたベンはトレヴァー母を説得する。普段の下ネタ混じりの軽妙な会話とは似つかわないほど、とても実直に、である。そうして毎日定時連絡することや、道中の薬局や病院をリストアップすることなどを条件としてトレヴァーとベンの二人旅がスタートする。たった一週間ではあるが、アメリカの各州をドライブして回る旅路で、トレヴァーにとっては世界旅行のような感覚かもしれない。
難病を負ったトレヴァー、息子を亡くしたベンはそれぞれの半生にドラマが満ちている。でも、実はみんなそうなんじゃない? というのがこの映画のアプローチだと思った。人生は平等ではない。だから他者を必要とするし、ケアする/される関係が生じうる。ヒッチハイクしようとしている若い女の子を放っておけないとか、路上で故障した車を見て呆然とする妊婦を放っておけないとか、そういう「合理的な理由があれば他者の領域に踏み込んでもいい」というスタンスがあちこちに見られるのである。
原題は"The Fundamentals of Caring"、直訳するとケアリングの基礎基本、とでも言えばいいだろうか。アメリカっぽいシンプルで分かりやすいタイトルを日本公開でちょっとへんてこにするのはやめてほしい……というツッコミはありながらも、ロードムービーの醍醐味である旅先での出会いにも満ちている映画だった。
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