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日常と読書日記。 受験生日記は閉幕です。



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 2021年公開の石井裕也監督作品。近年だと『月』が話題になったが、この映画は障害者運動に対する歴史認識の浅さや、当事者性や社会モデル的視点が欠けているということで見ていない。最後に見たのは『舟を編む』だと思うので、久しぶりの石井作品だった。

舟を編む
黒木華
2016-04-21


 韓国映画を最近よく見ているせいでおそらくAmazonが本作を今回レコメンドしたのだとは思うが、石井裕也監督なので制作としては日本映画だ。ただロケ地はほとんど韓国で、多くの韓国人俳優が出演している。言語も必然的にほとんど韓国語だ。ちょうどコロナ禍直前の2020年初頭に撮影が行われたようで、そのへんの苦労はあったと思うが無事完成し、2021年に日韓それぞれで公開されている。

 池松演じる青木剛は兄の透(オダギリジョー)に呼ばれて、息子を連れて韓国に渡航する。剛には日本を出る理由が何らかあったようだが、最初は明かされない。呼びつけた側の透は何らかのビジネスをやっているようでそれを手伝ってもらうつもりで剛を呼び寄せるが、性格がちゃらんぽらんなことも手伝ってその目論見も上手くいかない。

 他方で、チェ・ヒソ演じるチェ・ソルのきょうだいにも問題があった。両親を亡くしているきょうだいは、長年歌手活動をしているソルの稼ぎが頼りだが、そのソルの活動も暗転してゆく。喪失、傷を抱えたこの二組の家族が合流し、旅が始まる。ちなみにチェ・ソルは以前見た『アワ・ボディ』に主演していた女優だが彼女の存在感は今回見た映画でもひときわ輝いている。



 2時間ある映画だが、ストーリーにはそこまで厚みがない。おそらくこれはあえてだと思うが、青木きょうだいと息子、ソルを筆頭にしてチェきょうだいの交流を描くことが主眼になっていて、あえてどこにストーリーがどこに向かうのかも曖昧にぼかされている。例えば仕事であったり、子どもの教育であったり、そういう「本来は重要なもの」は巧妙にぼかされている印象だ。

 少し前に『パスト・ライブス』を見た影響もあると思うが、剛とソルの会話の「成り立たなさ」を面白く見ていた。二人が実質的に日韓それぞれの主人公格であり、二人が抱えた喪失を話したいと思っている。でも、二人は、特に池松演じる剛はシンプルな英語しか話せないし、韓国語がわからない。ソルも少しは英語を話すが、複雑なことを話そうとすると韓国語になる。このギャップ、つまり母国語ならいいのに、つたない英語しか話せないもどかしさを二人は非常に情緒的に演じている。そして、二人の発話をすべて理解できるのは観客だけなのである。

 逆に情緒、感情を言語で表現しない(できない?)のが剛の息子である学だ。小学生らしいことは分かっているが、彼が何を考えているのかはよくわからない。発話しないかできないのかも明かされないが、表情や目線で何かを訴えていることはよくわかる。それでもいい加減な透に学のことは頭に入っていないし、剛は剛で目の前のことに必死すぎて、学のことが次第に視界の外に入る。

 ゆえにこの二つの家族は、それぞれに「普通の家族」ではないからこそ、つながりを求めている。つながりを求めるが、母国語での会話は限界がある。だからそこにはさまるのが英語であり、食事であり、飲酒であり、表情などの非言語コミュニケーションだ。食事や飲酒と言えばホン・サンスの映画を思い出すが、ホン・サンスと違ってこの映画の場合、「食事や飲酒をしていると会話は最低限でよい」という安心感に満ちていると思う。後半はドライブのシーンも多いが、ドライブもそうだ。喋ってもいいし、喋らなくてもよいという安心感は、この二つの家族にとって救いになっているのだ。

 終盤の「天使」との遭遇も、正直何が起こっているのかはよく分からない。でも、その「よく分からないものを、よく分からないまま描く」のがこの映画なのだと思う。透は最後までいい加減だけど情が深い。剛とソルは、自分がなんとかしないとという責任感を強く持っているが、脆い。だから支え合うこと、共にいること。それがおそらく一時的なものだとうっすらと分かっているからこそなおさら、強く求め合う。その瞬間の連続を映し出した映画なのだと思う。

 一点だけ、この映画のナラティブとして「日韓関係の悪化」という会話が頻繁にされているが、日韓関係は短期的には悪化すれば良化することもある。また、中長期的には「そこまで悪化していない」(北朝鮮や中国といった地政学的・地経学的脅威を共有できるから)し、文化的な交流は数十年かけて両国に浸透していると考えられる。なのでこのナラティブは、実態はともかくとして制作側の意図がいくらか入っていないか? というのが気になってしまう映画だった。ここは少し、評価が難しいところである。
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