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日常と読書日記。 受験生日記は閉幕です。



見:Amazon Prime Video

 少し前からWOWOW連続ドラマがアマプラでたくさん見られるようになっており、本作『しんがり』もその一つである。WOWOWの連続ドラマは長編ミステリー小説が原作として採用されることが多いが、『しんがり』は元読売記者であり、巨人の球団代表やGMなどを務めた清武英利のノンフィクションが原作として採用されている。

 ノンフィクションではあるが2600億円の隠れ負債の正体を解明しようとする展開は、金融ミステリー的な構造を持っていて面白い。しかし改めてこの、山一証券という会社がいかにしてバブルの「後始末に失敗」したのかがよく分かるなあ、と思いながら見ていた。最終的に江口洋介が演じる梶井本部長の指揮のもと、負債の実態を解明した調査報告書を書きあげて公表するところがクライマックスにあたる。

 弁護士として実際に参加した國廣正弁護士の事務所が今でも調査報告書を全編公開しており、PDFで閲覧可能になっているのも興味深い。調査委員会(現代だと多くが第三者委員会)が企業の不祥事を明らかにするということ、そしての成果がインターネット上に公開されるということは最近ではジャニーズ問題でも行われているほどポピュラーになってきたが、当時としては珍しかったこともこのドラマでは再現されている。

 ではこのドラマが6話すべてがその隠れ債務(簿外債務)の解明に注がれているかというと、そうはなっていない。あくまでこのドラマの主要な舞台になる業務監理本部というのは社内コンプライアンスのための部署であるわけだが、いわば内部監査を実施する組織であるということもあり、車内からの評判は元々よくなかった。内部調査をしても金を稼げるわけでもなく、組織のメンバーも他部署での不祥事がきっかけで左遷された部員が大半のため、アンダードッグ的な立場で立ち振る舞うことが予想される。

 そういうわけでこのドラマの前半は、アンダードッグ的な部員たちのお仕事ものである。本社から微妙に離れたビルの一室で立ち向かう最初の案件は総会屋への利益供与疑惑の解明になる。ただし、この時点ではまだ涙会見で有名な野澤社長(ドラマでは能見社長)が登場していないし、自主廃業することもまだわかっていない。大きい案件だが、あくまで不祥事の解明だと思っていたところに、実は単なる不祥事ではなく会長や社長、副社長ら上層部が絡んだもっと大きな闇があるのでは? と気づくまでが描かれる。

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 現代的な視点だと山一証券と言えば野澤社長で、巨額な隠し債務によって大蔵省の後援が得られず自主廃業に至るまでのプロセスが何度も何度も映像に残っているが、それはあくまで最終盤の事態であり、そこに至る道のりにこそ山一証券が抱えた本当の闇があることをこのドラマは追求しようとしている。

 最初のころは部員たちの足並みがいくらかそろわない場面も出てくるし、部員の中で一番若い吉岡(林遣都)は婚約者との結婚のことで頭がいっぱいで、こういうややこしい上に本来業務ではない業務を積極的にやりたがらない。だが、いやいやながら「本当の闇」をいくつも発見しているうちに、その解明にのめりこんでいく姿が非常に迫力を以て展開されているところが非常に良かった。命令によって動くのではなく、ある種の内発的動機で動く人間心理を見た気がした。

 もっとも、そうした心理的要因だけではない。矜持と言ってもいいし、責任と言ってもよい。この二つが組み合わさった典型的な存在こそが江口洋介演じる梶井だろう。あまりにも仕事にのめりこんでいくかれは、部員たちや関係者たちへの心理的ケアも怠らない有能な上司だ。しかしながらそれは「家庭を置き去りにして仕事にのめりこむ夫」という図でもある。これを丁寧に描いているのも2010年代の映像の風景だろう。



 ドラマの元ネタは90年代後半の事件だが、有能な上司であっても家庭と仕事の両立は完璧ではない、という弱みが描かれることでよりリアリティを増している。能力も高いし、ケアも忘れない、さらに家庭でも良き父で、というスーパーマンであったならば梶井の魅力は逆に下がっていたかもしれない。勝村政信演じる林(梶井の同期)もまだ普及が始まったばかりの初期ガラケーで妻とやりとりする場面が描かれているが、これも当時の多くの社員の経験を象徴化させている良い演出だった。本筋には直接関係ないが、多くの社員に家庭があるという事実を描くことがこのドラマでは重要視されていたのだ。

 救いのない結末に見えて数少ない救いとして得られるのは、前述したように調査報告書が現在でも一般公開されている点だ。会社はもうないが、会社の遺した最後の遺産は今でも利用できる。だからこそ、単なる過去の昔話で終わらせるのではなくフィクションという形でドラマ化することにも意味があり、目的があったのだろう。全6話というのはやや駆け足になりがちだったが、無事完成させたのは素晴らしい試みであったと思う。




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