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日常と読書日記。 受験生日記は閉幕です。



見:Amazonプライムビデオ

 映画館に見に行こうと思って行けなかった映画の一つで、原作も読んでいたので映画もちゃんと見ようと思った。本作と同じように現実にあった調査報道のプロセスを題材にとった映画として2015年の映画『スポットライト』や2017年の映画『記者たち』が挙げられる。いずれも社会にまだ隠されている出来事を記者たちの緻密な取材によって明かす映画だなと思いながら見ていたが、今回見た映画の場合は取材にあたる記者二人が被害者たちに強く共鳴し、さらに長い間口を封じられてきた被害者たちを突き動かす映画でもある。そういった意味では、記者と被害者がともに女性として連帯することで社会正義を達成しようとした、一種のヒューマンドラマとしても見ることができる映画になっていると言える。この点は先ほど挙げた二つの「調査報道映画」とは違う特徴を持つ。

 原作はむしろ書き手である記者の感情は抑えめにしながら、なんとかこの事実を暴いて世に出し、ハーヴェイ・ワインスタインを裁きたいという思いドキュメンタリータッチで描いている印象だった。映画も劇映画というよりはドキュメンタリーを見ているかのように進み、取材の風景の間に女性記者二人の日常、家庭生活や子育てからタクシーで帰宅する時の疲れきった表情を見せるように作られている。ドキュメンタリー風に撮るのは紛れもなく事実をもとにしており、劇映画ではあるが完全なフィクションではありません、というメッセージがあるからだろう。

 ミーガン・トゥーイーとジョディ・カンター。NYTの二人の女性記者がこの映画の主役で、二人による一連のワインスタイン性加害報道はピュリッツァー賞も受賞している。原作として映画として特徴的だなと感じたのは、ミーガンとジョディと言う二人の記者のキャラクターにも焦点を当てている点だ。多くの被害者が女性であることから女性記者として使命感を持って取材を続ける二人。他方で、ともに家には家族がいる。夫がいる、子どもがいる。ワインスタインの悪事を暴き、社会的に重要な仕事を成し遂げたいという強い気持ちと、夫や子どもを持つ一人の女性(妻であり母であるということ)としても生きたいという信念の間で葛藤が生まれる。いわば、「仕事と家庭の両立に葛藤する」キャラクターとして、この映画はミーガンとジョディを描いている。

 それはつまり、やがてピュリッツァー賞を受賞することになるミーガンやジョディとて特別な存在ではなく、資本主義の中では労働者であり、家庭生活を持つ市民であるという存在なのである。こうした、特別ではなくてありふれている二人のキャラクターが描かれるからこそ、最初は口が重たかった被害者たちもミーガンやジョディのために、そして社会のために、という思いで口を開き始めるのではないか。そんな風にも思いながら見た映画だった。

 もう一つの側面は、いわゆるお仕事ものでもあるということ。重要な交渉には当時編集主幹をつとめていた上司のバケット(ミーガンやジョディが所属するチームにおけるデスク?的な存在)がバックでサポートに入るし、電話を取り次ぐこともある。白髪が印象的な編集者コルベットはミーガンやジョディの取材状況を確認したり今後の方針について助言を与えたりする。ワインスタインという大物の追及は、単にミーガンとジョディが懸命に努力しただけではなくチームとして機能するプロセスが随所に描かれていた。

 とはいえやはり、バディムービー的な要素も大きく、ミーガン演じるキャリー・マリガンと、ジョディ演じるゾーイ・カザンの二人の熱のこもった演技は素晴らしかったと思う。のちにMe, tooを世界中に広げることで多くの人(特に女性)たちをエンパワーメントしてきたと思うが、二人がこれまで抑圧されていた声を拾い集める日々の取材で疲弊しながらもそれぞれをねぎらい合い、協力し、必死になって巨悪に立ち向かってゆく姿はジェンダー関係なく多くの人にとって心を打つ瞬間だったと思う。その意味では、この映画自体が持つパワーの大きさも見せつけられていたと言ってよい、そう思わせてもくれる2時間だった。

映画で2人を演じる女優、キャリー・マリガンとゾーイ・カザンも、トゥーイー記者とカンター記者と多くの時間を過ごし、記事を研究し、取材の過程で彼女たちがどのように感じたか理解しようと努力していたそうだ。

セクハラや性暴力を題材にした映画など見たくないと思う人がいるかもしれないが、トゥーイーさんは、「勇気を出して真実を語れば大きな影響を与えることができることや、真実の重要さを示す、とても元気の出る映画だ」という。

「セクハラを受けた女性なんてそんなにいるの?」MeToo後も男女の温度差が埋まらない根本原因」(プレジデントウーマン、2023年1月23日)



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