見:U-NEXT
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U-NEXTにて。タイトルだけ見ると、ミステリーやホラー映画なのかと思わせるが全然そうではなく、むしろ登場人物や舞台、動きの限定されたミニマルな映画だった。構成としてはミニマルだが、それを一本の映画として見せようとするとディティールに凝るしかない。なのでシアマがこの映画の中で誰の何をどのように見せようとしているのか、を意識しながら見ていた2時間だった。同時に、2時間あるといっても会話は少なくかなり限定的で、物音が全部聞こえるほどに静かな映画である。
フランスのとある島で暮らす貴族の娘の肖像画を描くため、海を渡って屋敷を訪れる女性画家のマリアンヌが主人公。彼女の経歴は詳しく語られていなくて、父親の跡を継いで画家になったというような描写がわずかながらに挟まれる程度である。貴族の娘であるエロイーズについてもあまり詳細は語られない。父親はほぼ不在で、かつて姉がいたらしいが事故死とも自殺とも言える不審な死を遂げていることがわかる(しかしこの謎を解くタイプのミステリーでもない)。
肖像画をオファーしたのはエロイーズの母親であり、曰く以前に呼んだ画家とはうまくいかなかったらしい。そのため同じ女性ならという要素をうまく使いつつ、最初から画家だとは名乗らないでほしい、最初は散歩などをして関係を作ってほしい、などと提案をされる。そのためこの映画の前半は、砂浜を散歩したり、海辺に入って泳ぐエロイーズを砂浜に座り込んでマリアンヌが眺める、といった日常系アニメのようなのどかな光景が続く。もちろん、エロイーズはマリアンヌに対して警戒心バリバリでもあるので、見た目ほど穏やかな光景とも言えない。
いずれにしてもこのアンバランスな関係性のなかでいかにしてラポールを形成し、仕事を完成させるのかがマリアンヌにとってのテーマになってくる。中盤に画家であると打ち明けたときに激昂されたり、完成させた絵を暖炉の火で燃やしたりと、ヒリヒリするようなシーンが続くためこの映画の行く末に不安要素も高まるが、これはつまり「人間関係は単調ではない」という表現なのだろうと感じた。関係性が短いからこそ繊細に取り扱う必要があるが、繊細ゆえに距離感の駆け引きは常に難しい。そして前述したように、セリフは限定的だ。
だからこの映画は、会話の代わりに視線に注目する。例えば激昂したエロイーズがマリアンヌを鋭く睨み付ける視線は、逆に考えれば承認欲求の現れだと解釈することもできる。姉との関係がどういうものだったかはわからないので推測することしかでいないが、広い屋敷で母と、メイドのソフィの3人しかいないようでは、孤独感や孤立を強めるだけだったかもしれない。だからマリアンヌという訪問者と仲良くなりたかったのに、仕事のために訪れただけであり、最初から真意を打ち明けてくれなかったというのはエロイーズにとっては裏切りにあったような心境だったかもしれない。
このように、視線ひとつひとつで解釈が多様にできるのがこの映画の醍醐味だ。映画の後半ではふとみつめあった二人が濃厚なキスを交わす場面も出てくる。ここでも会話はほとんど挟まれない。目と目をあわせて、息をあわせて二人は唇を交わす。この場面以降の二人は、もはや画家とモデルではない。どれほどの強い感情があったのかはわからないが、女と女が存在しているだけなのだ。
ソフィについてあまり触れられなかったが、メイドではありながら3人が集まって語り合う場面もエロイーズ母が島を離れて不在になる中盤以降には頻繁に見られる。このソフィを他の二人が「見る」場面も、二人のセクシュアリティにとっては重要な場面だったかもしれない。目を背けたくなる光景を、いやここは見るべきだと諭す場面が印象に残る。また、一貫して静かな映画なのに最後の数分間はものすごい轟音が鳴り響く。このギャップもまた見事な構成であり、美しい別れだったと思った。
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