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日常と読書日記。 受験生日記は閉幕です。



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 これは『秒速5センチメートル』のアフターストーリー的であり、変奏でもある、という映画だ。そしてもちろん、続きを描いたからと言ってすれ違いが解消されるわけじゃなくて、「自分たちの人生はすれ違ったまま。でもそれでいいじゃない。そう生きるしかないのよ」ってことなんだろうなあと思わされる映画だった。この「現状肯定バイアス」の強さは、徹底的にロマンスを拒否する構成と重なっている。

秒速5センチメートル
花村怜美
2015-12-19


 12歳まで幼馴染だったヘソンとノラは、ノラの親がアメリカに移住することになり、離れ離れになってしまう。その二人の、24年振りのニューヨークでの再会を描く。その時ノラにはアーサーという夫がいたことにより、3人での顔合わせになる。それでも、この展開を変にロマンチックにせずにリアリズムに徹している。そういうところはすごく真摯で丁寧な映画だなとも思った。ただただ三者三様の揺れ動く感情を描くだけ、の映画と言って良い。定まらない視線、韓国語と英語が入り混じる会話、保たれた距離感。こうした、人と人との「間合い」を表現し続ける映画だ。

 ヘソンとノラのコミュニケーションは実は24年ぶりではない。12年前、facebook経由で知ったskypeのアカウントにコンタクトを取り、しばらくの間通話を繰り返したことも描写されている。この24歳の時の再会(オンライン)も、それをずっと引き延ばすこともできたと思う。でもそうしなかったのは、「すれ違ったままで進む人生」がお互いにとって重要だと感じたからなのだろう。

 ノラにとってもアメリカにいながらパソコン越しに幼馴染と会話できる(しかも韓国語で!)楽しさとはありつつ、同時に会って話せない寂しさも抱いていた。結局中途半端なままの関係性だと、感情の置き場所がない。だから感情を「置く」ためにオンラインでも会わないようにしよう、とノラが提案して、ヘソンはそれを受け居てる。この流れは面白いと思ったし、ヘソンの「非積極性」が最後まで彼の運命を規定しているんだろうとも思った場面だ。

 そして36歳のヘソンがニューヨークに行ったのは一種の精神的な逃避行でもあったのだろうと思う。それは自分の人生に向き合うという現実に対する疲労感の表れで、だからこそノラを求めたのではないか。もっとも、求めたと言っても精神的なものであり、肉体的な交流がそこで生まれるわけでもない。これもロマンスじゃなくてリアリティに沿った作りとして一貫性があってよかったと思う。

 24年越しのリアルな再会、そして……ではない。本当にただ会うだけなのだ。会っても何も変わらないけど、そろそろ二人は会ってもいいだろう、という地点。ヘソンは1ミリくらいの期待は持っていたかもしれないが、24歳の時に何もできなかった彼は、36歳になっても何もできないだろうと「思い込んでいる」のだろうと思った。この映画が「現状維持バイアス」に満ちていることは指摘したが、ヘソンというキャラクターの行動規範にも現状維持バイアスがあるのだ。

 なぜここまで現状維持バイアスにこだわるのかについては、何度も口にされる「イニョン」という概念だろう。日本語だと運命とか宿命という風に訳されるようだが、PAST LIVES(前世)からの縁、という意味もあるようだ。ノラにとっては、アーサーと出会えたこともイニョンだし、ヘソンと一度別れてその後再会したこともまたイニョンだったのだと思う。アーサー、ヘソン、二人との関係性を壊したいとは思わない。だから現状維持バイアスを肯定することが、自分にとっての宿命なのだと……

 また、ヘソンとノラが別れの間際にただ歩くだけのシーンもとても美しい。ずっとこのまま歩いてくれてもいいと思ったし、二人もずっと歩いていたいと思っていたのではないか。そしてそのシーンを見ながら、濱口竜介監督の『親密さ』第一部のラストシーンを思い浮かべていた。ただ歩くだけの二人を美しく撮ることができるということは濱口竜介からも学んだし、今回セリーヌ・ソンからも学んだ。



 もちろん『親密さ』の二人はすでに付き合っているし、別れるわけではないから少し意味が違う。この映画の、「もう会うことはない」と悟った二人にとって歩くシーンは最後の瞬間の一つだったはずだからだ。他方で、自分でそう決めていても流れてしまう涙があるというのが、人の感情の複雑さであり、揺らぎだと思った。息を殺して、静かに泣く。

 でもその涙は、相手(ヘソンにも、アーサーにも)には見せない。観客だけがノラの涙を見ている。すごく、すごく尊い涙だと思った。
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