見:JAIHO/filmarks
『ヘゥオンの恋愛日記』以来少し間隔が空いたが、これでホン・サンス映画は3本目。主人公で売れない青年映画監督のジング、彼の学生時代の同じ学科だった女性オッキ。そして二人にとっては大学の先生であるソン教授の3人がメインの配役。序盤こそ周辺の人間関係が描かれるが、終わってみればかなりミニマルな構図の映画で、3人の関係性に次第に焦点が当たり、外部がほとんど消失する。その描き方がユーモラスというか皮肉と言っていいかわからないけれど、映画の中で繰り返し挿入される「威風堂々」のメロディがギャグに思えてくるのが面白かった。
この映画の英語版タイトルは"OKI'S MOVIE"である。つまり、主人公は2023年に亡くなったイ・ソンギュンが演じている青年映画監督のジングだが、彼は撮る人でありながら撮られる人でもあるのだ。むろんそのことは知らない。だからジングが主演の映画を見ているはずなのに、途中からそれはオキが撮影している映画のように思えてくる。ある時から突然、メタ視点が挿入される映画である。
そう考えると物語が始まるのが遅いタイプの映画(前置きが長い)だったけれど、始まるのが遅いので始まるまでのやりとりや関係性がひどくこっけいに見えるのが面白い映画。男二人は転がされているけれど、当事者であるがゆえに気づかない。二人を転がす側のオッキはそこまで魔性の女風には見えないが、どちらの男にも感情的に没頭していないからナチュラルに「演じている」ようにも見える。二人の恋人であるという役割と、映画監督としての視点とを。
オッキの演技に気づかないジングの純粋さや情熱は痛々しく見えてしまうこともある。特にいま売れていない彼の過去を再生するようになっているこの映画を見せられるのは、二重の意味で苦しい(オッキとの関係も苦しいし、今から振り返る過去という視点でも苦しい)。逆にだからこそオッキの透明さばかりが印象に残ってしまうのかもしれない。透明なオッキは、ソン教授もあっさり飲み込んでしまうわけだから。
チャン・ユミはこの映画公開時にはまだ27歳さが、やがてベストセラー小説を映画化した『82年生まれ、キム・ジヨン』(2019年)の主人公であるキム・ジヨンを演じている。映画監督と言う立場を利用して自由な恋をするオッキと、精神的に病んだ人妻であるキム・ジヨンを演じるチャン・ユミはそのキャラクターの見せ方がだいぶ異なっているだろうが、その違いをいつかちゃんと見てみたいとも思った映画だった。
ちなみに最後の20分、二人の男と時間差で同じ場所でデートをする光景を並行して映す試みは、去年見たアニメ『恋は双子で割り切れない』の4話までの展開を思い出した。「ふたこい」がこの映画を参考にしたのかどうかは分からないし視点の違いはあるけれど、同時並行でデートを映し出す試みもまたこっけいで面白かった。
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