Days

日常と読書日記。 受験生日記は閉幕です。



見:Netflix
Info:filmarksIMDbLetterboxd

 ネトフリにて。マリッジ、つまりスカーレット・ヨハンソン演じるニコールと、アダム・ドライバー演じるチャーリーとの結婚生活は完全に破綻している訳だけど、結婚生活が終わっても家族でなくなる訳ではない、というのがこの映画の出発点にある。特に子どもにとっては、夫婦である前に両親であるわけだ。だから結婚生活は終わっても親としての生活は続くし、続けないといけない。

 同時に、親としての生活を続けながら離婚裁判をどうやって戦うのか、みたいなジレンマを描いているように見えた。弁護士は弁護士の仕事をしているんだけど、良くも悪くも型にハマってる。例えば夫は仕事ばかりで家庭を省みないクズでなければならないし、妻は家庭の天使でいなければならない。裁判で勝つために、既存の、つまり保守的なジェンダーイメージを「利用する」ことを弁護士は求めてくる。どちらの弁護士も同じアプローチを求めてくるところがリアルだし、それにうんざりする二人の様子はコメディ的でもある。

 思えば、こちらもNetflixオリジナルとして制作された『マイヤーウィッツ家の人々』(2017年)もホームドラマ調のコメディだったな、ということを思い出しても良い。まっすぐに向かわないコミュニケーションを、斜めから笑い飛ばす余裕が映像の中にある。弁護士の想定とは違って「良きパパ」であったチャーリーと、「時には良くないママ」であったニコール。しかしながら、共働きの多くの家庭はそういうものじゃないか? 特に都市的生活をしている比較的リベラルと思われるカップルにとって、型にハマった保守的な夫婦像「なんてもの」とはあまりにもズレがある、というわけだ。

 しかし、離婚するほど破綻していたけれど、家族関係が悪くなったわけではなかった二人。舞台演出のために自宅のあるロサンゼルスとブロードウェイのあるニューヨークを往復することになったチャーリーのように、二人の関係を悪化させる要因は家庭じゃなくてそれぞれの仕事にあった、というのも現代的な別れの原因だと思う。途中からは夫婦喧嘩も演劇的になっていく、セリフ一つ一つがだんだん強く響くようになるところがこの映画らしさだと思った。映画を観ているのだが、舞台を観ているようでもある。

*******

 さて、二人の仲をより悪化させたのは、「離婚裁判」があるからだ。仲が悪いから離婚裁判をするわけではない。離婚裁判「のプロセスの中で」どんどん関係が悪化するのである。しかしそれはつまり、今まで分からなかった自分たちの本性が暴かれていく場面とも言える。弁護士との間で演技的なコミュニケーションをしていた二人だが、二人が家庭で衝突する時はもはや演技ではなくなっていく。

 いや、最初は演技だったのかもしれない。自分たちは離婚するのだから、対立しないといけないという演技をしていた可能性がある。しかし次第に、もはや演技が演技ではなくなる様はホックシールドの言うところの表層演技から深層演技へと移るフェーズが、それは感情労働の現場だけでなく家庭内でも起こりうるのだ、ということを示している。家庭内のコミュニケーションは、アンペイドな感情労働の積み重ねだからだ。

 演劇的な映画であり、現代家族的な映画。しかし最初に書いたように、この映画では小学生である一人息子の存在も重要になる。彼が居なければLAとNYを往復する必要はない。しかし、ケアの必要性があるから往復する。仕事をし、弁護士と(コメディタッチな)打ち合わせをし、そして夫婦喧嘩をする。でも、二人に唯一残された共通の行為が、子どもに対するケアだ。これだけは離婚したとしても、続けなければならないからだ。夫婦が夫婦でなくなっても、親子でなくなるわけではない。

 仕事、裁判、夫婦喧嘩と並行して、子どもと過ごす風景があるということ。家で見守りをしたり、送り迎えをしたり、ハロウィンイベントをやったりする。現実と向き合うたいへんさがある中で、子どもと関わるということの価値を再認させられる映画でもある。そう考えると、実年齢がほとんど変わらないスカーレット・ヨハンソンとアダム・ドライバーが夫婦役をやっているのはいい。共働きで、対等な夫婦関係で、でもそれでもうまくいかないことはある。

 だが、うまくいかなくなってもすべてが終わるわけではない。うまくいかないなりに続ける方法がある。離婚を決意した二人がその模索(離婚後の親子関係の構築と継続)を共同して目指した点も、この映画が現代的である所以だと思われる。
このエントリーをはてなブックマークに追加

コメント

コメントフォーム
評価する
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット