見:イオンシネマ綾川
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純文学的な原作とくらべるとポップでカジュアルな感じに仕立てなと思うけど、ポップだからこそラストは小説とは違うさみしさが残る映画だった。直接的な原作にあたるのは『大都会の愛し方』内の巻頭短編「ジェヒ」だと思うが、これはもうすでに終わった何かを回想的に振り返る短編だった。ゆえに映画ほど感動的には仕立てていない。あくまで短編集の中の1本である、という位置づけだからだ。
そして小説ではジェヒ自身も、「ジェヒ」以外の短編にも登場する。だから、「ジェヒとの関係の終わり」を書くが、すべての終わりを書いているわけでもなかった。主人公のフンスはもう少し内向的なイメージだったけど(映画では内向的だが軽口を叩きまくるキャラだった)、ジェヒは小説のイメージを三次元で体現したらこうなったという感じで彼女のパワフルさと重たさがめちゃくちゃ可愛かった。しかもジェヒ演じるキム・ゴウンは1991年生とドンピシャである。
この映画でも終わりの予感を最初に提示するが、回想的には書かない。2011年、20歳だったころの出会いと、ルームシェアのスタート、卒業、兵役、就職、そして結婚へ至るまでの13年間の長く続いた日々を、「しんどいことも多かったけど、替えの効かない友達とかけがえのない時間を過ごした青春の終わり」を描く。終わるのは単なるジェヒとの関係ではなく、彼女と過ごした長い青春の日々だった、というのが映画のテイストだ。
ネットでは言及したり比較したりしている人もいたが、もっと具体的な喪失を描いた『ソウルメイト』とは違うテイストかなと思う。ただ、「かけがえのない友達との、長く続いた青春の終わり」をどう描くかを模索している点は似ていて、そういうのを見たい人にはいいと思う。それと、2011年に20歳という設定なので、ゼロ年代〜2010年代が青春期で、いま30代〜アラフォーくらいの人にはグサグサと刺さる構成になっている。
一瞬だけだけど『子猫をお願い』や『ブエノスアイレス』といったアジア映画の名作の引用があったり、『君の名前で僕を呼んで』が重要な場面で使われていたり、あと原作者のパク・サンヨンが新進気鋭の小説家として一瞬登場していたりという小ネタも面白かった。
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さて、「青春の終わり」以外にこの映画が描こうとしているもう一つの中心的なテーマは「普通の人生」に対する強力なアンチテーゼだろう。フンスはゲイであることを隠して生活しているが、キリスト教や儒教文化の色濃く残る韓国社会では現代日本とはまた違う文脈で同性愛者にとって生きづらい国になっている。そのことをフンスが自覚するシーンや会話が、これでもかというくらい頻繁に挿入される。
他方でジェヒはシスジェンダーの異性愛女性だが、しばしば「淫乱」とか「尻軽」と呼ばれている。彼女もまた、「普通の人生」とは距離を置いた生き方を選択しているが、周りからはなかなか承認されない。だからこそ、フンスとジェヒは「決して恋愛関係にも性的関係にもならないけど、異性の親友になれる」のである。
でも、二人は二人でずっと生きていくことを選ぶわけではない。それぞれの形でそれぞれの男と恋愛をし、セックスをし、ケンカをする。『マイ・スウィート・ソウル』のウンスとユジュンのようにはならない。あくまでフンスとジェヒの間には「友達以上の関係」は発生しないからだ。逆に言えば、友達としての関係を究極的に「利用」する。そういう映画でもある。
これはつまり、オールドタイプのビルドゥングス・ロマンとは違う形の「成長物語」でもあるのだ。成長すると言っても、「自分を社会化」するための成長ではなく、社会の要請をむしろ拒否し続けることと、成長の両立を目指す。最終的にジェヒは結婚するが、結婚してもフンスとの関係性は(それまでと違った形で)続いてゆくのだろう。ゲイであるフンスにとって「普通の結婚」ははじめからないし、さらには「普通の就職」も彼は拒否する。小説を書くということ、自分が自分でいるというアイデンティティを示すことで、この社会をサヴァイブしていこうとするのだ。
自分が自分でいること、それを続けることの難しさをジェヒもフンスもずっと抱えて来た。だから二人は寄り添い合い、ケンカをし合う必要があった。二人の関係は決して優しい関係ではないが、それもまた良い。優しいだけの関係だったならば、ジェヒもフンスも成長(成熟)できていなかったかもしれない。お互いがお互いの尻を叩き合うような、そういう競争的でもあるコミュニケーションがこの映画の何よりの魅力である。
そして二人はやがて「青春の終わり」を迎えるが、前述したように「青春の終わり」の後にもそれぞれの人生は続いていく。これからも人生を続けるんだ、自分らしく。フンスの叩くキーボードの画面には、彼の次の人生の構想と、内に秘めたる熱い思いがしっかりと宿っていて、それもまたとても美しい光景だったと思う。長い時間をかけてようやくたどり着いた「青春の終わり」を、祝福するかのようでもあったからだ。





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