ツイッターで親しくしている人向けに作成してたのですが、よく考えればブログに挙げてもいいのでは、と思ったのでアップします。
このブックガイドを作成したのは2020年ですが、その時は新型コロナによる経済的な波及効果(もちろん悪い意味で)に対する金融政策や財政政策(orマクロ経済政策)を考えるためでした。他方で今年はウクライナ戦争による物価の変動と為替の変動についてのニュースや議論が日常的になっています。
ただ、2年前がそうであったようにそもそも金融政策を理解している人はあまり多くないのでは(そもそも金融政策と財政政策は相互に関連はするものの全然違うこととか)と感じたので、改めていったん金融政策入門という形で復習しておくのは重要かなと思い、ブックガイドをアップしました。
入手しやすいようにということであえて新書を並べています。1を除く4冊はすべてkindleで入手可能。学習のためにはある程度分厚い入門書がいいと思いますが、とっかかりやすさを重視した選書にしました。
1. 日経新聞(2020)『金融入門 第3版』日経文庫
◆選書理由
・今回紹介する本で最も入門的かつ教科書的
・2020年3月に第3版が出たので選書の中では情報が一番新しい
・金融政策の前に金融とは何かの理解から始まり、金融業界の話や為替、株価、金利についての解説などなど
・「金融入門」であって「金融政策入門」ではないので政策とはさほど関係ない話(一般の銀行の話とかフィンテックとか)も多いが入門書かつ教科書的な構成なので、5冊の中では一番とっかかりやすい
2. 湯本雅士(2013)『金融政策入門』岩波新書
◆選書理由
・特定の立場に取ることはなく、かつ教科書的になりすぎないようにアメリカや日本の具体的な政策、経済の動向に言及しながら丁寧に論を進めている印象
・専門用語に頼りすぎずに文章を書いている。次第に用語の出番が増えていくが、序盤に丁寧に解説しているので読みやすい。日本銀行券ってそもそも何?というあたりから話を進めているのも入門的で良い
・入口は入りやすいがいったん入ると内容は分厚く、マクロ経済学的な数式やグラフも多々登場する。このあたりは経済学部生向けな気がするので、難しいと感じるところは読み飛ばしてもよい
・伝統的金融政策(ケインジアン、マネタリスト)と現代的な非伝統的金融政策(金利を誘導するようなオペレーションや量的緩和政策)の特徴や意義についてそれぞれ時間をかけて解説している。実際の金融政策を理解する肝でもあるので、この部分だけしっかり読むのも良い
・インフレとデフレの特徴と功罪、それぞれにどのようなアプローチを中央銀行は行っているのか(いくべきか)という話もかなり時間をかけて行っている
・あとがきから読むのもいいと思うし、参考文献リストがあるのも良い
・2013年刊行なので少し昔の話が中心だ(2000年代の日銀やFRBの話が多い)が、始まったばかりのアベノミクスへの言及もあり。
・3の本がわりとポジショントークをしているところがある(放漫な金融、財政に対して批判的なスタンス)ので、その分2の本はバランスがいいなと感じる
3. 熊倉正修(2019)『日本のマクロ経済政策 未熟な民主政治の帰結』岩波新書
◆選書理由
・比較的新しい。日銀の黒田体制、アベノミクスへの評価と疑問なども多い。
・通貨政策、金融政策、財政政策、経済政策と民主主義という流れ。最初が通貨政策なので、為替介入の是非といった特定のトピックの話から始まっているのはタイムリーだけど、教科書的には入門的ではないかも
・入門書というよりはそれぞれの政策に対する解説と評価(批評)が主といったところで、分厚いニュース解説を読んでいるような印象
・ほかの本を一通り読んでから帰ってくるには向くと思うしタイムリーな話題も多く面白いが、最初の一冊としては選ばない方がよいと思う
4. 池尾和人(2010)『現代の金融入門』ちくま新書
◆選書理由
・「入門」とあるわりには骨太なので、せめて1か2を読んでからこの本に来た方がいいかな。昔一回読んで今回読み直したけどやはり難しい
・内容は確かに入門的(大学の経済学部生レベルという意味で)かつほかの本と比べても最も理論的
・読み応えもあり、大学の講義を1クール分受けている印象を持った。新書でこのボリュームは単純にすごい
・1の本のような金融の個別の制度の解説ではなく、制度やルールを利用して各プレーヤーがどのように行動しているか(=金融システム)の解説や分析が主。このあたりの問いの立て方や着眼点は経済学者的
・2010年刊行と今回紹介するにはやや古いが、リーマンショック後まだ間もないころでもあり、バブルはどのように起きるか、金融デリバティブとはどのようなものか、リーマンショックのような金融危機が起きないように、平時どのように企業の金融活動に規制をかけていくか……といった視点は他にはない特徴
・あくまで「金融入門」であって「金融政策入門」ではないが、グローバルに広がった金融システムの全体像を理解するための一冊としては面白いし、それが理解できてようやく金融政策の意義も理解できると思われる
5. 翁邦雄(2013)『日本銀行』ちくま新書
◆選書理由
・元日銀の中の人として、中央銀行の歴史や役割から話を進めていく。(2の本では5の著者が名指しで論評されるページもあった)
・前半は近代経済史(海外、日本)といったところがメインなので読み飛ばしてもいいと思うし、興味があれば一種のノンフィクションの読み物として面白い部分でもある(現代の金融政策からは遠く離れるけれど)
・中盤以降は経済環境や社会状況の変化に対して日銀がどのように向き合ってきたかを、バブル期以前以後を境目に概説していく
・とりわけ後半は経済危機やデフレへのアプローチ、財政と絡めた話なども多い。
・金融政策を理解するためには財政政策とセットで理解する必要があるので、このあたりへの目配せは実際に日銀の中にいた人としてぬかりない印象
・最後には刊行当時始まったばかりのアベノミクスへの言及も
◆まとめ
・教科書として読むなら1がおすすめ
・入門書としてのおすすめは1,2
・好きなのは2と4と5
・3は時事的な話題が多すぎて金融政策を入門的に理解するには向いていないが、時事的な話題から金融政策と財政政策に入門したい場合は手に取って良いかも
※上記の内容は2020年2月に作成した(2021年8月に一部改訂/2022年9月に原文の趣旨を維持しつつ二訂)。
このブックガイドを作成したのは2020年ですが、その時は新型コロナによる経済的な波及効果(もちろん悪い意味で)に対する金融政策や財政政策(orマクロ経済政策)を考えるためでした。他方で今年はウクライナ戦争による物価の変動と為替の変動についてのニュースや議論が日常的になっています。
ただ、2年前がそうであったようにそもそも金融政策を理解している人はあまり多くないのでは(そもそも金融政策と財政政策は相互に関連はするものの全然違うこととか)と感じたので、改めていったん金融政策入門という形で復習しておくのは重要かなと思い、ブックガイドをアップしました。
入手しやすいようにということであえて新書を並べています。1を除く4冊はすべてkindleで入手可能。学習のためにはある程度分厚い入門書がいいと思いますが、とっかかりやすさを重視した選書にしました。
1. 日経新聞(2020)『金融入門 第3版』日経文庫
◆選書理由
・今回紹介する本で最も入門的かつ教科書的
・2020年3月に第3版が出たので選書の中では情報が一番新しい
・金融政策の前に金融とは何かの理解から始まり、金融業界の話や為替、株価、金利についての解説などなど
・「金融入門」であって「金融政策入門」ではないので政策とはさほど関係ない話(一般の銀行の話とかフィンテックとか)も多いが入門書かつ教科書的な構成なので、5冊の中では一番とっかかりやすい
2. 湯本雅士(2013)『金融政策入門』岩波新書
◆選書理由
・特定の立場に取ることはなく、かつ教科書的になりすぎないようにアメリカや日本の具体的な政策、経済の動向に言及しながら丁寧に論を進めている印象
・専門用語に頼りすぎずに文章を書いている。次第に用語の出番が増えていくが、序盤に丁寧に解説しているので読みやすい。日本銀行券ってそもそも何?というあたりから話を進めているのも入門的で良い
・入口は入りやすいがいったん入ると内容は分厚く、マクロ経済学的な数式やグラフも多々登場する。このあたりは経済学部生向けな気がするので、難しいと感じるところは読み飛ばしてもよい
・伝統的金融政策(ケインジアン、マネタリスト)と現代的な非伝統的金融政策(金利を誘導するようなオペレーションや量的緩和政策)の特徴や意義についてそれぞれ時間をかけて解説している。実際の金融政策を理解する肝でもあるので、この部分だけしっかり読むのも良い
・インフレとデフレの特徴と功罪、それぞれにどのようなアプローチを中央銀行は行っているのか(いくべきか)という話もかなり時間をかけて行っている
・あとがきから読むのもいいと思うし、参考文献リストがあるのも良い
・2013年刊行なので少し昔の話が中心だ(2000年代の日銀やFRBの話が多い)が、始まったばかりのアベノミクスへの言及もあり。
・3の本がわりとポジショントークをしているところがある(放漫な金融、財政に対して批判的なスタンス)ので、その分2の本はバランスがいいなと感じる
3. 熊倉正修(2019)『日本のマクロ経済政策 未熟な民主政治の帰結』岩波新書
◆選書理由
・比較的新しい。日銀の黒田体制、アベノミクスへの評価と疑問なども多い。
・通貨政策、金融政策、財政政策、経済政策と民主主義という流れ。最初が通貨政策なので、為替介入の是非といった特定のトピックの話から始まっているのはタイムリーだけど、教科書的には入門的ではないかも
・入門書というよりはそれぞれの政策に対する解説と評価(批評)が主といったところで、分厚いニュース解説を読んでいるような印象
・ほかの本を一通り読んでから帰ってくるには向くと思うしタイムリーな話題も多く面白いが、最初の一冊としては選ばない方がよいと思う
4. 池尾和人(2010)『現代の金融入門』ちくま新書
◆選書理由
・「入門」とあるわりには骨太なので、せめて1か2を読んでからこの本に来た方がいいかな。昔一回読んで今回読み直したけどやはり難しい
・内容は確かに入門的(大学の経済学部生レベルという意味で)かつほかの本と比べても最も理論的
・読み応えもあり、大学の講義を1クール分受けている印象を持った。新書でこのボリュームは単純にすごい
・1の本のような金融の個別の制度の解説ではなく、制度やルールを利用して各プレーヤーがどのように行動しているか(=金融システム)の解説や分析が主。このあたりの問いの立て方や着眼点は経済学者的
・2010年刊行と今回紹介するにはやや古いが、リーマンショック後まだ間もないころでもあり、バブルはどのように起きるか、金融デリバティブとはどのようなものか、リーマンショックのような金融危機が起きないように、平時どのように企業の金融活動に規制をかけていくか……といった視点は他にはない特徴
・あくまで「金融入門」であって「金融政策入門」ではないが、グローバルに広がった金融システムの全体像を理解するための一冊としては面白いし、それが理解できてようやく金融政策の意義も理解できると思われる
5. 翁邦雄(2013)『日本銀行』ちくま新書
◆選書理由
・元日銀の中の人として、中央銀行の歴史や役割から話を進めていく。(2の本では5の著者が名指しで論評されるページもあった)
・前半は近代経済史(海外、日本)といったところがメインなので読み飛ばしてもいいと思うし、興味があれば一種のノンフィクションの読み物として面白い部分でもある(現代の金融政策からは遠く離れるけれど)
・中盤以降は経済環境や社会状況の変化に対して日銀がどのように向き合ってきたかを、バブル期以前以後を境目に概説していく
・とりわけ後半は経済危機やデフレへのアプローチ、財政と絡めた話なども多い。
・金融政策を理解するためには財政政策とセットで理解する必要があるので、このあたりへの目配せは実際に日銀の中にいた人としてぬかりない印象
・最後には刊行当時始まったばかりのアベノミクスへの言及も
◆まとめ
・教科書として読むなら1がおすすめ
・入門書としてのおすすめは1,2
・好きなのは2と4と5
・3は時事的な話題が多すぎて金融政策を入門的に理解するには向いていないが、時事的な話題から金融政策と財政政策に入門したい場合は手に取って良いかも
※上記の内容は2020年2月に作成した(2021年8月に一部改訂/2022年9月に原文の趣旨を維持しつつ二訂)。
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