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日常と読書日記。 受験生日記は閉幕です。







見:Amazon Prime Video
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 Amazonプライムで9月からWOWOW制作のドラマが多数みられるようになったと知り(これまではWOWOWに加入しないと視聴できかった作品が多い)、高村薫原作の『レディ・ジョーカー』が目に留まったので見ることにした。読書メーターの記録によると2011年の冬に原作を読んでいるが、ほとんど記憶をなくしているのできれいな気持ちで見てみた。このドラマは2013年の冬に放映されているが、当時は修士課程1年目のどん底の時期にあったので、このドラマの情報を得られていなかったとしても何も不思議ではないな、と思うなどした。

 話を戻すと、基本的なストーリーは原作準拠しているが山本耕史演じる八代記者など、ドラマオリジナルの配役がいくつかあるようである。吉田羊も一瞬だが記者役で出演している。とはいえ、やはり見るべきは主人公の合田雄一郎を演じる上川隆也と、「レディ・ジョーカー」の標的となる日之出ビール社長を演じる柴田恭兵だろう。

 横山秀夫原作の『陰の季節』シリーズなど、伝統的に上川に刑事役はよく似合うし、『マークスの山』でも合田を演じている。しかし、『あぶない刑事』シリーズで一つの時代を作った柴田恭兵が、犯人たちに誘拐され、その後は合田に監視されるような役をやるとは・・・! 威厳はあるが、それ以上に気遣いのできるタイプの社長という、いくらかフィクションっぽくはあるものの、事件解決と企業論理のはざまで「悩める社長」を好演している。
 
 ただ、それ以上に高村薫が描きたかったのは警察組織の複雑性と、それがもたらす非合理性なのだろう。捜査一課長の渡辺いっけいは「指揮をとること」に余念がないし、その部下である津田寛治は常にイライラしている(このイライラ役が非常にハマっている)。警察同士でコブシが飛び出したり、罵声が飛び出たりするわけで、そうした組織において果たして「チームワーク」が存在するのかというと、非常に怪しい。あるのは究極的な上意下達であり、それ以上にはならない。だから常に上からの指示で動くしかない合田雄一郎は悩みを抱えていく。自分が一番被害者と犯人を結び付けられる存在でありあがら、その権限を与えられているわけではないからだ。だから指示に外れた行動はすべて、「足並みを乱す」行為にしかならない。
 
 半田という刑事が「レディ・ジョーカー」グループにいてこれまた豊原功補が非常に好演しているわけだが、結局のところ警察組織は半田という、さほど目立った実績もなく、勤務態度も平凡とされる一人の刑事に翻弄されてしまうのである。彼の立案はことごとく「うまくいってしまう」からだ。ただ、社長誘拐時と、その後の交渉での電話口に声をさらしたことにより、半田もいずれ警察から追われる立場になってしまう。しかしながらこれも彼の中では織り込み済み、そうなっても構わないという捨て身の精神が、より警察組織を翻弄する構図にもなっている。

 組織対犯人という構図では、フットワークの軽い犯人側に有利に働く部分がこれほどに多いのか、と思わされる。だからこそ合田が取る「逸脱した行為」が犯人との差をじわりじわり詰めることにもなるのだが、警察という組織はその「逸脱」をもちろん許容しない。もう一つ、東京地検にいる加納という旧友とも合田は頻繁にコンタクトをとるようになるが、警視庁と東京地検はもちろん別の組織なので、警察組織にとって合田の「逸脱」はやはり気に食わないのである。この、なんという非合理性……!
 
 そもそもが誘拐による身代金要求や株価操作といった経済犯罪を描くドラマでありながら、しかしそうしたミステリー的な構図はドラマが進むたびに後景に下がっていく。それすら高村薫は、フィクションのための道具にするからだ。だからこそこのドラマも最終的には、スケールの大きなドラマ性よりも、ミクロな人間関係と群像劇へと収斂させていく。そもそも「レディ」とは何のことであるのか。バラバラになる道を選ぶ犯人グループは、その後どのような運命をたどるのか。事件が翻弄するのは警察組織だけでもなければ、企業人だけではない。この事件に巻き込まれた人たちすべての人生に大きな影響を与え、禍根を残す姿もこのドラマは映し出す。最後の一瞬まで、目を離せない。

 そうした、いわば「暗くて冷たい」群像劇こそが高村薫のストーリーテリングの魅力であることを、改めて思い出させてくれる連続ドラマだった。あの分厚くて重苦しい原作を、「たった7時間」で鮮やかにまとめて見せた点については高く評価すべきであり、間違いなく快作である。






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