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日常と読書日記。 受験生日記は閉幕です。





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 津村記久子原作(原作レビューはこちらから)のものとしては初めての映画化らしい本作。原作読者としていずれとは思っていたが、たまたま見かけたこのツイートも今回映画を見てみるきっかけになった。

 津村記久子が書いた原作(もともとは太宰治賞の公募作品)の大学生は「ゼロ年代前半の京都の大学生」であり、つまり就職氷河期最後の世代だったわけだが映画では「2010年代後半の東京の大学生」という転換がされていて、これは少し古い原作を映像化する上では合理的な設定の変更だろうと思った。ゼロ年代テイストで映画を作ることももちろんできただろうが、あくまで現代の青春ものとして作りたかったのだと思う。青春における傷や痛みの話として。

 主人公のホリガイこと堀貝が大学4年生にして処女という設定と、地元の県(映画だと和歌山)で児童福祉司として就職することが決まっているという設定は原作と共通している。児童福祉司は児童相談所で勤務する専門職だが映画では具体的にどのような仕事であるのかは十分な説明をしていない。これはおそらく作劇として、そしてホリガイのパーソナリティにも関わることなので意図的なのだろう。都道府県には児童相談所の設置義務がある。政令指定都市、中核市、東京特別区は設置することができるが義務ではない。

 堀貝の就職先がどこかは具体的に分からない(和歌山に戻るのは明言しているので、東京特別区と政令指定都市ではない)が一般的には県の採用試験を受けて内定をもらうことが多いはずなので、おそらくホリガイも和歌山県の採用試験を受けたのだろうと推察される。公務員試験のスケジュールは地域によってバラバラだが、県の採用試験なら夏休みの間に結果が出るのが一般的だ。そのため、映画冒頭の飲み会の時点ですでに就職の決まっている会話が成されていることから、4年の後期という青春時代のラストスパートから始まる映画だと言えるだろう。つまり、残り少なくなった青春時代をこの映画は描くわけだ。

 この短い時間に自分の生き方に対するコンプレックス(堀貝)、過去に負った傷(猪乃木)、語られなかった絶望(穂峰)など様々な痛みについての描写が続く。原作にずっと漂っている「気怠さ」もこの映画には漂っているが、それはあくまで前半までだ。穂峰の死を知るところから、物語が一気に動き出してゆく。もうすぐ大学生活は終ってしまうという意味で終わりがもうすぐそこに見えているからこそ、動き出してから終わるまでの展開はあっという間だし、怒涛のようだ。

 逆に言うと、怒涛のような日々の中でもまだギリギリ「立ち止まる時間」があるのがこの時期なのかもしれない。就職するとそうはいかなくなる。数年経って仕事を覚えたかと思えば結婚を決めていく元同級生たちのもとに出向かないといけないかもしれないし、気づいたら20代は終ってしまうかもしれない。就職して経験するスピードの速さを知っている大人からすると、最後のモラトリアムであるこの時期の時間の流れは懐かしく、貴重なものに見える。

 そんな堀貝をそばで見ていたからこそ、猪乃木も立ち止まりたかったのだと思う。原作ではもっと多くの同級生や友人たちが登場するが、この映画では友人たちとの交流は比較的限定的だ。だからこそ、堀貝と猪乃木の関係性に注目が集まる映画になっている。その猪乃木が立ち止まった理由、多くを語らなかった理由ははっきりとは分からないものの、今しかそれができないと悟ったからではないか。大学を卒業することはいつでもできるが、立ち止まって考える時間は自分で生み出すしかない。だから東京という喧噪から離れて、小豆島(!)という静かな時間を選んだのではないか。

 猪乃木と過ごした時間、穂峰と交わした言葉の記憶。自分は人としてダメなんだという、よく分からない理由で自己評価の低い堀貝をこの二人は受け止めたし、肯定していた。大学生なんてしょせんまだまだ子どもで、未熟な存在なのだ。そこから逃げなかったことを、猪乃木は評価していたのではないか。あっけらかんとしていながら孤独を抱えていたことを、穂峰は見透かしていたのではないか。そしてそうした優しさを持つ堀貝だからこそ、ヨッシーは最後に声をかけたのではないか。

 卒業も就職も、多くの人は「おめでとう」と祝うだろうが堀貝にとっては不安だらけの日々の幕開けでもある。それでも、過去の傷が簡単には言えないというつらい現実と、しかしながら身近な存在として傷を癒す手助けができるという前向きな現実の両方を堀貝は知っている。彼女はきっと苦労するだろう。でもそのたびに叫んだり、酒を飲んだりしながら、優しい彼女の優しさはきっと失われないだろうとも思う。

 後半の怒涛の展開を見ていると現実のしんどさばかりが見えてしまうけれど、最後の堀貝のまなざしがとても美しく手印象に残ったし、佐久間由衣という名前をぜひ覚えておきたいと思った。






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