見:NHKBSプレミアムシネマ
Info:filmarks/IMDb
NHKBSのプレミアムシネマ枠で鑑賞。まさに戦後80年目の8/15にふさわしい映画だと感じた
大きく分けて二段構えになっている映画である。まず8/14に終戦を告知する玉音放送の録音を取る段取りを決めないと行けないので、そのための会議があちこちで開催される。この早口会議の連続についてシン・ゴジラだ、とツイッターで書いてた人がいたが、まさにシン・ゴジラのように(というかシンゴジはこの映画をオマージュしたのだろう)めちゃくちゃ早口なおじさんたちの会議が続く。これだけを見せられていても、正直何が起きているのかわからない。会議という場で見せられるのは「意思決定の動かなさ」であり「官僚制的な手続きの重要性」である。
そしてもう一段構えは、いわゆる宮城事件という陸軍一派の起こすクーデターである。玉音放送の録音されたLDを奪還し、ついでに総理をはじめとした閣僚を拘束するという形で権力の掌握を(一時的であるにせよ)狙おうとするわけだが、そもそもこのクーデターがかなりアバウトに企画されたものであり、師団長を殺害して「偽の命令」を獲得したはいいものの、あくまで偽でしかない。陸軍大臣の命令ではないわけだから、動くのは陸軍の中の一派でしかない。
上記のNHKアーカイブスサイトでも紹介されているが、クーデターを企てた近衛兵団はエリート集団である。しかし、陸軍全体から見ると一派でいしかない。よって、宮城事件、クーデターとは言うものの、その顛末は陸軍の内部における内ゲバなのである。いわば思想的な対立、これ以上国民の犠牲を出したくないと考える天皇や内閣と違い、「亡くなった英霊のために本土決戦を」と意気込む陸軍の一派(この思想をエリート主義と呼んでもいいかもしれない)は、この戦争に関する「終わらせ方」について全くもって対立してしまうのである。
当然陸軍の中でもこの思想は主流派ではないから、クーデター派は早期決着を狙う。狙うが、非常にずさんである。統帥権を持つ天皇を師としてかついでいるのは彼らも同様のはずだが、ずさんであるために天皇たち皇族の住まう宮中に向かっても容赦ない砲弾を浴びせるのである。そんなことをして何になるのか、不敬とは思わないのかと思うが、クーデターにおいてそんなことよりはもはや意味が持たない、という光景をみせつけられる。
つまるところこの映画の狙いは、そういうどうしようも無さ、軍隊という組織のつまらなさを風刺することである。ずさんな計画のクーデターの裏側では、今日にも特攻しようと飛行機に乗り込む若い兵士と、見送る国民たちがいる。このどうしようもなくつまらない組織が、多くの日本人を死に追いやっているという事実をこの映画は見せつけるのである。
もちろん、日本人だけじゃない、中国や朝鮮やその他アジアの諸国に多くの犠牲をもたらしていることを忘れてはいけない。今日に繋がる歴史問題の起点になってしまっているわけで、戦争というものは、ある一時代の意思決定でしかなくとも、のちの時代に取り返しのつかない影響を残してしまう巨大な出来事なのである。歴史問題の完全解決は、戦後80年においてもまだまだ難しい。戦後はまだ続いてしまうのだろうと思いながら、この風刺映画をじっと見つめていた。
玉音放送を放送することになっていたNHKも、事件の当事者として巻き込まれている。その中で一人の職員を演じる加山雄三の表情というか、目つきが印象に残る。高揚する若い兵士を演じる黒沢年雄と向かい合っても、眼光鋭い加山雄三の表情がずっと焼き付く。そう考えると、この映画が8月15日にテレビ(NHK)から流れるということを、もっと噛みしめた方が良いのかもしれない。


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