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日常と読書日記。 受験生日記は閉幕です。



 『イシナガキクエ』に続いてTverで全4話が配信されているので視聴。ラストにまた謎を残すような終わり方をしたのは前作同様と言ったところだし、「番組内番組」を検証するという点も共通しているが、前作以上に「ホラー風味のある本格ミステリー」の構図を強くしたな、とは思った。前作は公開捜索番組という体をとって視聴者から情報を集めると言う形だったが、今回は逆に取材、取材、取材の連続であり、安楽椅子探偵ではなく日本各地に移動する様子が描かれているのは映像作品としてより面白い部分だったと思う。

 2004年のテレビ東京の深夜枠で放映された30分番組「飯沼一家に謝罪します」とは何だったのか、を2024年に検証しようというこれまら入れ子構造のドラマである。矢代という民俗学系?の教授が謝罪するその番組によると、日本各地の占いや儀式を調査、研究する矢代が埼玉県に住む飯沼一家を訪れて儀式を敢行。その後あるテレビ番組に出演した飯沼一家は課題をクリアして100万円とハワイ旅行をゲットするが、その後火災によって家族全員が亡くなったという。自分の行った儀式で幸運(100万円)と悪運(火災による死去)を同時に引き寄せてしまったことを自責する矢代教授が謝罪するという、それだけと言えばそれだけの番組である。

 前作同様、ここからも二つのルートが提示される。まずは矢代教授とは何者かというルート。教授本人の所在が不明のため、ゼミのOBの学生にコンタクトをとることに成功し、そこでいくつかの情報を得るがそこで終わり。そのため、このドラマの大半は「飯沼一家とは何だったのか」の解明に費やされる。飯沼一家の正体を解明すれば矢代教授との接点も分かるし、番組がなぜあのような形で作られたのかも分かるはずだ、というルートである。前作ではルート分岐までにいくらか時間を要したが、今回はルート分岐が潔い。

 つまりいったんは矢代教授の儀式と、それにまつわる呪いは置いておこうという話だ。一方で浮かび上がってくるのは、家族という呪いである。長男の明正が実は明正でなかったことが明らかにされ、さらに生存して成人した彼は何かを隠しており、取材班にも嘘をついていたことが明かされる。なぜそのような状況が発生したのか。公には借金苦による一家心中とされているが、同じ家にいたはずの明正だけが生存した理由の説明にはならない。つまり、火災の理由もまた別の可能性がある、ということだ。

 飯沼家が何だったのかについては、ピースだけは多く集まるものの生存して北海道に妻子と暮らす明正を残すと生存者がいないので、当時者の語りを聞くことはできない。その代わりに取材班が飛ぶのが、徳島である。前述したように安楽椅子探偵的だった前作とは違い、北海道や徳島など、移動が多い。トータルでわずか100分ほどのコンテンツでありながら、画面の中には様々な登場人物が現れては退いていく。共通して語られるのは、飯沼家の異常さについて、だが。

 さて、徳島で明かされるネタ晴らしことがより本格ミステリー化した今作見せ場だろう。徳島を訪れて取材班を歓待(?)する老婦人の演技も含めて、見せ場が多い。テレ東が地上波で映らない徳島に訪れた取材班をねぎらうように「Tverで見るわね」と言わせるところもまた憎いほどだ。徳島訪問の間もずっとカメラは回っているが、唯一カメラがはっきり対象を映せない場面がある。その時に取材班が何を見ていたのかは明らかにされないが、「何か異様な光景を見ていた」ことだけは伝わる。そしてそこにはまた別の呪いが、今も未だ続く形として展開されていたことが想像できる。

 明正が過去に何をしたのかもよく分からないし、家族の中でどのような立ち位置にあったのかもはっきりしない(断片的に語られる情報があるだけ)が、何をしたとしても彼を責められないと思う。彼は彼で生き延びる必要があったからだ。死にたくはなかった。そして儀式も呪いも、彼のあずかり知らぬところで起きた。明正が自責の念にかられる必要は本来なら、ない。しかし「健康に生き残ってしまった」者の責務、いわばサバイバーズギルトのような思いが明正にはおそらくある。

 「飯沼一家に謝罪します」というタイトルは、矢代教授のセリフから引用されたものだろう。しかし、彼は本当に謝罪したかったのだろうか? そしてもう一人、謝罪を試みようとする人物もいるのではないか。もし明正が火災によって亡くなった飯沼一家に含まれていたら、おそらく呪いは継続しなかった。だが明正が生き残ったことで、呪いの余韻はまだ残っている。かといって、過去はもう戻らない。起きてしまったことが戻らない以上、できることは「謝罪くらいしかない」のかもしれない。
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