Days

日常と読書日記。 受験生日記は閉幕です。

フルタイムライフ (河出文庫)
柴崎友香
河出書房新社
2013-07-26

 
 ブログで継続的に読書記録を投稿しているが、それを見たツイッターの人から、「バーニングさんはいったいいつ本読んでるんですか?」と聞かれることがたびたびある。これまでに様々な人から何度も寄せられた質問なので、いつかちゃんとまとめようと思っていた。だいぶ長く宿題にしていたので、今回この宿題に向き合いたいと思う。

 なお学生時代の友人である幻影くんも同じような質問を受け、ブログに回答を残している。自分の回答はやたら長くなったが彼の返答はコンパクトであるため、読みやすい。そちらもぜひご覧いただきたい。




 タイトルに書いたように、「フルタイム労働と読書をいかに両立しているか」を軸に書こうと思う。簡単にプロフィールを書くと、33歳の男性・独身子なしなので、同世代の多くが直面している育児時間はほとんどない(妹が帰省したときに甥っ子の相手をするくらい)。そのため、参考になる部分とならない部分があると思うが、ハウツーやライフハックというより、「あくまで自分はこのようにしている」という一つのサンプルとして参考にしてもらえたら嬉しい。また、このブログを見て自分はこうしているよ! というのがあったら積極的に教えてほしいなと思う(コメント欄をご利用ください)。

 端的に言えば、重要なのはTPPである。環太平洋なんちゃ〜ではない。Time(時間)、Place(場所・空間)、Purpose(目的)である。PはR(Reason)でもいいのだが、TPPの方が語呂が良いのでTPPにした。

◆Time(時間)の確保

 そもそも、なぜTPPなのか。これもさらに端的に説明すると「生活の中で読書のための余白を確保するため」である。仕事、家事、育児、その他もろもろ、大人になるとやらねばならぬことがたくさんあるわけだが、逆に言うと(育児の場合は少し事情が違うかもしれないが)やるべきことを終わらせることができれば余白が残るはずで、その余白を読書に使うために振り分けよう、という発想だ。読書を勉強に置き換えてもよいし、スポーツでも映画鑑賞でもなんでもいいのだが、とにかくまずは時間(T)をいかに確保するかが重要になる。

 自分にとってヒントになったのは、約20年前にインターネットで交流していた人が言っていた「毎日寝る前に1時間本を読むようにしてるんですよ」の言葉だ。彼女は自分より数歳だけ年上だったが読書量が自分とは比較にならないほどであり、ウェブに投稿する小説も非常によくできていた。当時はカクヨムもなろうもない時代なので、小規模の投稿サイトであれだけの才能に出会えたのは幸運だったなと思う。いずれにせよ、10代でこれだけのものを書くためにはそれだけの読書量が必要になるのだという、当たり前の事実をテクニカルに突きつけられたのを覚えている。

 どういう流れでこの会話を引き出せたかはよく覚えていないが、「寝る前に1時間」は習慣化しやすいなと思った。当時もインターネットでよく遊んでいたが、インターネットと読書時間の確保は相性が悪い。今の場合はスマホである。なので読書時間の確保に悩む人はまず、寝る前の時間(T)にスマホを手放してみよう。

 今の自分はこれを応用している。つまり最初は「寝る前に1時間」だったものを、長い時は3時間くらい確保できるようにしている。あとこれは少しチートになるが、待機時間が長い夜勤をやっているので、夜勤中に読書を進めることもできている。警備のバイトをしながら小説家になった人は時々いるが(ガンダムUC原作で有名な福井晴敏とか)、警備のバイトもおそらく読書家向きだったんだろうなと、夜勤生活7年目になって改めて思う。

 さらに寝る前の時間を応用し、ツイッターのスペース機能を使って「#深夜の図書室」というタイトルでオンラインの読書空間を開くこともある。このハッシュタグでは過去に読書会も実施しているが、普段は一人で本を読むための時間として活用している。スペースを開いていれば、無駄にスマートフォンを触らずに済む。何もないよりは、読書に集中しやすい。

 高松に戻ってからは自転車か自動車通勤なので、「電車の中で本を読む」ことはなくなった。ただ大学時代に最も集中して本が読めたのは、通学の行き帰りのこの時間だったなと思う。当時はまだ端末の選択肢が少なかったが、いまならKindleを持って電車に乗ればすんなりと読書時間を確保できそうだ。電車内でのKindleリーディングは、今でも旅行中に良く実施している。旅先に持っていく本はなるべく少なくしたい。なぜならば、たいていの場合旅先で新たに本を買う(そして荷物が増える)からである。

◆読書に最適なP(Place)を探す

 時間を決めることがまず大事だと述べたが、読書には時間以外に場所が必要である。なので、最適な場所を同時に探すのが望ましい。できればアクセスしやすい場所が、複数あると良い。一つの場所が確保できないときは、ほかの場所を選択すれば良いからだ。

 自宅を例にとってみても、場所はいくつか考えられる。私が読書をするのはたいてい自宅のテーブルか、もしくはベッドの上である。リビングにソファがあるのでそこを使用することもあるが、たいていは自分の部屋で寛ぎながら読むか、デスクに広げて線を引いたり付箋を貼ったりしながら読むことが多い(学術書や専門書は基本的にこのパターンである)。

 学生時代にはベランダに小さい椅子を置いて、ベランダで文庫本を持って読んでいたこともある。冬なら昼時、夏なら虫が少ない時間帯などを選べば、ベランダで読書をすることは普段と違った環境を与えられて良い。日を浴び、風を受けながらの開放的な感覚は、室内での読書の趣とは違ったものがある。

 自宅の外の場合、まず思いつくのはカフェ(喫茶)、図書館、そして職場(夜勤中)だろう。職場はやや特殊なので外すとして、お気に入りのカフェや喫茶が複数あると休みの日の過ごし方が楽しい。チェーンでもいいし、そうでなくても良いと思う。行きつけの店ができたら店主やほかの客とも仲良くなったり、会話がはずんだりすることもあるかもしれない。その中で本の話をしたり、本を教えてもらった経験もこれまで何度もしている。

 外で本を読む楽しさは、本を通じたコミュニケーションが生まれることだ。もちろんそういったものを求めず集中したいなら、静かな喫茶店を選ぶ方が良い。長居するなら、注文も少しはずんだほうが好ましい。チェーン店の例だが、テーブルが広くて長居もOKなコメダ珈琲が近くにあるとなかなか強いだろう。

 図書館では飲食が基本的に好まれないが、読書に集中する環境としては好ましい。自宅から本を持って行っても良いし、館内利用の雑誌を眺めるのも良い。土日は少し人が多くて使いづらいかもしれないが、平日休みの日に行く図書館は快適だ。高松市の場合は中央図書館の他に分館が複数あり、さらに県立図書館もあるので、複数の図書館が選択可能な環境は読書子にとっては非常に恵まれているように思う。

 また、夜勤明けに温泉を利用することが以前からたびたびある。温泉につかったあと、そのまま温泉のロビーに居座って本を読み続ける経験も何度かしている。高松の場合、仏生山温泉という温泉があるが、ここが良いのはテーブルが比較的広く、かつ平日だとロビーもあまり混雑していない。さらに回数券を購入すると比較的安価でリピートすることができるところだ。温泉内では少数だが古本が販売されており(温泉近くにあるへちま文庫が協力しているらしい)、今まで何冊か購入したこともある。温泉のロビーも自分にとっては集中して本を読める、最適な場所の一つになっている。

 読書に最適なPlaceは、どこに住んでいるかに大きく依存するため、最適解はない。むしろ最適解を自分で積極的に探すことで、街を深く知ることもまた、現実世界を生きていくことの楽しさではないかと思う。なので積極的に、最適なPlaceを探してほしいと思う。

◆P(Purpose)が何かあった方が良い。でもなくたって良い

 ただ漫然と本を読もうとしても、長続きしない可能性がある。自分の場合はとにかく積読を減らすことをPurposeとしているのでそれは果たして目的なのかと言われそうだが、理由には違いない。何かあった方が、行動に移しやすい。

 Pは何だって良いと思われる。資格を取りたい、大学や大学院に進学したい、仕事に生かしたい。あるいは、「ヴァージニア・ウルフを初期作からちゃんと読みたい」(今の私の目的の一つ。積読を増やす理由にもなっているが・・・)とか、「フェミニズムを勉強したい」とか「資産運用を始めたいけどようわからんから勉強したい」(2017年ごろの私)とか。フェミニズムや資産運用といった、特定のテーマがあると本を選びやすい。入門〜中級〜発展といった形で誰かがどこかでガイドを書いている可能性が高いので、そういったガイドを参考にしていくと良いだろう。

 なくたって良い、と書いたのは、目的がなければ読書ができないかというと、そうではないからだ。小説を本格的に読み始めたのは13歳のころで、その時のPについては昔書いたエッセイを参考にしてほしい。



 この時ジャンルや作家を気にせずに手当たり次第に小説を読んでいたのは、読書が純粋に「面白い」と感じたからだ。面白いからもっと読みたい。これ以上、シンプルなPはあるだろうか。

 大人になると小説以外の本を読む時間が増えた。仕事や試験勉強といった形で「読まねばならない」というPに起因する本も多い。そうしたPに支配されていると、「面白いから読む」というシンプルな動機を忘れそうになる。必要な本を買うお金と時間を確保しながら、「面白いから読む」ための本を買うお金と時間を確保するのは容易ではないものの、「面白いから」というシンプルな動機はなるべく保てるようにしたい。それがなくなってしまうと、読書という行為に対する思い入れがなくなってしまうようにも思えるからだ。

 読書に関心がない人にとって、本は物理的な固形物であり、部屋の空間を占拠する存在である。お金も時間も部屋の広さも必要になる。でも、それだけのコストをかけるだけの価値があることや、「面白い」という感覚を失わなければ、死ぬまで本を読んでいられるのかなと思う。

 この世界には読み切れないほど多数の本が存在する。だからできるだけ、死ぬ間際まで本を読んでいたい。健康の維持も当然重要な要素にはなってくるが、この世界のことを少しでも知ってから、別の世界に旅立ちたい。そうした思いが、自分にとっての究極的なPurposeなのかもしれない。

 あなたにとってのTPPは何ですか? まだ分からないならそれを考える、あるいは探すことから始めるのが人生において本と付き合っていく最初の一歩なんじゃないかなというのが、このエントリーで最後に伝えたいアドバイスである。


◆参考文献
読書案内―世界文学 (岩波文庫 赤 254-3)
サマセット・モーム
岩波書店
1997-10-16


読書について (光文社古典新訳文庫)
ショーペンハウアー
光文社
2015-09-25


読書と人生 (講談社文芸文庫)
三木 清
講談社
2013-09-11


読書術 (岩波現代文庫)
加藤 周一
岩波書店
2000-11-16


人生を狂わす名著50
三宅香帆
ライツ社
2019-01-25


BOOK BAR: お好みの本、あります。
眞一郎, 大倉
新潮社
2018-02-27








図書室の海(新潮文庫)
恩田 陸
新潮社
2015-05-22



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