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ホン・サンス映画14本目。バカンス映画であり、略奪愛映画であった。ビターズエンドの公式サイトによると2010年代前半に日本では他3作品と同時公開されたことが分かっている(正確な年がいつだったかは書かれておらず)が、他3つはすでに見ていたものの『ハハハ』だけが見られていなかった。今回アマプラに入っていたおかげで(提供はマイシアターDDになっている)見ることができた映画だった。
統営という小さな港町が舞台。観光地と言うほど賑わっているわけではないが、ヒロインの一人がある寺でガイドの仕事を務める程度には歴史がある町、という場所のようである。ここにやってきた映画監督と詩人の先輩後輩。二人はあちらこちらで食事をとり、会話をし、そしてロマンスをする。ほとんどいつも通りのホン・サンス映画である。そしてここで第3の男が登場する。この町で料理屋を営む母を持つ男で、カナダへの移住を予定している。韓国での仕事を辞めて、カナダで仕事を始めるらしい。その彼と詩人の後輩が同じ女性を「奪い合う」という構図が生まれて、より人間関係がややこしくなっていく映画だ。
映画タイトルの「ハハハ」は英語でそのまま"hahaha"となっているので、おそらく笑い声なのだろうと思う。この映画に登場する関係性を笑うというよりは、この映画で展開される略奪愛を一歩引いた目で見た方がよい、ということなのだと解釈している。CAに対して先輩が「本気で」向き合うがゆえに、自分の親族とも引き合わせる後半の展開には正直ドン引きしてしまうけれど、当事者にとっては本気なわけだ。愛というものは常に本気。でも第三者から見ると歪で、という構図。
でも振り返ってみればホン・サンスは一貫してそういう歪な恋愛ばかりをずっと描いてきている。自分が『次の朝は他人』や『』が好きなのは、当事者ですら「本気ではない」からかもしれない。『教授とわたし、そして映画』もヒロインの冷めた目線が通底しているので、安心して見ていられる。この映画の場合もだから、ヒロイン2人側の視点が描かれていれば違った印象を持てたかもしれない。最後に船の上で距離を取るシーンに見られるように、ただ単に翻弄される「だけ」ではないはずだからだ。
戯画化した愛の形が成立するのはバカンスという非日常だから、でもあるのだろう。最後には二つの移動するシーンが描かれる。移動することで非日常は終わって、日常に戻ってゆく。非日常だから成り立つ関係性は、日常の場面ではすぐに分解されるかもしれない。その予感をはっきりと見せる、長い移動のロングショットだった。
◆関連エントリー
・スローで退屈な前半と、忙しくておしゃべりな後半 ――『浜辺の女』(韓国、2006年)
・薄っぺらくて饒舌なだけでは ――『よく知りもしないくせに』(韓国、2009年)
・「物語が始まる」までの遅さ、威風堂々のこっけいさ ――『教授とわたし、そして映画』(韓国、2010年)
・ループするけど終わりは来るし終わらせないといけない ――『次の朝は他人』(韓国、2011年)
・まどろみとさみしさ ――『へウォンの恋愛日記』(韓国、2013年)
・海辺の風景を反復する、灯台を探して ――『3人のアンヌ』(韓国、2013年)
・何もないようで、小さな何かが起こり続ける ――『自由が丘で』(韓国、2014年)
・ヒジョンの密かな企みについて ――『正しい日 間違えた日』(韓国、2015年)
・ミンジョンというゴーストを追いかけて ――『あなた自身とあなたのこと』(韓国、2016年)
・問いを投げ続けるアルムの気高さ、美しさ ――『それから』(韓国、2017年)
・逡巡する、タバコを吸う、声を上げる ――『夜の浜辺でひとり』(韓国、2017年)
・男たちの不協和、女たちの寄り添い、そしてその後 ――『川沿いのホテル』(韓国、2018年)
・キム・ミニというユニークな変数 ――『草の葉』(韓国、2018年)
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