Days

日常と読書日記。 受験生日記は閉幕です。

グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち
ケイシー アフレック
2020-07-01


見:Netflix

 最近また眠りが謎に浅い周期に入っているのか、普段通りに睡眠してもやけに早く目が覚めることがあり、仕方ないので映画でも見るかと思ってネトフリをふらふらしていて見たのが本作。主演のマット・デイモンの出世作であり、ベン・アフレックとともにアカデミー脚本賞を受賞している。のちに『アルゴ』を監督してアカデミー作品賞を受賞するベン・アフレックはいまでは俳優というより映画製作の人と言うイメージが強いが、アフレックにとっても97年のこの映画のインパクトは大きかったのだろうなと察する。

 ボストンにあるMITのキャンパスで清掃バイトをしているウィル・ハンティングが主人公。複雑な家庭環境で育ったことが暗示されるもののはっきりとは語られず、清掃の仕事をしながら地元であるボストンの友人たちとその日暮らしをしていた。会話にはスラングが飛び交い、遊びや酒で交友するがウィルにはある隠れた能力があった。

 ある日MITの教室外にある黒板に描かれた数式の問題を解いてみせたウィルは、フィールズ賞受賞者でもあるランボー教授に「見つかってしまい」、研究の協力者としてヘッドハントされる。その後暴行事件を起こして収監中の身になったウィルは、ランボーが身元を引き受けることを条件に釈放され、保護観察の身になる。そしてそのランボーがウィルに出会わせたのが、ショーンという心理学者である。

 身元を引き受ける際の保護観察の条件としてカウンセリングをウィルに課したランボーだったが、MITの心理学者たちはことごとくウィルの性格に跳ね返されてしまう。IQが高く、(おそらく図書館で)多くの本を読んでおり記憶力も高い、しかし成育歴の影響からか対人関係に致命的な難点を抱えるウィルは、他者を信頼するスキルに欠けた存在として描写される。それでもなんとか会話が成り立ったのがMITの外のコミュニティカレッジにいた、「傷ついた治療者」でもあるショーンだった。

 また、バーでたまたま知り合ったハーバードの医学生、スカイラーとの会話が弾み、カップルの関係になる。ただスカイラーと自分の育ちの差を強く実感しているウィルは、スカイラーに対しても自分の内面をさらけ出すことができない。好きなのに、いや好きだからか、自分を選ぶべきではないと強くスカイラーに迫り、スカイラーの涙を誘う場面は非常に切ないものがあった。しかしなぜそこまでしてウィルは頑なに心を閉ざすのだろうか?

 一つは人生というものに対する意欲のなさだろう。他者に対する信頼がいつまだ経っても生まれないのは、自分の人生をこうしていこうという期待や意欲を持っていないからでもある。能力があっても意欲がないからこそ、いつまでもボストンで気の知れた男友達と生きているほうが楽である。能力を生かすような仕事は自分に向いていない、自分はこのままでいいんだ、という「現状維持バイアス」が強く働いているとも言える。

 ショーンはそうしたウィルの心証をおそらく早いうちから見抜いていた。だからウィルがショーンの心の傷をえぐるような言葉を100マイルのストレートで投げた時、激昂こそすれどウィルを完全に突き放すことはなかった。詳しくは語らなくとも、ウィルもまた強い傷を負い、トラウマを抱えている。そうした傷を癒すためには、時間をかけるしかない。もちろん時間をかけても不可能かもしれないが、我慢強く見守ろうとするショーンのまなざしは、ランボーに課された仕事とはいえとても美しいものがあった。ショーン演じるロビン・ウィリアムズがアカデミー助演男優賞を獲得したのは納得である。

 ランボーやショーンといった人生の終盤に差し掛かったキャラクターと、ベン・アフレック演じるチャッキーやケイシー・アフレック演じるモーガン、また前述したスカイラーといった同世代のキャラクターなど、これまで孤独に生きてきたウィルを救ったのは彼ら彼女らの存在である。ウィルの心を強く傷つけたのも人間だが、ウィルの心を癒したのも人間である。まさに「人は人に癒される」(『Shrink 〜精神科医ヨワイ〜』)ということ、そのプロセスを丁寧に映しとった映画だった。


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