背負いながら生きる物語の、はじまりのおわり　――『ゴールデンカムイ』（2024年） : Days

見：イオンシネマ綾川

　原作未読でアニメも見ておらず、アイヌの話と言う意外の情報はほとんどないままなんとなく見たが、思った以上に面白かったのが素直な感想。漫画原作ものの実写化はいつだって容易ではないと思うが、相当お金かけてますねそしてVFXガチガチにやってますよね、という映画であり、2時間以上あるにもかかわらず体感40分くらいで終わってしまう楽しさもあった。少なくとも映画館で見てこそ、と言う映画だろう。

　日露戦争での203高地の戦いを生き延びた杉元は「不死身の杉元」の異名を持っていた。筋肉ムキムキの身体にはあちこちに深い傷跡があり、顔にもきれいな赤い線が入っているほどである。その杉元が北海道の山中でアシリパという少女と出会う。ある事件で家族を亡くした彼女は失意のまま白いオオカミを相棒にして狩猟生活を行っていたが、金塊を探しているという杉元の意志に共鳴し、一緒に旅を始めることになる。

　背負うものがある、だから金が欲しいし戦う。それが杉元の理由だという。他方でアシリパもまた、はっきりとした背負うものがあった。アイヌに対する虐殺とも呼んでよい事件の被害者になってしまった父の遺恨を、父の狩猟技術を受け継いだ一人娘として果たしていきたい。それがアシリパの目標であり、野望である。山田杏奈はもともと好きな女優で、『新米姉妹のふたりごはん』や『ひらいて』での好演が印象に残っているが、今回はアイヌの少女アシリパと言う難しい役を演じている。

　今回の山田杏奈の演技を見ていると、上手いというより丁寧と言う評価のほうが適切だな、と思った。雪山における狩猟者としての立ち居振る舞いや、獲物をしとめる時の目力の強さがまず印象に残るが、かと思いきや故郷の村で過ごすひと時に見せる優しい眼差しもまた、アシリパという少女のキャラクターを丁寧に表現していると思える。セリフにはアイヌ語が含まれているし、アイヌ語が分からない杉元の通訳を担う場面もある。少女ではあるが、ただの少女ではない。そうした印象を持ったのは杉元だけではなく、映画を見ていた観客も同じだろうと感じた。

　杉元とアシリパの共鳴は、それぞれが家族を喪ったからという重い過去を背負っているのに加えて、唯一生き残った（元）孤児だったから、とも言えるだろう。独力で、たった一人で生きて来たということ。杉元はどちらかというと孤独を楽しめるような孤高の存在に見えるが、アシリパはそうではない。彼女の場合、「自分だけが置いていかれた疎外感」を常に持っている。人にも獣にも愛される存在でありながら、彼女はどこまで行っても独りなのである。
　
　あえて実写版の醍醐味の一つであるアクションシーンや戦闘シーンに触れずにここまで書いてきたが、そうした分かりやすい派手な演出の一方で、杉元やアシリパといった主要キャラクターの感情や背景の演出は原作未履修の自分にもよく分かるように描写されており、個人的に最も好感を持った要素だったと言ってよい。2時間かけて描かれる壮大な物語のプロローグ、いわば「はじまりのおわり」を映画館の大迫力を以て見届けられたのは、非常に幸運だったなと素朴に思っている。