見:イオンシネマ高松東
若手の櫻木優平監督が、実写映画とドラマも経験したタイトルを2024年にアニメ化というのは、正直不思議な組み合わせだなと思った。ただ四国映画、松山映画でもあるこの映画のロケーションがしっかり行われていることはよく分かる。例えば島しょ部に暮らしていると見られる悦子と姫が「松山東高校」がモデルとみられる高校に通うために、電車と路面電車を乗り継いでいるのが松山によくある風景なのだろうと思いながら見ていた。
実写は周防正行が監督し、まだ18歳だった田中麗奈が演じていくらか話題を作ったが、2024年版の本作はおそらくアニメ映画市場で見ると地味な興行成績にしかならないだろう。(見る人は見るが、多くの人が注目するタイトルではないため)。それでも、少なくとも映像部分に関しては映画館でこそ、という部分では及第点以上の出来上がりになっているアニメ映画だったと思う。櫻木監督らしい3DCGのガールズたちにさほど違和感もなく、このガールズたちにボート競技をさせるのが思いのほか「ハマっている」映画だと感じた。
控えめでクールな印象がある主人公の悦子(悦ネエ)と、幼馴染でコミュ力抜群な美人のヒメ。埼玉から転校してきた底抜けに明るいリーと、もう一組の幼馴染であるダッコとイモッチを加えた5人で、男子1人しかいないボート部を復活させて大会に出る、という筋書きの部活もの。全国目指すぞ!というほどの熱々なスポコンムービーではないが、練習風景は丁寧に描かれており、部室でわちゃわちゃするタイプの日常系部活アニメとも少し違う印象を受けた
ただ監督は日常系を意識しているようで、部活後のごはんだったり、合宿での花火やBBQであったり、あるいは花火大会や教室での一コマなど、女子高生の日常が丁寧に描かれている。言ってしまえば寄せ集めの5人にとって、「息を合わせる」競技であるボートに最初苦戦する。どうやったらうまくなるのか、どうやったらコミュニケーションが改善されるのか。そして、悦子は自分の背負っているコンプレックスとどう向き合うのか。
この5人がそれぞれの逡巡を見せる中で唯一の男子部員である隼人がどのような立ち居振る舞いをするのかに注目していた。唯一の男子部員というポジショニングを考えると、うかつに恋愛要素を入れにくい。とはいえ、何もないというわけでもないのか? というやりとりが悦子と隼人の間にある。この、何もないかもしれないが(恋愛ではない)何かがありそう、というコミュニケーションが何度か挟まれるのが、個人的には一番うまいと感じた。
要は多くの日常系部活ものは男子だけ、女子だけという形でホモソーシャルになりがちで、異性愛主義的な恋愛要素が始めから排されることは多い。同性愛的要素は残されるが、多くの場合匂わせる程度で終わり、その表現のパターンにも良し悪しがある。だが今回このアニメが取り組んだのは、女子5人+男子1人という6人の部活なのだ、という描写をおろそかにしない点だ。
最初に紹介した動画の中で、悦子を演じた雨宮天は口数の少ない悦子のセリフの差異化をかなり意識したと言う。例えば「うん」という一言だけでもバリエーションを持たせることで演じた、のとことだ。隼人の前でも同様で、悦子は口数が多くならない。隼人も隼人で、悦子の深いところには入り込まない配慮を見せる。この優しさが、女子5人のガールズトークの中で見せられない悦子の心をとらえる瞬間があったのがとても美しいなと思ったのだ。
映像が本当に美しいアニメなのは間違いない。それでも細やかな感情の描写を怠らなかったことで、傑作とはいいがたいまでも秀作として完成しているのがこの映画だと思った。惜しい点としては、ライバル校の女子たちがあまりにもあっさりと描写されていることとか、顧問が何者なのかも深く書かれない点など、尺の都合も考慮するとややもったいない部分はある。それでも、全体として「2020年代の松山の青春」として自然に想像することができる程度には、アニメの映像ではあるがリアルな描写に寄せている点がとても気に入っている。
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