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日常と読書日記。 受験生日記は閉幕です。



 確か11話か12話だったかと思うが、種を蒔くという表現があってこれは高校生活3年間を描ききったこのシリーズにふさわしい表現だな、と膝を打つ気持ちにさせられた。2015年の春クールに開始したこのアニメシリーズが、2024年の春クールに完結。間に2019年夏の放火によるあまりにも悲しい事件を経験したことを思うと、数字以上に長い年月だったのかもしれない。放映以前の制作段階から踏まえると最低でも10年、企画段階も踏まえるとさらに1,2年は要していたのではないかと想像ができるからだ。北宇治高校吹奏楽部に種を蒔き続けたのは黄前久美子や高坂麗奈や滝先生だけではない。すべての関係者がいてこそだ、と強く思う。

 さていったん制作の話は置いておいて中身の話に移りたいが、『響け! ユーフォニアム3』というシンプルなタイトルにしたことも含めて割と狙いがはっきりしているなと感じた。これも11話だったかと思うが、高校生活トータルでも3回しかない大会のために全精力を投じるし、メンバーは毎年違う。部活と考えればそういうものだとも言えるけれど、毎回メンバーが入れ替わるのに同じ名前で演奏をするわけだから、確かに不思議なものでもある。逆に言うと、3回のチャンスが常にあるわけで、3回の反復が要求されるとも言える。

 その反復の難しさを部長としての黄前久美子の目線で表現したのが、3の前半部分だったのだろうと思う。新1年生を迎えた時の難しさはすでにさっちゃんとみっちゃんの二人を招いた時の困難さや、月永求や久石奏といった「実力のある個性派」の後輩を迎え入れる難しさとしてすでにアニメでは描かれていた。今回は1年生との対峙だけではない。黒江真由という、文字通りの黒船を原作者の武田綾乃は用意しているのである。転校生、3年生、しかも同じ楽器のユーフォニアムという設定で。

 反復とその困難さ、それは黒江真由と黄前久美子の「一騎打ち」が演じられる12話に当然繋がっていく。原作にはない展開を持ち込んだという意味で当時のインターネットがざわついていたのを覚えているが、これもまた反復、つまり1年生だった高坂麗奈と3年生だった中世古香織の公開一騎打ちオーディションを容易に想像できる。そしてこの時の経験があったからこそ、ブラインドオーディションにしてほしいと久美子は意思表示する。



 久美子の本音の部分は「麗奈と吹きたい」だろう。それは当然、黒江真由にも見透かされていたわけだ。だが、真由自身もまた、自分の思いを隠したままでオーディションに臨んでいた。その「隠していたという事実」を、久美子に見破られる。私の前で本心を隠しても意味がないよ、そしてフェアじゃないよ、と。久美子の推理に対して真由は「塩を送った」と表現したが、これこそが久美子にとって重要なのは「公正さ」なのだろうと感じた。そしてこれは副顧問である松本との間でも共通する信念だということも明かされる。そしておそらく滝先生とも通じる信念だろう。

 「公正さ」は「公平さ」を必ずしも意味はしない。ロールズ的な「公正としての正義」を今回のオーディションに当てはめるならば、「立場によらず、より多くの人が納得する形式であるかどうか」だ。大会ごとの複数回オーディションは部内に波風も立てたが、終わってみると分かりやすい結果が出るという点で「公正さ」の確保につながった。その延長線上に、久美子と真由の一騎打ちもあると考えた。結果として12話の構成は、まるで映画を見ているような迫力に満ちていた。原作者も含めてこの12話を驚きとともに祝福していた光景も含めて、とても美しいものだったと思う。原作の完結まで同伴できるテレビアニメなんて、そう多くはないのだから。

 約10年間の制作期間と、3年間の作中期間。当然演じてきた声優たちも10年分の歳を重ねている。あちこちで耳にする彼女たちの感慨も受け止めながら、2024年にたどり着いたクロージングを抱きしめたいと思う。一人のファンとしてここまで歩みを共にできて本当に良かったと、10年間の結実に強く強く感謝したい。

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(2019年8月23日撮影@京阪宇治線六地蔵駅ホーム)
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