Days

日常と読書日記。 受験生日記は閉幕です。



見:Netflix

 タイトルだけを見ると濡れ場が多かったりとかセクシーなシーンが多いのかと思ってしまうが、実際は全然そうではなかった、というのがまず一点。元々は山崎ナオコーラが文藝賞を受賞したデビュー作が原作になっていて、ナオコーラが人のセックスを笑うな、と思った時の対象は同性愛だったらしい。なのでヘテロセクシュアルな恋愛を書くこの映画とはまたいよいよ関係ないのだけど、笑うな、と言われても笑ってしまうようなほほえましいシーンが多く散りばめられているのは、女性監督である井口奈己の憎い演出、といったところだろう。

 あらすじだけを見ると、たまたま出会った年の離れた男女の恋愛映画かと思ってしまうが、ここにもまたミスリードがある。19歳のみるめ(松山ケンイチ)と、39歳のユリ(正式な名前はサユリ、永作博美)は出会って間もないころから互いに惹かれあっていく。二人が「絡む」シーンはどちらかの家であることがほとんどで、外にデートに行ったりとかごはんを食べたりとかはほとんどないし、タイトルにセックスとあるがホテルにもいかない。

 二人はリビングに現れると着ている服を脱いでそのままキスをしたり、布団にはいってお互いの体を触りあったり、全部脱ぐことはないがとにかくイチャイチャしているシーンが多い。そしてこれらのシーンは、ほぼすべてロングショットである。どんな些細なやりとりの間も、カメラはずっと回っているのだ。電気を消したりつけたりを繰り返すことだとか、空気を入れて膨らませるタイプの簡易ベッドを、空気入れを使わずに息でふくらまそうとするユリをみるめが「こどもみたいだな」「こどもに言われたくない!」というかけあいをするシーンなども、ずっとカメラは回っている。

 映画にはもう一組、みるめと同じ専門学校に通う蒼井優と忍成修吾が演じるカップルも出てくるが、こちらの関係はややぎこちない。だからだろうか、蒼井優がイライラしているシーンがすごく印象に残るのだ。蒼井優演じるえんちゃんはユリが実は・・・であることをみるめより先に知ることになるのだが、その気持ちをみるめにぶつけるときの表情やセリフがとても印象に残る。あくまで永作博美と松山ケンイチのための映画のようにも見えるが、それだけだとあまりにも世界が狭い。えんちゃん演じる蒼井優の持つかわいさは、この映画にまた別のアクセントをつけている。

 最近見た『寝ても覚めても』ではないが、基本的に奔放に生きるユリは柴崎友香の書くヒロインがダブる。どこまでも素直で正直で、みるめのことを触りたくなったから、という理由で恋をしてしまいながら、それでも二人の間に別れも訪れるということに自覚的になっているキャラクターだ。この映画のあとに、もしかしたらまた二人は再会するのかもしれない。けれど、いとしい日常はずっとは続いていくわけではないんだなとか、冬はやがて春になるんだなとか、いろいろなことを考える。

 まだ若いみるめにとっては、若いころの一つの恋でしかないかもしれない。でもユリにとっては、実はいろいろなものを賭けていた恋だったのかもしれない。率直な思いを言う代わりに心の底を見せないユリではあるが、それも含めてなんて魅力的なキャラクターなのだろうと思うし、そんな一風変わったアラフォー女をのびのびと演じた永作博美がほんとうによい。そして松山ケンイチは、この当時はこんなに体の線が細かったんだな、ということも再確認した。もちろん蒼井優のかわいさも、映画の中でならずっとこのときのまま記録されていく。いまならアマゾンプライムとネトフリで、その尊さを見られるぞ!!




人のセックスを笑うな (河出文庫)
山崎ナオコーラ
河出書房新社
2013-02-15

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