見:U-NEXT
Info:filmarks/IMDb/Letterboxd
U-NEXTにて。こーしんりょーさんがブログで書いているように、そしてドライバーのおじさんが語るいくつかの不満めいたセリフからも想像できるが、映画館で見ていたらまた全然違った体験ができただろうなと思う映画だった。しかしながら映画館には間に合わなかったのでなんとかシチュエーションを作ろうと思い、全編ではないが夜のドライブをしながら見たシーンに味わいがあったことは記しておきたい。
原題は"daddio"で、daddyのくだけた言い方とのことだが「おじさん」という訳も出て来た。これにはおそらく二重の意味合いがある。一つは、ショーン・ペン演じるおじさんタクシードライバー。おじいさんと言っては申し訳ないだろうが、もう60歳は過ぎていてもおかしくない風体のドライバーであり、「よく喋る」ドライバーである。しかしこのウザさが映画の構成の中で生きてくるのも面白い。そしてもう一つは、客として乗りこんだダコタ・ジョンソンのメッセージ相手の「おじさん」だ。とはいえこの映画に登場してセリフを持つのはこの二人だけ。メッセージ相手の「おじさん」は終始不在のまま、しかしテキストメッセージだけは「饒舌」なため不在のわりに存在感を持っている。
いずれにせよ、エンドロールをのぞくと約90分がタクシーの車内だけで繰り広げられる会話劇である。すんなり走ればもっと短縮できたのだろうが、途中で事故渋滞が起きて車が完全にストップしてしまう、というアクシデントを入れ込んでいるため「90分リアルタイムのロングドライブ」を観客も味わうことができる仕組みになっている。良い映画の基準として、映像美、ストーリー、演技と演出のベストマッチなどが挙げられるだろうが、この映画はいずれの要件も満たしている稀有な映画だ。
まず映像。舞台がタクシーの中なので構図はほとんど変わらない。そのため、変えられるのはどの角度から撮るか、くらいでしかない。だからこの映画は映像を固定にはせず、頻繁に動かす。ドライバーから客を見る視点もあれば、その逆で客からドライバーを見る視点もある。客が無言で窓の外を眺めたり、スマートフォンに届いたメッセージに応答したり。映画の中で生まれるわずかな変化を、逃さずにキャッチしようと努めている映像だ。この映像作りができているからこそ、「リアルタイム感」を創出できている。
演技と演出という点で優れているのは、客役のダコタ・ジョンソンだ。100人が100人認めるであろうブロンドの美人で、仕事のできそうな自信に満ちた自立した大人の女性の表情を見せる時もあれば、窓の外を眺めたり、スマートフォンの画面をみつめたりしながらアンニュイな表情を見せる時もある。そして、ふとため息をつく時もあるし、ドライバーであるショーン・ペンの会話に面倒くさそうに応じたりもする。このダコタ・ジョンソンの見せる様々な表情と声、息遣いは、まるで彼女の隣に座っているかのような臨場感がある。控えめにいってもセクシーなダコタが見せる憂いやアンニュイさは、彼女の美しさをさらに引き立てているようにも映るのだ。
そしてストーリー。会話劇である以上、会話の中でストーリーが組み立てられる。何を語り、そして何を語らないか。途中からドライバーと客の二人はあるゲームを始める。どれだけ魅力的な持ちネタを披露できるかというゲームだ。会話が少しずつ進むにつれて、ダコタ・ジョンソンがなぜ序盤に語らなかったのかが少しずつ明らかになってくる。もっとも、彼女の語る内容が事実かどうかは彼女しか知らない。だから、彼女だけしか知らなかった過去の記憶、特に父親(もう一人いた不在のdaddio!)との記憶は曖昧なままだ。
たぶん、見方によってはショーン・ペン演じるドライバーの「過剰なおしゃべり」は老害めいて見える。とにかく喋り続けるし、急なクソバイスや下ネタも辞さないし(しかし途中からダコタもそのノリにノってくる)、ダコタ演じる客の過去をとにかく聞こうとするからだ。しかし注意深く見ていると、「本当に聞きたいこと」は聞かないようにしている。聞きたいことの周縁部分、あるいは客の話せる範囲を見極めるための会話を序盤は長く続ける。だから自己開示を自分から積極的に行うわけだ。自己開示を全くしない人間に対して、客から何かを話すのは難しいから。
翻ってダコタ・ジョンソン側から見ると、彼女は誰かに語りたかった。話したかった。そうした表情を最初からずっと見せている。だから、彼女の心理状況をある程度飲み込んだ上でこのおじさんドライバーは会話を組み立てていたのだと解釈した。これが戦略的ならば非常に策士であるが、天然にも見えてしまう(だから老害っぽさも消えない)のが面白い。60を過ぎ、円熟味を増したショーン・ペンの魅力だろう。
いやしかし、前述したようにカメラがとらえるのはダコタ・ジョンソンの細かい仕草であることが多いので、ダコタ・ジョンソンという女優の魅力に取りつかれる一本もあった。とても素敵だったし、たいへんお見事でした!
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