Days

日常と読書日記。 受験生日記は閉幕です。



 あちこちでこの映画の評判を見ていただけに、香川だと宇多津(のイオンシネマ)でやってるよと書店バイト時代の先輩から教えてもらいこれは行かねばと思い見てきた。2月からやってたことなんかつゆ知らず、4月の22日には公開終了なのでパンフレット完売は仕方なかったとしてもこれをスクリーンで見られてよかったマジで、というのがすごく率直な感想。いや、ほんとうに駆け込みになってしまったけど時間作って休日の朝から電車に乗って行ってよかったです、と。

 それ以外でまずでてくるのは音楽のすばらしさで、映画が終わったあとにたとえ話を出したのだが、『ARIA』シリーズにChoroClubの音楽が不可欠でそれが素晴らしいマッチングだったように、『同級生』に押尾コータローは不可欠だった。エンディングで奏でられるガリレオ・ガリレイボーカルとのコラボ曲もまた素晴らしいが、優しいギターが全編的に漂っていなければこれほど世界観にどっぷり浸ることもなかったのではないか。

 という本編の内容に触れない書き出しから始めて見たが、中村明日美子原作という都合からか客層が見事に女性陣で、原作のファン層的には俺と同世代が少し上が大半だろうと思っていたら10代や20代前半に見える女の子たちも多くて(みんなたいてい2人か3人組で来てるあたりがなんとなくいいなと思ってしまった)思った以上にファン層の分厚さを感じる。これが関西や関東だとまた少し違うのかもしれないが、地方都市で男性が一人で見に行くのはややハードルがあるかもしれない。(もちろんそんなんのはまったく気にしない主義なのだが)

 とはいえ、というかそんなハードルを気にするのがもったいないと声に出して言いたいくらい美麗な背景とキャラデザは圧巻で、モブキャラがほとんど目立たないくらいに(あえて顔を描かなかったりとかして目立たせなくしている)主人公の金髪ボサボサ頭の草壁と、その草壁が興味を持つ佐条というメガネの優等生。なぜ草壁のようなキャラと佐条のようなキャラがいるのかという疑問はあるものの(後半で少し明らかになる)佐条がそのままでいて異質になるくらいには草壁とはギャップがある。たとえるならば『ちはやふる』におけるつくえくんのような位置づけだが、佐条はあることがきっかけで草壁と接点を持つ。それも音楽だ。

 先ほど押尾コータローの音楽が素晴らしいという話をしたが、音楽そのものがかなり重要な位置づけを持つ。バンドマンでギター弾きでもある草壁にとって音楽は放課後の生活を彩る重要なものだし、友人とのつながりを保つものでもある。佐条にとって音楽は遠く縁のないものだったが、冒頭に挿入される合唱祭へ向けての練習で黒板に書かれた楽譜がうまく見えなかった佐条は、放課後の教室で一人で練習しているところを草壁に発見されるのだ。一瞬引くような動作を見せるものの、佐条に対して自然に入っていく草壁に対して佐条のほうも興味を覚える。

 こうして「付き合っている」とも言えるし、そうでもないような二人の関係がオムニバス形式で続いていく。60分しかない映画の中で高二の夏、秋、冬、そしてもう一度くる高三の夏という4つの季節を描いて見せるのだから内容的にはかなり圧縮しているのだろうと思うものの、逆に草壁と佐条の二人の関係性に焦点を当てるところで分かりやすくメリハリがきいているのは演出としてうまい。一つ一つのシーンもあまり長く引っ張るところはないが、二人だけのシーンはかなりじっくりと描く。この方法はBLを映像化するにあたって参考になるやり方かもしれない。

 それにしても、二人の間にはいつも音楽が挟まっているかのように思える映画だった。出会いのとき、関係を深めていくとき、そしてライブハウスでの佐条の嫉妬のとき。音楽が流れてないかのように見える一瞬止まっているような場面も重要だけれど、関係性が一歩前に進むときにはつねに音楽が流れていた。実際に合唱で使われている曲に中村明日美子が関わっているのも、この映画と音楽の関係の重要性を認識していたからだろうか。音というのは映像メディアだからこそなせる魅力的な方法だ。『四月は君の嘘』のように、マンガでも音を多彩に表現することはもちろん可能だが、よりストレートに届けるためには映像と組み合わせるほうがやりやすい。

 原作に続編があるということは知っていたので、どのあたりでどういうオチをつけるのかだけが最後とても気になったのだが、オチに向かうまでの流れで草壁の葛藤がはさまれているのがいい。キャラ的に深くて暗いような葛藤ではないものの、草壁は草壁なりに自分自身と佐条の関係については思いをめぐらしているということ。そして佐条が常に受け身であることに対するいらだち、など。思いの空回りと言ってもいいようなシークエンスに入りながらも二度目の夏はあまりにも優しい奇跡を残してくれる。佐条にとってはなかなかにたまらないのではないか。そしてその佐条の安心は、草壁にとっても欲しかったものだ。

 せっかくならば公開を冬ではなく夏にすればよかったのでは思ってしまうほど最初と最後の夏の鮮やかさが印象に残る。しかし公開が冬ならば円盤が夏、というところを逆手にとって、またじっくり見返してみたい。暑い夏の、蝉の鳴く「音」が大きく聞こえるような、そんな部屋の中で。

同級生 (EDGE COMIX)
中村明日美子
茜新社
2013-07-05



卒業生-春- (EDGE COMIX)
中村明日美子
茜新社
2013-07-05



卒業生-冬- (EDGE COMIX)
中村明日美子
茜新社
2013-07-05



O.B.1 (EDGE COMIX)
中村明日美子
茜新社
2014-12-10

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