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日常と読書日記。 受験生日記は閉幕です。



見:Amazon Prime Video

 毎度おなじみアマプラもうすぐ終了コーナーで見かけたので見てみた1本。92分と長い映画ではないのだが、その中で主人公のレイの性別移行における様々な困難さを取り扱っている。もともと原題も"About Ray"だったようだが、アメリカでの公開のタイミングでは"3 Generations"という風に変わっている。日本でも2016年の公開が予定されていたが、どういうわけか中止になったらしい。このテーマの映画なら知っておいておかしくないが、自分が知らなかった理由はおそらく公開中止が一つの要因だろう。

 とはいえ現在では配信サイトで見ることができる(Amazon以外ではU-NEXTでも視聴可能)わけだが、日本語サブタイトルの「16歳の決断」はあまり好ましくない。原題である"3 Generations"とは意味するところが遠く離れてしまうからだ。なので原題に沿った形で説明すると、あくまでこの映画は「性別移行」をテーマとはしているものの、その当事者(エル・ファニング演じるレイ)を含む家族3世代を巻き込んだ形で展開している。だからレイは主人公とも言えるし、言えないかもしれない。それよりも、レイの母マギー、そして祖母ドリーを含めた3人が主人公だと捉える方が適切なように思える。

 とはいえ90分足らずの中で性別以降という複雑で繊細なテーマをぶちまけるのはかなり難しいと感じた。ただ、90分という時間の制約をうまく利用しているとも言える。それは当事者であるレイの内面に「踏み込みすぎず」に、むしろその外側を描いているからである。だからこそ前述したようにサブタイトルの「16歳の決断」はどう考えてもおかしい。性別違和は4歳の時から、というシーンもあったように決断は既に、とっくの昔にしているはずだからだ。この映画のテーマは決断というより、手続き的な複雑性を描く所だろう。

 シングルマザーの母だけでなく元父や同居する祖母を巻き込んだ心理的な複雑性、そして未成年が性別以降のための治療をするには両親のサインが必要だという医療制度的な複雑性。大きく分けてこの二つの複雑性に挟まれて逡巡するレイとマギー。二人はどのような思いでこれらの複雑性を経験し、克服するのかが中心的なテーマだったと感じた。

 マギーはシングルマザーで、一人娘であるレイを育てていたが、同時に性別違和に長く悩む彼女をサポートし、医療にもつないできた。そして16歳になったこのタイミングでレイの性別移行を制度的に進めようとしている。マギーの言葉を借りれば、「一人娘を育ててきたが、これからは一人息子を育てる」という決意を強く持った状態だ。

 祖母であるドリーも同居しているが、ドリーはレズビアンであり、そのパートナーとも同居している。ドリーとレイは、世代の異なる性的マイノリティというわけである。レズビアンであるドリーにとって「女性であること」は非常に重要であるから、「女性ではなく男性として生きたい」と強く願うレイに対してやや冷ややかな目線を浴びせることもある(「なぜ普通になろうとするの?」という問いかけなど)。ただそれは、レイの生き方を全否定しているわけではなく、あくまで「自分には理解できないけれど」という正直な留保を投げかけているだけなのだろうと感じた。

 少し前からChatGPTとよく映画の話をするのだが、このドリーとレイの関係性を「違う世代のフェミニスト」だね、と指摘したところ、GPTが「フェミニズムの地層みたいな関係」と評していて、これはなかなか言い得て妙だなと感じた。レイと比べてドリーが古い世代であると言うのは簡単だが、この二人において重要なのは、二人とも歴史の地層の上に生きている、という解釈をすべきだということなのだろう。

 ドリーの生きた時代では異性愛者が中心の社会でレズビアンが排除・差別されてきた経験が共有されていた。第二波フェミニズムの中でもレズビアンが分離、排除されてきた歴史は多くの文献で語られている。逆にだからこそ、「女として女を愛すること」の困難さと価値を感じて来た世代というわけだ。

 逆に第三波フェミニズム以降の世界を生きるレイにとっては歴史は歴史、過去は過去である。男とか女という区分よりも、「自分らしくいたい」というアイデンティティが重要な価値だと思っている。しかし、それ以前のフェミニズムの歴史の地層(第一波〜第二波)がなければ第三波以降のカテゴリーではなくアイデンティティを重視する価値観は生まれてこなかっただろう。その意味において、「地層」という表現が面白いなと思ったのだ。

 同時に、フェミニズムの「地層」の中には当然異性愛者の女性たちも多くいるわけで、マギーという異性愛者のシングルマザーはドリーとレイに挟まれる形ではあるが、だからこそ彼女のポジショニングが際立っている。彼女の場合は良き母親でいたい、というシンプルな情熱と責任感が支えになっている。それしかないと言っても良いかもしれない。だからこそ、「一人娘の母」から「一人息子の母」へと、彼女もまた「移行の途中」なのである。

 二つの複雑性に挟まれながら、でもだからこそ地層の存在を誰もが認識している。心理的な移行は誰にだって容易ではない、それは当事者であるレイですら例外じゃない。でもその容易ではないこと、難しいことでも時間と情熱を注ぐことができれば達成可能ではないか。この映画はそうした心理的な戸惑いを抱えるキャラクターたちの、「途中」の物語なのである。

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