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日常と読書日記。 受験生日記は閉幕です。



見:U-NEXT
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 U-NEXTから毎月付与されるポイントの期限が近づいているため見た一本。ソレイユで見ようと思ったが見逃したシリーズでもある。自閉症という題材も気になったし、ドイツを舞台にしていることもあり、ブンデスリーガが大きく取り上げられるのも気になっていた。

 映画の大筋としては自閉症の男の子とその家族(両親と祖父母)に焦点を当てたホームドラマでありつつ、同時にブンデスリーガの各チーム(3部リーグまで合わせて全56チーム!)のスタジアムを巡るという、なかなかこう自閉症キッズ的なストーリーの構成である。なお、「実在の」ジェイソンは現在大学生であり、チューリッヒの大学で物理学を学んでいるとのことだ。



 序盤はジェイソンが学校で苦しみ、馴染めない姿が描かれる。ついつい宇宙の真理について話してしまうジェイソンを、クラスメイトは「ガリ勉だ」と嘲笑する(そして一人の子どもの手を踏んでしまう)。あるいは、宗教の授業で神話を語る教師に対して、非科学的な陰謀論だとケチをつけてしまう(そして両親が学校に呼ばれてしまう)。いずれにせよ、自閉症者の社会的適応の難しさを露呈する場面である。その後両親は特殊学校(日本で言う特別支援学校だろう)に行かせるかどうかを議論するが、そうさせたくない母親の意思は固く、対立してしまう。

 そんな中、好きなサッカーチームは「ゆりかごの中で決まるんだ」とクラスメイトに言われたのに、自分が好きなチームを持ってないことにジェイソンは気づかされる。そこで思いついたのが、好きなチームを作るための提案だ。毎週土曜日に、ドイツ全土をまわって「推し」を作るのがジェイソンの新たな目標になり、父ミルコの日課になる。母と子という、障害児のケアにおいてある種あるあるの構図を脱することにもなることから、ドルトムントの熱狂的ファンである母は父子二人による土曜日の小旅行の提案を快諾する。

 ホワイトボードにぎっしり書かれたチーム名を1つずつ消去するために、父ミルコと息子ジェイソンは本当に毎週の土曜日になるとスタジアムに出かけるのだ。ブンデスリーガでは金土日に試合が行われるが、土曜日の開催がもっとも試合数が多い、だから「毎週土曜日」という設定は自閉症者にとって重要だ(スケジュールは固定されている方がよい)。そして、好きなチームをすぐに決めるのではなく(母が好きだからドルトムント、とはならない)、自分の目で見て決めるんだという姿勢をポジティブに描いているのも良い。

 つまりこの映画は、「現実との折り合いの付け方」を実践的に学んでいく映画なのだ。教育的にしようと思ってこうなったというよりは、たまたまジェイソンとその家族の歩みが教育的な題材にふさわしい、と考えるべきだろうが、いずれにせよ「周りが押し付けない」ことや「自分で決めること」といった自閉症者にとって生きる上で重要なTipsにあふれている映画である。

 そもそも父親と「サッカーの試合を見る」と言ってもジェイソンにとっては簡単なことじゃない。スタジアムではいろいろなことが起きる。まず音がむちゃくちゃうるさい、得点のあとになぜか水がふってくる、あるいはあまりにも汚いトイレ……といった不確定要素に満ちている。自閉症者と不確定要素はもちろん相性が悪いが、かといってそれらを排除するのも非現実的だ。つまり、これはジェイソンが「不確定要素と出会う」ためのレッスンであり、出会ったあとの調整のレッスンでもあるのだ。

 この映画はホームドラマであると同時に、家族以外の人の関わり方も教えてくれる。バス停のおばあさん、意地悪なクラスメイトのような対応が難しい人もいるが、ミルコの上司やスタジアムで出会う陽気なおっさんたちのように、ポジティブな関わり方を見せてくれる人もいる。「合理的配慮」という概念が日本でも少し前から法制化されたが、「合理的調整」のほうが望ましいのではないか、という指摘があちこちから出ている。



 この映画は、最初は周囲の人による「調整」がメインだが次第にジェイソンが自分自身で「調整」を覚えていくプロセスを描いている点に特徴がある。タイトルに挙げた「楽しむには我慢も必要」もジェイソンの言葉で、ドルトムントの中でももっとも熱狂的な南スタンドを経験した後に出て来た言葉だ。自分で選択する、経験する、そして自分で調整する。この3つのステップを繰り返す中で、自分がやっていることはただの繰り返しではないことをジェイソンは自然と学んでいくのだ。

 この映画を通じて"Akzeptanz"(受容)と"Unterstutzung"(理解)が広まればいい。そして、サッカーを見るためにスタジアムに行くことがとても楽しいことだと広まればいい。バイエルンやドルトムントといった世界的なビッグクラブから3部や4部のチームまで、この映画に登場するあらゆるチームとその関係者が協力的でなければこの映画は完成していない。そうした、ドイツのサッカー界が見せたタッグもまた、この映画の大きな魅力だ。


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