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日常と読書日記。 受験生日記は閉幕です。

 2000年に放映されたこのドラマを何回見たか正確には覚えていないが、前回は中学生の時の再放送だったと思う。その後恩田陸の原作と、外伝である「図書室の海」も読んだがそれ以来17年以上は経っているので内容はほとんど忘れた状態で『六番目の小夜子』を見て感じたのは、ああ改めてよくできているなという感想だ。ありきたりではあるが、このありきたりなところも含めて恩田陸の、とりわけ彼女のジュブナイルの巧さだと感じる。

 恩田陸にとってファンタジーやミステリーを学園ドラマに導入するのは、少なくとも当時ではおなじみだった。1992年に今は懐かしき新潮社ファンタジーノベル大賞で最終選考に残った『六番目の小夜子』が出版された後も、『三月は深き紅の淵を』や『麦の海に沈む果実』などのファンタジー色の強い(オカルト寄りとも言える)小説を複数発表している。『六番目の小夜子』自体は2000年にNHKによってドラマ化されたことによって火が付いた作品だと言ってよいと思うが、この小説もオカルトに寄せながらそれは実はトリックに過ぎないことを、2021年に見返すとひしひしと感じるのだ。『六番目の小夜子』は純粋な群像劇であり、学園ものだったことがよく分かるようになった。

 もちろん当時はキャラクターたちと同じ中学生目線で見ていたからでもあるだろう。今は逆に大人の目線で、彼ら彼女らの危うさを生暖かく見守ることができる。その上で実感するのは、ドラマオリジナルキャラクターで、鈴木杏演じる潮田玲のキャラクターである(元バドミントン選手の潮田玲子と一字違いなのも、いま振り返ると面白い)。この彼女がオリジナルでありながら主人公として物語をガイドする役を務めていることが、徹頭徹尾うまくいっているなと感じたのだ。

 山田孝之演じる関根秋、栗山千明演じる謎の転校生津村沙世子、そして松本まりか演じる学級委員長の花宮雅子は、いずれもクセが強い。強すぎるくらいに強い。だから彼ら彼女らは、それぞれの形で「六番目の小夜子」ゲームに興じていく。8話&9話の文化祭編では演劇が作中作として上演されるが、ゲームに興じる秋や沙世子、雅子(まー)も、演劇的なキャラクターだ。彼ら彼女らの語りは常に信用することができない。ただ、主人公である潮田玲だけは信頼できる。彼女なら、裏表のない、直情的だけど素直で明るいキャラクターを以て、物語を動かしてくれるはずだと視聴者は実感できるからだ。

 秋や沙世子が主役を務めてもこのドラマは成立したと思うが、それだとサヨコ伝説にまつわる謎解きが主軸になってミステリー色が強く出すぎてしまうおそれがある。そこを潮田玲という、本人曰くどこにでもいる女の子ではあるものの、どこにでもいる女の子だから共感を集めやすいし、作中でも信頼を集めている。彼女だから、秋や沙世子や雅子のいずれとも仲良くなれる。

 くしくも物語の後半は中学生にとってのアイデンティティの揺らぎにシフトしていく。玲のいくつかのセリフは、『花咲くいろは』や『響け!ユーフォニアム』のようなジュブナイルアニメの傑作を思わせるほど、年代特有のきらめきと不安に満ちている。サヨコ伝説においても「扉」というのが一つキー概念になっているが、ああなるほどこれもまたうまいなと感じた。アイデンティティの揺らぎを自覚して、苦しんで、そしてそれを他者と分かち合ってようやく、扉は開かれる。

 ミステリーめいたトリックに騙されずに(それ自体も面白いものではあるのだが)キャラクターそれぞれの友情や成長譚として純粋に楽しむことができるのが改めてこのドラマを見返す面白さだと気づいた。そして玲と沙世子の間に生まれる特別な関係には、百合みを覚えてもいいだろう(当時は百合という概念を知らなかったので)。平凡だけど非凡さも併せ持つ主人公と、特別すぎるライバルとの絶妙な組み合わせには、何度も『響け!ユーフォニアム』の黄前久美子と高坂麗奈を思い出した。麗奈も沙世子も、ミステリアスで美しいほどにその長い黒髪がよく似合う。

 2021年夏、まさかパンデミックの中開催される東京オリンピックを日々見つめる中、ここまでノスタルジックになれるとは思っていなかった。いやはやNHK恐るべしである。


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