Days

日常と読書日記。 受験生日記は閉幕です。

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監督:池田千尋
主演:西島秀俊、加瀬亮、竹花梓

 去年ユーロスペースまで見に行こう行こうと思って見られなかった映画。今月に入ってDVD化したので早速レンタル。広く一般受けはしないだろうし、多少人を選ぶかも知れないが好きな感じの映画です。

 一言、穏やかな映画だった。多くの人が、見終わったあとに思うことだろう。BGMは要所以外はほとんどなく、ざわざわするシーンは台風のシーンくらいだろう。少し声を張り上げただけで全体にとどろいてしまう繊細さ、それを包み込むやわらかな風景(悪く言えば、さびれてしまった風景なのだけど)が面白いバランスを支えている気がする。

 目の前の嫌なことから逃げてきて、あるアパートで出会った野上(西島秀俊)、三崎(加瀬亮)、涼子(竹花梓)の三人。野上と三崎は同じ会社を辞め、野上は涼子とお見合いで知り合う、といった関係なのだがしばらくの間同じアパートで生活を始める。開かずのまである東南角部屋の部屋を見上げ、草むしりをしたりバドミントンをしたり。これからどこに向かうかが知れない三人が出会う、三人の人生の先輩たち。それぞれの人生が交錯したとき、未来は開けるのだろうか。

 設定は特に何も、というほどありふれたものだ。生き急ぎたいけど、その先が分からずにさまよう若者。自分探しというには静かすぎる展開。ストーリーだってあるようなないような。特に前半はただ淡々と三人の言動を見守ることだけに費やされる。その三人の自然体の演技、特に竹花梓がいい。派手さはないけど感情のこもった演技で、つかみどころのないキャラを好演している。つかみどころのない、と言えば加瀬亮の三崎もなかなか。西島の野上が一番演技をしているようで、三崎と涼子は演技とは思えない普通の若者の普通の生活をしているように思えた。

 設定で大きく勝負していない中で演出にはこだわりが見える。映画のタイトルにもある通り、どーんとそびえるアパートが本当の意味での主人公だと言ってもいい。野上は祖父とこのアパートと土地に関して騒動を起こすし、開かずの間の存在もあるし。それに何より何もないところでただ三人の生活が描写されるのではなく、あるシーンではアパートの前で小さくなったりするし、あるシーンでは草木が生えて狭いところでバドミントンをしたりする。ネガティヴに言えば窮屈なのだろうが、ただでさえ静かな映画を殺風景なところで撮影しても面白味はないだろう。アパートが主役だけあってアパートとその周辺の限られたシーンしか2時間弱の中で映らない。映画だけれど劇を見ているような、なんというか派手さとスケールの大きさを鼓舞するハリウッドとは対極のスタンスを持った映画であるのは確かだろう。

 三人(若者も老人)が求めているものというのもごくごくありふれている。どうすればよく生きられるか。明日を今日よりいい明日に出来るか。逃げていたり、目を瞑っていてはたどりつけない未来、それが不確かだとしてもつかもうとする努力。ありきたりな言葉で言えばそういうところで、綺麗事でもあり、見落としてしまうことなのだろうと思う。だから人は詭弁を使うのだろうし、言い訳をするのだろう、そういう生き物なのだろう。

 静かでやわらかな空気感を出し、繊細な人の心を丁寧に切り取る。ARIAの天野こずえに近いスタンスを持っている監督だと思う。若手の女性監督というのが素直にうなずける。何かもやもやしていたり、ストレスがたまっているときに少し時間を作って見て欲しい。そういう映画だ。見終わったあとににやっとするのはARIAと同じ。静かで心地よい2時間でした。
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