2019年3月の読書記録ゆったりと激しくかき鳴らす音とダンス ――RAMMELLS Mirrors release tour@心斎橋CONPASS(2019.5.9)

2019年05月02日

関係性があいまいでコミュニケーションが不足している男女たち ――『愛がなんだ』(2019年)



見:テアトル梅田

 愛がなんだ、というタイトルは角田光代原作の小説からそのままとっているが、しかしまあ、なんともこうダメ人間ばかりが出てくる映画だなと思う。正確に言えば全員が全員ダメなわけではないしまともな人がいる。ただ、あえてダメな方向に走ろうとすることをやめないキャラクターの、なんと多いことか。それはフィクションゆえだからこそ許されるものかもしれない。だってリアルな場にいたらイライラしてしょうがないからだ。

 さて、その本作の登場人物だが、主に5人、である。男2女3の5人は、それぞれはバラバラな関係であるが、ゆるくつながってしまい、関係性が少しずつこじれていく。片思いが複数あるがあらかじめ破綻しているので三角関係とかそういうのではない。ただ、「関係性があいまいな男女」が複数集まると、ややこしくもおかしいシチュエーションが生まれるのかもしれないという、角田の実験が見えてくる。(ただ、映画にするにあたって、キャラクターの関係性や登場の仕方などはややアレンジを加えているようだ。それはそれで、原作の換骨奪胎という意味では面白いと思う)

 5人はそれぞれテルコ(主人公。しがないOLを経て無職となる)、守(出版社編集)、すみれ(美術予備校事務)、葉子(出版業界)、仲原(カメラマンアシスタント)という布陣になっていて、テルコは友人の結婚式二次会で知り合った守に一目ぼれして接近するが守はさほどでもなく気づけばすみれに惚れている、という関係。テルコと葉子は友人同士で、葉子のことが好きな仲原と3人で葉子の実家に集まってごはんを食べることもある。仲原は葉子に「うまく使われている」し肉体関係もあるが葉子は仲原のことを恋人とは認めていない、というような関係だ。要は5人ともそれぞれややこしい関係であり、関係性に明確な名前はない。

 純度100%の恋愛映画とか究極の片想いという触れ込みもみたけど、個人的にはこれは結局のところ関係性があいまいなままで生きていくことはできないという現実と、それを逆手にとってコミュニケーションを要求していくことで現実を変えられるかもしれない、という一つのこれもやはり実験なのだと思う。大きなきっかけは仲原が葉子との関係に悩み、深夜テルコを呼び出して打ち明ける場面(この一連のシーンはかなり好きだ)があるが、ここでもコミュニケーションを試みているはずなのに徹底的に二人は分かり合えない。仲原の気持ちをテルコはまったく理解できないのだ。

 なぜなのか。それは仲原が自己完結しすぎているからだ。葉子の気持ちを忖度していると言ってもいい。それは結局のところ、葉子自身を愛しているとは言えない。偶像としての葉子を愛し、そして偶像としての葉子に仲原の思いが負けただけなのだからだ。

 正直テルコはずっとイライラするキャラクターとして見ていたのだけれど、その彼女が仲原にイライラしたところから、別のキャラクターへもコミュニケーションを要求していくところがいい。関係性は全然違うけれど、最近見た『響け!ユーフォニアム 〜誓いのフィナーレ〜』において、久美子が奏に要求したことに近い。奏も他人の気持ちを先回りしすぎて忖度し、自分の感情を押し殺すキャラクターだ。久美子はそれが許せないから、奏に感情の開示を要求する。テルコも同じだ。仲原に、葉子に、彼女は要求していく。

 「関係性があいまいな男女」というのはつまるところ、十分なコミュニケーションをサボっているがゆえに「あいまいな」関係というぬるま湯につかっているだけなのかもしれない。それが悪いとは言わないし、じゃあ「恋人」とか「友達」のように関係性を常に明快にする必要があるかというと、それはまた論点が違うということになる。契約自由の原則に基づけば、関係性は自由に結べばいいはずだ。ただ、いったん関係性を構築したあとに十分なコミュニケーションが行われないのなら、それは関係性が親密な(少なくともそう期待される)「恋人」関係であっても容易に破綻する。

 だからテルコは破綻させたくなかったのだ。自分の人生は容易に破綻させてしまうくせに、自分と他者との関係性や、友達と友達の関係性など、自分にとって大事な他人の人間関係を破綻させたくはなかったのだろう。その方法として正解かどうかはわからないが、テルコは自分の本音をぶつける。相手を傷つけてでも、ぶつける。相手の本音を引き出すために、自分の本音を伝えるのだ。

 テルコと守は、個人としてとらえれば平凡で面白みのないキャラクターだと思う。だから前半は退屈な場面も多かったが、後半の展開は気に入っている。特に仲原と葉子の関係性、とりわけ葉子(元乃木坂46の深川麻衣がとてもいい。自然体ながら存在感のある女性をうまく演じている)のポジションなんか、テルコにキレたくなる気持ちも含めて面白いなと思う。女の感情はとりわけ複雑だ。でもだからこそ、閉じていてはこじれるだけなのだろう。最後に葉子のとったある行動を見て、葉子というキャラクターをもっと好きになった。


愛がなんだ (角川文庫)
角田 光代
KADOKAWA
2006-02-24



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