2010年代の終わりは20代の終わりだから忘れないために書き残す2019年の映画記録

2020年01月01日

死ぬまでの生き方に向き合う ――『人生をしまう時間』(2019年)



 半年ほど前、NHKが作った安楽死に関する番組への批判を長々とつづったエントリーを投稿したが、現実の死を題材に何かを表現するというのはそもそもがセンシティブな要素を多分に含んでいると思う。死は、身近な人にとっては個人的な出来事だ。だが、安楽死にしろ、今回の映画のテーマである在宅死にしろ、誰かの死はそれ自体が社会的な関心事になりうるし、高齢者福祉や在宅医療といったくくりで見たときには社会保障政策の対象になりうる。要は、個人的であるのと同時に社会的、公共的な出来事でもあるのだと言える。




 さて、もともとはBS1スペシャルの100分番組 「在宅死 “死に際の医療”200日の記録」として制作され、この短縮バージョンがNHKスペシャルにもなり、そして今回改めてディテクターズカット部分も交えて110分のドキュメンタリー映画として完成したのが、本作『人生をしまう時間』である。監督も出演者もテレビ放映の時のものを踏襲しているし、何ならすでに見たことがある映像が多々あった。だが、初めましての人にもわかりやすいように、いままでよりもずっと「視聴者に語り掛ける」切り口を見せているなと思った。ナレーションが一切ないにも関わらず、である。

 それでもこの映画が視聴者に対して優しい作りになっているのは、小堀鴎一郎医師や堀越洋一医師を中心とした在宅医療、居宅介護メンバーの医療福祉スタッフ(ケアマネ含む)が幅広く登場しているからだろう。テレビ版では尺の都合やおそらく分かりやすさへの狙いもあり、医師の言葉と患者(利用者)/家族(親族)間の言葉のキャッチボールが流れるシーンが多かった。劇場版では小堀医師や堀越医師の葛藤にも似た言葉にも存分に耳を傾けながら、この二人を近くで支えるスタッフたちの言葉にも耳を傾けていたのがよかった。

 たとえば映画で新たに挿入されたあるエピソードでは、往生を終えた女性のベッド脇でケアマネと
家族との言葉のやりとりがしばらく映像に残っていく。ある人にとっての死は、その周辺の人も巻き込むことが多い。だから人の死は何かの終わりをそのまま意味するわけではない。「死に方を考える」とか「死に方を選択する」ところから始まり、実際に誰かが亡くなり、そしてそのあとに余韻が残される。そして余韻が終わったころ、残った人たちの人生がまた始まっていく。

 テレビ版でも印象的だった百目柿を愛する老人と、目の見えない中年の娘とのやりとりにもそうした時間の流れがよく見える。視聴者は老人と娘のやりとりをただただ見守ることしかできない。しかしそこに小堀医師がやんわり介入していき、最後の時間をささやかに演出する。でも、本当の最後の時間は当人と、そして身近にいる人だけのもの。だから小堀医師は老人の娘に言う。すぐに知らせなくてもいいから、そばにいてあげてほしいと。朝になったら見に来るから、と。

 昨年話題になった東畑開人の『居るのはつらいよ』を思い出してもいい。ただただそばにいること、そこに意味を見出そうとすればするほど、つらく苦しい。けれども、誰かがそばにいることでうまくいったり、逆にうまくいかなかったりする。誰かがいなければそのどちらも生まれえないことが、人間と人間の間には存在する。先ほどの老人はほとんど死を待つのみになっており、医療行為めいたものはほとんど何もできない。だが、柿のなる日を待ちわび、そしてその柿を誰かに渡したいという思いをくみとるためには、「ただいるだけ」の人が本当に必要だ。そして死ぬまでの日々をケアする人もまた。

 東大医学部を卒業し、そのまま東大病院などで外科医として腕を振るった小堀医師にとって、死を前提とした医療はその語り以上に葛藤にあふれていたはずだ。それでも、いやだからこそか、決してわかりやすい答えのない在宅死の現場に80を過ぎてもなお通い続けるその意気に、在宅医療や在宅死を通して人間の在り方そのものを見ようとする、ある老医師のたぐいまれなライフワークが存在することがよくわかる。

 すべての人が望んだ死を選べない現実にも、医師は実直に、そしてユーモアを交えて向き合う。社会保障政策の不十分さも要員ではあるものの、医師の語り一つ一つは本当にすぐれた、そしてヒューマニティに満ち溢れた、ライフワークそのものである。


死を生きた人びと
小堀 鷗一郎
みすず書房
2018-05-02









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