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2022年05月26日

新しい形態の犯罪者集団はいかにして暴かれたのか ――『サイバー地獄:n番部屋 ネット犯罪を暴く』(韓国、2022年)



 ちょうど新型コロナが流行しだしたころに日本のインターネットでも少し話題になったのが「n番部屋事件」だった。過去にない規模の参加者のいた集団的性犯罪であり、このネトフリのドキュメンタリーでも強調されていたように明確な性搾取の事件だった。日本で話題になったころは主犯格の2人、博士とガッガッがようやく逮捕されたころだったため、事件の概要も子細に語られていた記憶がある。

 ただ、このドキュメンタリーで改めて思ったのは、まだまだ知らないことばかりだったということだ。大規模な犯罪なのにテレグラムを通じた特殊なネット空間ゆえに露見しにくかったこと、プロのメディアではなく最初にこの事件に気づいたのがジャーナリストを志望する大学生2人組だったとのこと(しかも、コンペに参加する一貫の調査の中で事件を発見してしまった)、そして警察がいかにこの新しい犯罪者たちを追い詰めたかということ。

 本編の序盤は犯罪者たちの「性搾取」をアニメーションなどを使って再現することで、実際の加害と被害のイメージを視聴者に共有させることに成功している。そして成功しているがゆえに、アニメーションであってもあまりにも生々しく、残虐である。写真や動画は加工され、フィクショナブルなものに置き換えられているとはいえ、テキストでのメッセージは詳細に再現されている。そのため、このドキュメンタリーを見る前に、そういった心理的に危険なシーンが多数はめこまれていることには留意したほうがよい。女性たちを手招くための細かな手口やグルーミングの詳細が語られるところには何度も吐き気がしたほど。

 中盤以降は追う側の視点が幾重にも重なってくる。「追跡団炎」(メディアによっては「追跡団火花」や「追跡団花火」と訳されることもあるがここでは本作の翻訳に準拠する)として登場する二人の大学生、ハンギョレ新聞の取材チーム、テレビ局、そして警察。



 犯罪者たち、特に博士は追う側であるメディアを執拗にけん制し、脅迫する。それは彼がこれまでグルーミングをする中で使用してきた手口に似ている。脅迫し、要求をのませることで、自分の思い通りに他者をコントロールする。そうした欲望の塊のような存在である博士は、痕跡を多くは残さない。外国にいるというほのめかしさえする。ではどのように追うのか。

 「犯罪者が永遠に隠れることはできません」とは後半に登場するあるホワイトハッカーの言葉だ。テレグラムは痕跡をすぐに消すことが可能なメディアだが、かといってインターネット上のログを抹消できるわけでもないし、IPアドレスを完全に誤魔化すこともできない。新しい性犯罪とはいえ、インターネットを利用している以上、痕跡が残る。その痕跡を使って一つずつ犯人を追うという、新しさと古さが混合したような刑事手法が印象に残った。

 韓国では2016年に江南駅近くのトイレで22歳の女性が全く知らない男性に殺害された事件を一つのきっかけにして、多くの女性たちが社会に対して声を上げている。本作では省かれているが、NHKの『アナザーストーリー』がこの犯罪を扱った時に、多くの女性たちが「n番部屋事件」に対して抗議運動を行い、国会に請願する運動を行ったことも紹介されていた。





 韓国の現代文学や映画でも、女性蔑視やミソジニーといったジェンダー不平等は数多く題材にされている。これほどまでに女性たちが生きづらい社会があるということ(日本も例外ではないかもしれない)を直視することも、このドキュメンタリーの目指す地平だろう。少なくとも、吐き気がするくらいにはその試みは成功しているように思えた。


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2022年04月06日

ナラティブによる揺さぶりと、二人の巡礼 ――『ドライブ・マイ・カー』(2021年)



見:イオンシネマ高松東

 原作である村上春樹の短編集『女のいない男たち』を読んだのはもう何年も前なので、見事に内容を忘れたまま映画を見ることになった。いかにもな村上春樹の書く主人公である家福(西島秀俊)の惰性的なセックスとクリエイティブへのこだわりを見るにつれて、思った以上に饒舌(な印象を受けた)だと思ったが饒舌な主人公は濱口竜介作品にはよく似合う。劇中劇とそれを作る過程を描いた4時間の大作『親密さ』と比べると、劇中劇であるチェーホフの『ワーニャ伯父さん』がちょっと道具的じゃない?(制作のプロセスを詳細に扱っていたのだから、もう少し劇自体を長く見たかった)という不満はあったものの。

 原作である同作以外に同じ短編集から「シェエラザード」のエッセンスを取り入れることで、この映画で最も重要なのはナラティブなのだということが象徴的に描かれ、導入されていく。カップルの性行為(少し風変わりな)を起点として物語を進行するのもいかにもな村上春樹といったところで、ただ主人公がよく喋ることに意味があるわけではない。むしろ、たいていのことは語る彼の語らないことに意味があるのではないか。そのために、劇中劇が利用されているのではないかという仮説を早いうちに提示する。

 家福に付き添うのは主に二人。ドライバーのみさき(三浦透子)と、スキャンダルによってフリーランスになった俳優、高槻(岡田将生)だ。この二人の間の会話のやりとり、そして高槻が積極的に投げかけるいくつかの質問は、家福を揺さぶる。家福自身の感情を揺さぶり、彼のナラティブ(とりわけ、妻であった音に対するもの)を揺さぶる。

 同時に、会話ないしコミュニケーションは双方向のものであるから、問いかける側も常に揺さぶりを受けることとなる。この揺さぶりが、巡礼のような形で結実するのが終盤のみさきとの長いドライブだ。『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』において、ある女性の死をめぐる多崎つくるの巡礼を描いた。彼の旅路は、謎を解くこと自体にももちろん重要な意味はあるが、旅をするというプロセスが彼の感情を揺さぶり続けることに意味があった。

 みさきは、一人では決して訪れることのなかっただろうその場所に訪れる。そして、思わず家福に甘えてしまう。こうした感情のやりとりもまた、家福が音との間に喪失していたものなのかもしれない。みさきの過去をめぐるための巡礼が、みさきとは無関係の他者であった家福を揺さぶる。客観的に見ると、家福がみさきを道具的に利用したようにも見えるが、みさきもまた家福を利用している。

 この双務関係とも共犯関係とも言える関係は、『多崎つくる』にはなかった形の巡礼である。多崎つくるも一人ではなく誰かと一緒に巡礼をしていればまた違った感情が芽生えたのかもしれないし、発見があったかもしれない。もちろん一人旅も悪いものではないが、一人ではなく二人であるということの意味は、意外にも大きいものだったのだろう。

女のいない男たち (文春文庫)
村上春樹
文藝春秋
2016-10-07


村上春樹
文藝春秋
2015-12-04




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2022年02月01日

2022年1月によく聴いた音楽

 久しぶりにやる。というかやっぱちゃんと続けたいですね、これ。
 1月と書いてるけど後半は12月アップロードの楽曲も含みます。


あたらよ「知りたくなかった、失うのなら」


 純猥談とのコラボと聞いてうーーーーん、という感じはあったものの(そういうものをあたらよに求めているわけではないので)曲自体はいくらかキャッチーな前奏から始まり、初見のお客さんを引き込むことにはまずまず成功しているかなと思う。オールドなリスナーに対しても、最後まで聞けばああいつものあたらよだなと思わせる安心感があった。もう少しメロディで遊んでくれても良かったとは思ったけど、普段と違うギター音を強くしたアレンジは、これはこれで。

宇多田ヒカル「BADモード」


 1月にラジオで一番聞いた曲だと言っていい気がする。やたら耳に残るというわけでもないけど、ゼロ年代以降の宇多田ヒカルがちゃんと生きてるよなって感じがする。よく考えたら1998年にデビューした人を2022年もちゃんと聞けるって幸せですよね。

SUPER BEAVER「東京」


 12月に長屋晴子とFIRST TAKEで演じた曲を改めて自分たちだけで、という曲。いろんなバンドやミュージシャンが「東京」というタイトルの曲を作ってきているので、SUPER BEAVERなりのストレートをぶち込んできたなって感じがする。のっけから「愛されていて欲しい人がいる なんて贅沢な人生だ」と始まるのでまあこれだけで相当速い直球ですね、155km/hくらい出てそう。日常とか人生とか、そういうものを歌うことにいい意味で慣れているがゆえのストレートだと受け止めた。

 せっかくなのでこっちも。



緑黄色社会「キャラクター」
緑黄色社会『Actor』



Actor
Sony Music Labels Inc.
2022-01-26


 リョクシャカをちゃんと聞き始めたのは「Mela!」あたりからだと思うけど、このアルバムを聞いて改めてちゃんと聞かないとヤバイのでは、と思ってちゃんと聞いている。去年の「ずっとずっとずっと」あたりもヤバイというか、これってどうなってんの?という曲だったので(長屋晴子が息継ぎをほとんどせずずっと歌い続けているのがいろんな意味で怖くてすごい)。それを言えば「キャラクター」もそうですね。アルバムで一番好きなのは「Landscape」です。これが一番長屋晴子の声をうまく使えている。


にしな「hatsu」


 アップロードは12月だが、12月も1月も本当にこれはよくリピートしていた。にしないいよにしな。「夜間飛行」がこのライブでぐっと好きになりました。

フィロソフィーのダンス「気分上々↑↑」


 この前のNACK5「カメレオンパーティー」(1月30日放送)で土屋礼央がフィロのスの楽曲を複数取り上げていて驚いたが、土屋が言っていたようにボーカルのパワーが最近の彼女たちはほんとうにすさまじい。「テレフォニズム」でもやべーやべー言ってた気がしましたが、「気分上々↑↑」の原曲に特徴的なアップテンポをあえてスローにチルい感じにアレンジしているのがまず驚くし、結果的にこのアレンジがボーカルの存在感を強くしているなとも思う。

milet×Aimer×幾田りら「おもかげ (produced by Vaundy)」


 最初は正直そこまで印象に残らなかったんだが、ラジオで繰り返し聞くうちに耳に残るようになった曲。思ったよりもスルメでした。この3人だといくらはやや細いボーカルかなと思ってたけど、彼女の声が曲に「合っていく」プロセスが好きでした。


おまけ




 スピーカーが欲しい&マイクが欲しい→そうだスピーカーフォンを買おうということで購入したのがこれ。ビジュアルは手元に置くとちょっと安っぽく見えてしまう(ここは悩んだAnkerのConf3でもよかったかもしれない)が音質にはとても満足しているし、マイクとしてもまずまず使えているようなのでいいかなというところ。まあこのへんは沼なので、そのうち飽きてもっといいものを・・・となるかもしれないし、ならないかもしれないが音楽やラジオはこれでしばらく聞くぞ!という気持ち。

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2022年01月04日

2021年11月&12月の読書記録+α





 11月は体調がいまいちでやや失速した分を12月に取り戻した、という感じ。
 抜群に面白かったのは『嫌われた監督』と『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』の二冊。この本はいずれもむさぼるように読んだ。こういう本に出会えるので読書ってやめられないんだな、と思った。『カンバセーションズ』についてはmediumにレビューを書いている。




 前の記事で今年のベストにも次点として入れた『ユリイカ』の綿矢りさ特集と『現代思想』<恋愛の現在>特集も非常に面白かった。この二冊は相通ずるところがあるし、気づいたら恋愛とか結婚とかそれ以外についてずっと考えていた年の瀬だったなと思う。そういうエントリーも上げたしね。

 身近なところでは、ひろこさんのこのエントリーが面白くて、今後の自分の人生の参考になるかもならないかも。


 学生時代のころからアカウントはフォローしていたが、割と最近相互になってやりとりをするようになった。表に出てくる話、出てこない話含めていろいろなことをフラットにやり取りできる同世代のつながりができたのはうれしいものです。

 ちなみに2021年トータルで読んだのは311冊でした。読書メーターに入ってない本(同人誌など)を含めるともうちょいありそうだけど、そこまで細かく数えてないので詳細は不明。



 他、印象に残った記事やエントリーは以下の通り。そういえば衆院選もあったな。



 自分の中で境家先生はゲーム理論の人なので、ここ数年現実政治に対して積極的に発言をなさっているのがなんとなく面白い。面白い、というかイメージを変えないといけないな、という感覚。



 いくつかのBL小説(一穂ミチ、木原音瀬など)もそうだけど、自分が明るくないジャンルの小説を彼女から知る機会はとても多い。いつも本当にありがとうございます。



 遭遇したくはないが、もししてしまった時に何をすべきかは知っておいたほうがよい、という話。一応護身術の心得はあるけど、戦わずに済むならそれが最もよい。





 mediumにレビューをアップしている。



 乗代はもっと早く評価されるべきだと思ったので、ようやく評価が追いついたのはうれしかった。「最高の任務」もそうなんだけど、書くということに対するこだわりや特定の土地に対するこだわりを今後どういう形で小説に落としていくのかは楽しみにしている。後者へのこだわりは、同じく特定の土地を立体的に書くことが多い柴崎友香や滝口悠生と比べると独特な軽やかさがって好きだ。



 いろんな人が書いてるけど、バチェラー役の人がクズな分、女性陣の個性や仲の良さが際立った回だったなと思う。途中からは藤原さんと坂入さんをずっと見ていた。



 新しいエントリーではないけどフォローできてなかったので。2022年こそ倫理学(医療倫理含む)をちゃんとやっていきたい。毎年のように言っているので・・・



 『旅する練習』の感想が読めて面白かったのと、『Shrink』をさすがにそろそろ読まないとな(仕事柄)と思った。



 なぜ日本だけオミクロンが全然広まっていないのか、遺伝や文化的に近しい国である韓国ではヤバいのに・・・というスタンスの記事。結論は「わからない」ということで、その「わからなさ」に至る経緯が詳細にフォローされている良記事。

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2022年01月01日

2021年コンテンツ回顧

 過去のエントリーを遡って確認してみたが6年ぶりらしい。前回2015年は社会人1年目の終わりでした(遠い目)
 いつも通り、今年リリースされたものからの選出なので旧作は含まず。こちらもいつも通り3つずつ選んでるけど順不同です。順不同のベスト3といったところでよろしくどうぞ。


●小説
1.乗代雄介『旅する練習』講談社
2.サニー・ルーニー『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』早川書房
3.カン・ファギル『別の人』

旅する練習
乗代雄介
講談社
2020-12-28


カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ
サリー ルーニー
早川書房
2021-09-02


別の人
カン・ファギル
エトセトラブックス
2021-08-26



●ノンフィクション
1.郝景芳『人之彼岸』早川書房
2.鈴木忠平『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』文藝春秋
3.ケイト・マーフィ『LISTEN』
次点:『現代思想2021年9月号:特集=<恋愛>の現在』、『ユリイカ2021年11月号:特集=綿矢りさ』





LISTEN――知性豊かで創造力がある人になれる
ケイト・マーフィ
日経BP
2021-08-05







●社会科学
1.マイケル・フリーデン『リベラリズムとは何か』ちくま学芸文庫
2.アン・ケース&アンガー・ディートン『絶望死のアメリカ』みすず書房
3.山口慎太郎『子育て支援の経済学』
次点:濱口桂一郎『ジョブ型雇用社会とは何か:正社員体制の矛盾と転機』岩波新書

リベラリズムとは何か (ちくま学芸文庫)
マイケル・フリーデン
筑摩書房
2021-03-12


絶望死のアメリカ――資本主義がめざすべきもの
アンガス・ディートン
みすず書房
2021-01-18


子育て支援の経済学
山口 慎太郎
日本評論社
2021-02-15





●映画
1.『ひらいて』
2.『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』
3.『KCIA 南山の部長たち』
次点:『劇場版 きのう何食べた?』、『ファーストラヴ』

●音楽(アルバム)
1.あたらよ『夜明け前』


2.Pastel*Palettes 「TITLE IDOL」


3.Hakubi「era」


次点:Awesome City Club「Grower」


次点:ユアネス「6 cases」
6 case
HIP LAND MUSIC, FRIENDSHIP.
2021-12-01



●音楽(楽曲)
1.Homecomings「Here」


2.フィロソフィーのダンス「テレフォニズム」


3.武藤彩未「SHOWER」


次点:にしな「ヘビースモーク」


 にしなはこのライブ映像がかなりよいので置いておく。



次点:ヨルシカ「春泥棒」


 ヨルシカも公式がライブ映像の一部をアップしている。配信で見ていたが、そういえばこのライブも今年だったな。



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2021年12月19日

まどろみとさみしさ ――『へウォンの恋愛日記』(韓国、2013年)



見:Jaiho

 前回『自由が丘で』を見たのに引き続いてJaihoでホン・サンス作品を見てみた。本作も『自由が丘で』といくつか共通していて、ドラマチックなことは起こりそうにない日常の中である男女の恋愛の風景が描かれている。その中では書くこと(今回は日記、『自由が丘で』では手紙)が反復されるし、日記も手紙もいずれも主観的な記録なため、事実関係や時系列は非常にあいまいだ。この映画でも、あいまいなものはあいまいなまま説明しすぎず、静かに時間だけが流れてゆく。

 へウォンは演技を学ぶ学生という設定で、彼女は所属している映画学科のゼミの教授と不倫関係にある。いい加減この関係を終わらせたいと思いながら、冒頭でカナダに行くことになったと語る母と離別する寂しさを埋めるために、教授との逢瀬を選んでしまう。そしてある日同じゼミの学生たちにバレそうになるのだが(おそらく明らかにバレている)、うまくごまかしながら関係を終わらせられず、時間だけが流れてゆく、という筋書きだ。

 そうした日々の記録をへウォンは定期的に日記に書き記そうとする。日記を書くのはいつも同じテーブルで、もしかしたら時間も決まっているのかもしれない。そして日記を書こうとするたびに彼女はなぜか眠くなり、机に伏してしまう。ある時に唐突に目覚めるシーンも何度か描かれているが、彼女が眠ってから目覚めるまでの間に映画が映し出す光景はいったい事実なのか虚構(夢の中の願望)なのか、容易には見分けがつかない。

 『自由が丘で』でホン・サンスは「手紙の順番がわからないが、とりあえず一枚ずつ読む」という方法で映画の中の時系列を混乱させた。最初から登場していた人物が、途中からはさも初めて登場したかのように振る舞うことがあったため、視聴者にもこうした混乱は具体的に伝わっている。他方で今回の場合、夢を見ているへウォン自身にはそれが夢か現実かの判断がつかない。視聴者はいずれもを見ることができるが、やはりはっきりと断定はできない。(これは明らかにうまくいきすぎだろうという展開ならば夢だと判断できるため、まったくわからないわけでもない)

 へウォンの中にあるさみしさが具現化する願望(夢)と、決着をつけなければならない展開(現実)との相関の中で、視聴者は彼女の心理状況を追体験する。いわば「寝逃げ」でリセットしたい気持ちと、消えてくれないさみしさの中で彼女の向かう先を、じっとみつめることができるのが視聴者の特権だということだろう。虚実ないまぜのまま進む、日常を。

ヘウォンの恋愛日記(字幕版)
イェ・ジウォン
2015-06-15



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2021年12月01日

理解されないから、衝動が乱反射する ――『ひらいて』(2021年)



見:イオンシネマ綾川

 綿矢りさの近年の作品では傑作の部類に入ると言ってよいし、2010年代の彼女の飛躍作でもあると思っている。駆け込みで劇場に行ったおかげで、原作を読んだ時の感慨を久しぶりに思い出すことになった。文藝誌『新潮』に一挙掲載だった原作を大学図書館で読んでうおおお、と悶えた記憶がある。2012年の春のことである。気づけば大方10年前の話だ。

 主人公の愛、愛が片思いをしているたとえ、そしてたとえの彼女である美雪。この3者関係が軸となっているのは原作と同じだが、学校とその周辺が舞台になっているだけあって、学校の同級生や先生、またそれぞれの親との会話など、主役3人の生活がより立体的に見えるなと感じた。文化祭に向けたアイドルダンスの練習で始まる冒頭は、今風の女子高生の日常を象徴的に映し出していると言える(楽曲はオリジナルのようだが、明らかに坂道を意識している)。アイドルダンスは一体感とルッキズムの象徴とも言えるので、地味な雰囲気の美雪や、チームワークが苦手な愛がそうした活動になじめないことも、早い段階から予見されているという意味でも象徴的な冒頭のシーンになっている。

 たとえの存在感も、原作よりはくっきりとしている。愛がみつめるたとえ、そして美雪が手紙をつづる相手としてのたとえ、二人の同級生から見つめられながら、しかしその内心は誰も知らないんじゃないかという、曖昧な存在としてのたとえを、ジャニーズJr.の作間龍斗が好演している。少しイケメンすぎるきらいはあるものの、学校でのたとえはほとんど常に表情を崩すことがなく、思考や感情が外に漏れないように見せるキャラクターとしてのたとえを違和感なく演じているのはとてもよかった。普段が普段なだけに、たとえの家を二人が訪問する終盤のシークエンスでは、普段と違ったたとえを演じることにも作間は成功している。

 美雪もまた、愛の視点からすると「よくわからない同級生」だ。美雪がたとえに渡した手紙を愛が盗み見ることで、美雪とたとえの関係に愛は気付く。その発見の後、愛はたとえを攻略することをいったん中止して、愛を攻略しようとする。しかしながら、たとえがそうであるように美雪もまた、一見してよくわからない上に、近づいてもよくわからない存在なのだ。だから愛は時に強引に攻めるというスタイルをいとわないわけだが、そうして身体の距離が近づいたところで、逆に感情のわからなさに愛は苦しむ。人間の心は、物理的に近づけば開くというほど単純なものではない。

 もっともこれは逆から見ても似たような構図だと言える。たとえは愛のことをよくわかっていないし、美雪もまた愛のことをよくわからない。二人とも、そのわからなさを愛に伝えているが、愛からするとなぜ二人が自分のことを理解しないのかがわかっていないのだ。美雪は愛の強引な姿勢と、それが純粋な恋愛感情に基づかないことをおそらく早いうちから察している。

 それでも美雪が愛を受け入れるのは、自分自身の寂しさゆえでもあるだろうし、たとえとの関係があるからだ。美雪は自分とたとえの関係が、愛とたとえの関係に比べて圧倒的に優位であることを知っている。だから愛にどれだけ攻められても、心を完全に許すことはない。自分の性欲を自覚しつつ、その欲に完全に流されることはない。だから、たとえとのプラトニックな関係を数年間にわたって継続することができているのだ。こうした時間の流れを、愛は頭でなんとんく理解していても、腹落ちするほどには理解できていない。

 愛はまた、自分が親や教師にも理解されてないことを知っている。周囲から見たら容姿端麗で、リーダーシップもあり、成績も良好だという評価を受けているようだが、それは彼女の本質ではない。自分の本質をわかってほしいのに、理解されない苦しさ。乱反射、とはパンフレットに掲載されていた山田杏奈の言葉だが、自分自身が誰にも理解されてない、それでもわかってほしいし、自分自身をさらけ出したい。そうした様々な欲求が(強引に)乱反射することで、「ひらいて」ほしいというメッセージを送り続ける。

 原作でも映画でも非常に愛はやっかいな存在で、監督である首藤凛の助言を受けながら愛のことを辛抱強く理解しようと山田杏奈はつとめたようだ。対して美雪は、一見よくわからない薄い存在だが、愛が美雪に接近すればするほど、美雪の芯の強さが際立つことがよくわかる。愛はきっとこの美雪の内面の強さが悔しかったのだろうな、だからこそ、衝動を発露するやり方が強引になってしまったのだろう。実はめちゃくちゃ不器用な愛の存在が、最終的には愛おしいとも思えてしまう、そういう愛を山田杏奈は本当に巧みに、粘り強く演じることができていると思う。

 愛は誰にでもできるような役柄では絶対ないので、原作ファンとしては山田杏奈の好演、熱演が、何よりとてもうれしかった。

ひらいて(新潮文庫)
綿矢 りさ
新潮社
2015-07-24




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2021年11月22日

何もないようで、小さな何かが起こり続ける ――『自由が丘で』(韓国、2014年)



見:Jaiho

 60分を少し超えるくらいの短い映画で、登場人物も限られた人数しかいない。加瀬亮演じるモリという日本人の青年が韓国を訪れ、ある女性を探すだけというシンプルなストーリーだ。モリは韓国で親密にしていた女性がいたが、あるときから連絡がとれなくなり、彼女を追いかけて韓国に来た。会話の流れを見ていると、仕事を辞めて韓国にまで来たようで、ただ単に人探しに来たわけではなさそうである。

 そのモリだが、本当に人探しをしているのかどうかが、映画が進んでいくとよくわからなくなってくる。あるときは宿泊しているゲストハウス近くのカフェのマスター(女性)と懇意になり、彼女の部屋を訪れることもある。またあるときは、同じ宿で暮らしている男性と飲みに出掛けることもある。モリは結局何をしにわざわざ韓国にまで来たんだっけ? と疑わしくなる場面がやたら多い。

 そしてもうひとつ気になるのは、モリが毎日一冊の文庫本を持ち歩いていることだ。表紙から察して検索すると、講談社文芸文庫から出ている吉田健一の『時間』だということがわかるが、まさにこのタイトルである「時間」が非常にくせ者なのである。なぜならば、本作でもっとも重要なのが時間だからである。

 「自由が丘で」とあるのは、モリの通うカフェの店名が「自由が丘8丁目」という日本(東京?)を意識したらしい店名だからなのだが、この空間において時間は単線的に流れない。なぜなのか、その仕掛けは映画の中で明かされていて、なるほどと思う。

 しかし、仕掛けがわかったところで新たに疑問に思うのは、結局モリは意中の女性と出会えたのかということだ。映画はこの女性を前半は不在なまま描写するが、後半ははっきり登場させるようになる。彼女は実は不在でもないし死んでいるわけでもなく、生きている。ただいくつかの事情があって、行方をくらましていたことは説明される。そして、モリも彼女の再会を果たす。ではこの映画はハッピーエンドと言えるのか?

 それがまたよくわからないのが、この映画における時間のトリックだ。現実の時間は不可逆には流れないし、フィクションの中でもその規律を守ることが多い。ただこの映画は、ある仕掛けによってその規律を順守しなくても成り立つ設定に仕立てあげた。そうした時間の歪みと、モリのふらふらとした韓国での暮らしとが妙にマッチして仕方ない、そういう不思議な映画なのである。

 モリの日々には何もないように見えて、あらゆる小さな出来事が起きている。そうしたディティールに目を凝らすことで起きるドラマ、いわゆる日常系アニメが得意として来た手法も実は取り入れられているように思えた。日常系の手法と、時間の流れが曖昧に感じさせる手法の相性のよさは、日本のアニオタならよく知っていることだ。

自由が丘で(字幕版)
ユン・ヨジョン
2015-07-24



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2021年11月04日

2021年9月&10月の読書記録





 1枚目が9月、2枚目が10月に読んだ本。9月は読書メーターのログをまとめ忘れていたが、試験の関係で少ない月でした。
 以下、10月の詳細。

10月の読書メーター
読んだ本の数:33
読んだページ数:8609
ナイス数:44

別冊NHK100分de名著 集中講義 河合隼雄: こころの深層を探る (教養・文化シリーズ 別冊NHK100分de名著)別冊NHK100分de名著 集中講義 河合隼雄: こころの深層を探る (教養・文化シリーズ 別冊NHK100分de名著)
読了日:10月01日 著者:河合 俊雄
競馬 伝説の名勝負 1990-1994 90年代前半戦 (星海社新書)競馬 伝説の名勝負 1990-1994 90年代前半戦 (星海社新書)
読了日:10月03日 著者:小川隆行+ウマフリ,浅羽 晃,緒方 きしん,勝木 淳,久保木 正則,齊藤 翔人,榊 俊介,並木 ポラオ,秀間 翔哉,和田 章郎
日本の地方議会-都市のジレンマ、消滅危機の町村 (中公新書)日本の地方議会-都市のジレンマ、消滅危機の町村 (中公新書)
読了日:10月05日 著者:辻 陽
別の人別の人
読了日:10月07日 著者:カン・ファギル
閑窓vol.4 学窓の君へ閑窓vol.4 学窓の君へ感想
同人誌としてのテーマやコンセプトがしっかりしており、よくできたオムニバス短編集となっている。瀬戸千歳の2作品と貝塚円花の短編がお見事。表紙モデルの女性は瀬戸作品にも登場しており、小説との親和性の高さが丹念に構築されていた。架空の中高一貫校を舞台として生徒や教師が様々登場するが、百合かなと思わせる短編が複数ありとても良かった。
読了日:10月09日 著者:閑窓社
社会保障の国際動向と日本の課題 (放送大学教材)社会保障の国際動向と日本の課題 (放送大学教材)
読了日:10月10日 著者:埋橋 孝文,居神 浩
女ふたり、暮らしています。女ふたり、暮らしています。
読了日:10月11日 著者:キム・ハナ,ファン・ソヌ
甲子園は通過点です―勝利至上主義と決別した男たち―(新潮新書)甲子園は通過点です―勝利至上主義と決別した男たち―(新潮新書)感想
ちょうど今日ドラフトにかかった天理高校の達の歩みと発言を記録した第8章がなかなか面白い。常に目標にはダルビッシュやシャーザーやカーショウがいて、近づくための足跡が具体的にイメージ出来ている。
読了日:10月11日 著者:氏原英明
自制心の足りないあなたへ: セルフコントロールの心理学自制心の足りないあなたへ: セルフコントロールの心理学
読了日:10月13日 著者:尾崎 由佳
ヘミングウェイ スペシャル 2021年10月 (NHK100分de名著)ヘミングウェイ スペシャル 2021年10月 (NHK100分de名著)感想
多文化的で多様性に富んでいて、脱異性愛主義的な作風は現代に読み直してこそ面白い、というアプローチ。ヘミングウェイ自身にマッチョさと弱さが同居するところは色々示唆があるかもしれない。
読了日:10月13日 著者:都甲 幸治
【重版5刷】人生を狂わす名著50(ライツ社)【重版5刷】人生を狂わす名著50(ライツ社)感想
最初に紹介されている『高慢と偏見』の解説がめちゃくちゃ面白く、というかその後の文章が全て面白く、最後までゲラゲラ笑いながら、かつ時々内容に刺さりながら読み終えた。楽しかったー!
読了日:10月13日 著者:三宅香帆
いちばんここに似合う人 (新潮クレスト・ブックス)いちばんここに似合う人 (新潮クレスト・ブックス)
読了日:10月15日 著者:ミランダ・ジュライ
うたうおばけうたうおばけ
読了日:10月15日 著者:くどうれいん
紫ノ宮沙霧のビブリオセラピー 夢音堂書店と秘密の本棚 (新潮文庫)紫ノ宮沙霧のビブリオセラピー 夢音堂書店と秘密の本棚 (新潮文庫)
読了日:10月16日 著者:坂上 秋成
影裏 (文春文庫)影裏 (文春文庫)
読了日:10月16日 著者:沼田 真佑
ASSORT MIX 一穂ミチデビュー10周年記念応募者全員サービスASSORT MIX 一穂ミチデビュー10周年記念応募者全員サービス
読了日:10月17日 著者:一穂ミチ
傲慢と善良傲慢と善良感想
前半はこれが辻村版の高慢と偏見なのか?と半ばノれない部分もあったが、オースティンばりの悪女が真実を暴露して以降のドタバタする展開は確かにオースティンもびっくりの展開だったと思う。そしてそれを一番綺麗な形でオチに落とし込んだのはミステリーでデビューした辻村らしいうまさ。お見事でした。
読了日:10月17日 著者:辻村 深月
挑発する少女小説 (河出新書)挑発する少女小説 (河出新書)感想
一種のフェミニズム批評として面白く読んだ。とりあえずkindleで積んであったあしながおじさんを読みます。
読了日:10月17日 著者:斎藤美奈子
対人援助の作法: 誰かの力になりたいあなたに必要なコミュニケーションスキル対人援助の作法: 誰かの力になりたいあなたに必要なコミュニケーションスキル
読了日:10月17日 著者:竹田 伸也
リベラリズムとは何か (ちくま学芸文庫)リベラリズムとは何か (ちくま学芸文庫)
読了日:10月18日 著者:マイケル・フリーデン
「女性向け風俗」の現場 彼女たちは何を求めているのか? (光文社新書)「女性向け風俗」の現場 彼女たちは何を求めているのか? (光文社新書)感想
裏テーマは男性への性教育だなという感想を持った。あと、ある種の「手の倫理」というか、触れる/触るの絶妙な駆け引きが行われている話でもあるなと思って読んだ。あくまで著者の観測範囲の話であって、断定的なところは割引いて読んでもいいとは思うが(後書きにホワイトハンズの人の名前が出てくるのは少し引っかかるところではある)ネトフリで配信されている『セックス・エデュケーション』に近い面白さがある本。
読了日:10月19日 著者:柾木 寛
管理される心―感情が商品になるとき管理される心―感情が商品になるとき
読了日:10月20日 著者:A.R. ホックシールド
妊娠小説 (ちくま文庫)妊娠小説 (ちくま文庫)
読了日:10月21日 著者:斎藤 美奈子
閑窓vol.3 閑日月に捧ぐ閑窓vol.3 閑日月に捧ぐ
読了日:10月22日 著者:閑窓社
(読んだふりしたけど)ぶっちゃけよく分からん、あの名作小説を面白く読む方法(読んだふりしたけど)ぶっちゃけよく分からん、あの名作小説を面白く読む方法
読了日:10月24日 著者:三宅 香帆
心とからだの倫理学 ――エンハンスメントから考える (ちくまプリマー新書)心とからだの倫理学 ――エンハンスメントから考える (ちくまプリマー新書)
読了日:10月25日 著者:佐藤 岳詩
分裂と統合の日本政治 ― 統治機構改革と政党システムの変容分裂と統合の日本政治 ― 統治機構改革と政党システムの変容
読了日:10月26日 著者:砂原 庸介
妊娠・出産をめぐるスピリチュアリティ (集英社新書)妊娠・出産をめぐるスピリチュアリティ (集英社新書)
読了日:10月26日 著者:橋迫 瑞穂
あたらしい無職 (SERIES3/4 2)あたらしい無職 (SERIES3/4 2)
読了日:10月27日 著者:丹野未雪
甲子園が割れた日 松井秀喜5連続敬遠の真実 (集英社文庫)甲子園が割れた日 松井秀喜5連続敬遠の真実 (集英社文庫)
読了日:10月28日 著者:中村 計
反共感論―社会はいかに判断を誤るか反共感論―社会はいかに判断を誤るか
読了日:10月29日 著者:ポール・ブルーム
知ってるつもり: 無知の科学 (ハヤカワ文庫 NF 578)知ってるつもり: 無知の科学 (ハヤカワ文庫 NF 578)
読了日:10月31日 著者:スティーブン・スローマン,フィリップ・ファーンバック,Steven Sloman,Philip Fernbach
師弟 (講談社文庫)師弟 (講談社文庫)
読了日:10月31日 著者:野村 克也,宮本 慎也

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2021年10月18日

学習と飛躍 ――『ハイキュー!! TO THE TOP』(2020年)

第1話 「自己紹介」
宮野真守
2020-01-12


 前回までで春高予選が終わり、事前の合宿や練習試合などを挟んで春高本戦に突入していくハイキュー4期。25話あるが、ほとんど一気に見てしまえるくらい今回もめちゃくちゃ面白かった。長いこと見続けているとキャラクターの成長が端々に垣間見えて面白いが、4期でもそういった要素は顕著に表れている。

 春高本戦は9話あたりから始まるので、それまでは本戦前の12月の過ごし方が焦点となる。全日本ユースの合宿に召集される影山と、白鳥沢での合宿になぜか勝手に参加する日向という対照的な時間の使い方にはさすがに笑ってしまったが、この対照的な時間の使い方が実に面白いのだ。日向は勝手に参加した(召集されてないのに突撃した)のでもちろん練習には参加させてもらえない。「ボール拾いなめんなよ」という烏野の監督からの助言を受けて徹底的にボール拾いとその他もろもろ(洗濯、掃除、モップがけ等)に取り組むのだが、この姿勢が面白かった。

 影山もそうだが、1年生でありながらレギュラーとしてチームを支えるスーパー1年生コンビの二人は、しかしながらまだ1年生なのである。才能は疑いようがないが、同じくらい粗さもある。技術的な粗さ、精神的な粗さいずれも持つ二人はそれに自覚があったりなかったり。逆に言うと、スーパーな才能を伸ばすだけの伸びしろがまだまだあるということだ。だから影山も日向も、その伸びしろにチャレンジする12月を過ごす。

 そうした12月の「学習」を経て、1月の春高本戦での「飛躍」へ。クライマックスとなる優勝候補の稲荷崎戦は非常に面白い。白鳥沢との県大会決勝は文字通りコンセプトの戦い、いわば異なる戦術のぶつかり合いだったが、稲荷崎戦はもっと具体的な才能と才能のバトルであり、組織と組織のバトルとなっている。サブメンバー含めて層の厚い稲荷崎に対いて、個々の能力を絶妙に組み合わせることで一戦一戦を乗り越えてきた烏野。実力的には明らかに劣る中、いかに稲荷崎を攻略していくのか。

 ここで先ほどの学習が生きてくる。学習は何も12月だけでない。影山も日向も、試合の中でさらに学習していくのだ。相手の出方に応じて戦術を組み合わせることで勝ってきた烏野の組織としての持ち味が、影山と日向の学習によってさらに生きていく。1-1で迎えた3セット目をとれたのは、間違いなく前の2セットの学習があったからだ。

 例によってフルセットにもつれる激戦だが、バレーボールの面白さである攻守の駆け引きは最後の最後まで息を吞む。3回戦の音駒の様子も途中で映されるようにまだまだ強い敵が出てくるはずで、まだ見ぬ5期を今から楽しみにしていたい。

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