Days

日常と読書日記。 受験生日記は閉幕です。





 前回アンデルシュ・ダニエルセン・リーが主演した映画を見たので、その流れで彼が出ている映画を見ようと思った時にたまたまアマプラに入っていた本作を選んだ。もう今年の日本では夏が終わったが、あらすじを見ているとむしろ夏の終わりの余韻にこそふさわしい映画なのではというイメージがわいてきたので、タイミングとして悪いものではないだろうと考えた。

 結果的に、その予感は当たっていたかなと思う。フランス映画らしい、間の多さや、ストーリーの曖昧さ、希薄さを前提にしつつ、だからこそこうした特定の個人への追憶といったテーマは当てはまる。冒頭でサシャという女性の死が語られる。彼女が病院のベッドで横たわるシーンは一瞬描かれるものの、彼女の死そのものは描かれない。必然、これは残された者たちの物語になっていくことが早い段階で予見される。

 アンデルシュ・ダニエルセン・リーは、残されたサシャの恋人であるロレンスを演じている。今回も彼は『オスロ、8月31日』で好演したアンデシュのように、繊細で感傷的で、内向的なロレンスを丁寧に演じている。彼が選ぶ言葉ひとつひとつが、サシャへの追憶を伴っていることがよくわかる。その上で、サシャの遺族を彼は巡っていく。村上春樹が『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』ほどミステリー要素はない(サシャの死の謎は、残されたまま提示されない)が、その代わりロレンスが自分自身と他者を癒すための旅を始める。

 ベルリン、パリを経てニューヨークまで。彼は一人で旅をする。そしてその過程で何人かの女性と出会っていく。誰もがサシャの死の傷を抱えており、癒しを必要としている。それが新しい恋愛になるわけではない。ある女性の言った、私を接待しないで、という言葉も印象に残った。それを笑って受け止めるロレンスの繊細さと優しさが、画面の中に染み渡ってゆく。

 公園やプールやクラブなど、人が集まる場所にも出向く。こうすることで、孤立しないこと、気をまぎらわすこと、ちゃんと日常を取り戻すことなど、いろいろな意味があるのだろうと感じた。そして何より、サシャが生きられなかった夏を、静かに楽しんでいるようにも思えた。

 残された人間にできることは、生き続けることしかない。そういうことなのかもしれない。ごくごくシンプルだけど、重要なことを丁寧に撮った美しい映画である。
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