見:Jaiho

 少し前から意識して韓国の映画を見るようにしているが(本数はまだまだ少ないけれど)、その中でも今回Jaihoで2か月間配信されていた『最善の人生』はインパクトのある映画だったと言える。『はちどり』を見た時のような、10代の少女の危うさをもろさを感じたし、『はちどり』よりもさらに少女たちの心理の内側を、まるでナイフで刺すように視聴者に提示していく。少女が少女であるがゆえの痛みと、あと寂しさのあふれた映画だった。

 主人公はイ・ガンイという少女で、とりたてた特徴があるわけではない高校生だ。両親と暮らしており、きょうだいはいなさそう。同じクラスにはソヨンという、黒髪で長身の美人がおり、彼女についていれば最善になるはずだ、という思い込みのもと、彼女と行動を共にするようになる。ある日学校を抜け出し、その流れで家出をし、ソウルへと逃亡する。

 もう一人、アラムという同級生がおり、彼女の案でソウルの半地下暮らしをしながら水商売をするようになる。ショットバー的な店で働く描写があるが、未成年がこうした店で労働することはかなり法的には怪しいだろう。それを分かった上で、逃亡を続ける。男がらみの、少し危ない場面にも遭遇しながら、一瞬だけガンイとソヨンの心理的な距離が接近してゆく。映画を見終えた今では、ここが一つのピークで、ガンイが最も幸せな瞬間の一つだったかもしれない。ソヨンにソウルまでついていったガンイは、親に連絡して突如家出を終わらせるソヨンにも逆らうことはない。

 そしてここからがこの映画の重要なところだ。家出中からギクシャクし始めた3人の関係は、学校に戻っても容易には回復しない。むしろどんどん悪い方向へと変わってゆく。ソヨンに好意を抱いており(それが同性に対する恋愛感情かどうかは明示されないものの)、学校に戻ってもソヨンと一緒にいたいガンイは、ソヨンの変容を簡単に受け入れることができない。アラムの助言もなかなか聞き入れない。そしてガンイもアラムも、ソヨンからは敵視されてゆく。

 ガンイは基本的に感情を表に出すことが少ない。何度も家出をし、親から強い叱責を受ける場面もあるが、淡々とそれを受け止める。感情の出し方が分からないとも言えるし、単にどうふるまっていいのか分からないのかもしれない。それでも、映画の後半部分についてはソヨンの変容を受け入れられない自身の感情に対する苛立ちが、少しずつ表に出始める。ソヨンのおかげでガンイは、自分自身の感情に気づき、表明するようになってゆくのだ。

 つまるところ最初から最後まで、ガンイはソヨンと離れがたかった。もっと一緒にいたかった。だからこそ、そのガンイの願望が挫折したこと、挫折させられたこと、あるいはソヨンに対する大きな失望が、最後の最後にハンマーで叩くように強い一撃となって表れる。ガンイのことを、彼女のした行為を擁護することはできないが、それでも彼女のことを単に不幸な少女だったとは思いたくない。一途な、純粋な彼女の気持ちを、あの行為のあとにも改めて思いやりたい。

 普段は声も表情もほとんど変えないガンイは、最後に思いっきり涙を流すところが、強く印象に残った。こうした表現が適切かどうかは分からないが、とても美しいシーンだったと思う。


最善の人生
イム・ソルア
光文社
2022-10-19