不器用で仕方がなかった青春時代のこと ――『マイ・ビューティフル・デイズ』(アメリカ、2016年)余白と不連続が映し出す夏 ――『お嬢ちゃん』(2018年)

2020年01月21日

痛快かつ超教育的で、限りなくヒューマニティ ――『セックス・エデュケーション』ファーストシーズン(イギリス、2019年)



 最初は契約しているネトフリが薦めて来たが、あまりにもストレートすぎるタイトルにんーちょっといいかな、という気持ちが正直のところだった。それがおそらく去年の冬か春くらいの話だが、ネット上のある記事で本作の見どころを知って、具体的には主人公が同じ高校の生徒に対して「セックス・カウンセリングをする」という筋書きがとても気になったからだ。

 先日公認心理師現認者講習会も受講し、将来的にはカウンセリングを業とすることも考えているが、性に関する悩みや問題やトラブルはあちこちに満ち満ちている。高校生ならば特に敏感に反応する年ごろだが、逆に敏感すぎるがゆえに適切に対応できない年ごろでもある。何より「大人が子どもに」対してではなく「子ども(高校生)が子どもの目線のままで」性教育を行うことがどういった営みであるのか、そして「使われなくなった古臭いトイレ個室」の中でカウンセリングを受けることになるそうした「思春期真っ盛りな」高校生たちをどう描くのかが気になって、見てみた。

 見どころは多い。というか多すぎる。だが共通しているのは、ここに出てくるキャラクター、男女問わず性欲にあふれており、また性への関心が高いが、正しい知識を持たず、ハッピーな性生活を送れていない。だからこそ、主人公のオーティスとヒロインメイヴのコンビが始めたマイクロビジネス、「セックス・カウンセリング」の出番がある。オーティスは童貞ではあるが母親が性教育のセラピストとして博士号を持っているという家庭(しかも母子家庭)であり、家には日々クライアントがやってくる。そうした思春期的には非常に複雑な環境の中、彼のスキルを開花させていくのがメイヴだ。

 メイヴはと言えば、彼女は恵まれた家庭環境とは言えない。ドラッグにおぼれた母と兄は出奔し、誰ひとり頼る相手がいない中でトレーラーハウスで一人暮らしを送る。彼女を救ったのは、本、それもフェミニズムについて書かれた本である。彼女はこのドラマの中で最も知的好奇心があふれている存在でありながら、最も自己肯定感が低い存在であるせいか、自身の能力を生かしきれない。だからオーティスとコンビを組んでいる時の、彼女の自由闊達さは魅力的である。

 メイヴもある意味で、オーティスがカウンセリングをするクライアントに非常によく似ている。多くのクライアント(生徒たち)は、自分に自信がないか、あるいは親密な相手との関係に自信がない。ヘテロのカップルだけでなく、ゲイカップルやレズビアンのカップルもフラットに登場するのが非常に現代的であるが、誰かと親密になりたいという願望と、自分がこうしたい、相手にはこうしてほしいという欲望はきれいには一致しない。多くのキャラクターは悩みを抱えて、不安を募らせる。やがてそうした関係は行き詰まるが、そのボトルネックを解消するのがオーティスとメイヴの重要な仕事なのだろう。自分自身を振り返ってみても、10代の時に二人がいてくれたら、どれほど頼もしかっただろう。

 基本的に一話完結でありながら、オーティスやメイヴを取り巻く人間関係は濃密に展開させる。二人はいいコンビであるが、オーティスにはエリック、メイヴにはエイミーという、明るくお茶らけた同性のパートナーがいる(メイヴとエイミーの関係は時々百合に似ている)。こうした人間関係のバランスが常に保たれるわけではない。オーティスやメイヴはやがて道を違えていくし、オーティスとエリックが常に仲のいい親友とも言えない。10代の人間関係はかくも難しい。けれども、そこにあるドラマや感情は、もう大人になった私たちが、かつて経験してきたものでもある。だからこのドラマを見ていて非常に新しい物語だと感じるとともに、非常に懐かしい思いもさせてくれるドラマになっている。

 エリックもエイミーもそれぞれにまた悩みや葛藤を抱えているからだ。筋書き上の主人公はオーティスとメイヴだとしても、その隣にいるキャラクターが「脇役」だとは言えない。すべてのキャラクターが、息づいている。彼ら彼女らはフィクションの存在だけれど、彼ら彼女らの悩みや葛藤、高揚感、興奮……あらゆる感情はどこまでもリアルで、少し馬鹿馬鹿しくて、そしてヒューマニティである。

 ちなみに、今月からはシーズン2も配信が始まっており、少しだけ見たが相変わらずなかなかいい。メイヴは学校に復帰できたのだろうか。オーティスは初めてできた恋人であるオーラと「ちゃんとできている」のだろうか。そしてメイヴはどのようなまなざしでオーティスと向き合っていくのだろうか。一つの終わりは、また次の物語の、次の人生のスタートラインでもある。

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不器用で仕方がなかった青春時代のこと ――『マイ・ビューティフル・デイズ』(アメリカ、2016年)余白と不連続が映し出す夏 ――『お嬢ちゃん』(2018年)