「幼保無償化による再分配の失敗」という統計的ファクトの解釈と、今後必要とされる議論を整理するナラティブによる揺さぶりと、二人の巡礼 ――『ドライブ・マイ・カー』(2021年)

2022年03月26日

プーチンの「方法」を今振り返る意味 ――『Putin's way』(アメリカ、2015年)






 「経済の停滞とウクライナ問題で緊迫するロシア。世界の目は、大統領ウラジーミル・プーチンに注がれています」
 「追い詰められた時のプーチンは危険です」


 こうしたナレーションでこのドキュメンタリーは始まる。もちろん2022年ではなく、もっと前(2015年)に作られたドキュメンタリーだが、2014年のクリミア編入の後というのは一つポイントだ。その時から(足掛け8年を経て)現在進行形で発生しているロシア・ウクライナ戦争を理解する一助にはなるだろう。(あくまで一助である。プーチンを理解することは重要だが、それがこの戦争のすべてではないからだ)

 かつてのKGB(現FSB)のスパイとしてキャリアをスタートさせた後、16年活動したのちにサンクトペテルブルグの市職員になり、副市長を務めるようになる。ここが、政治家としてのプーチンの活動のスタートであり、この時点から黒い政治に積極的に手を染めて、結果的にその黒い活動により自分のキャリアを築いていく。

 プーチンはやがてFSBの長官に就任し、エリツィンにも認められるようになる。そして、首相へ。このすべてを90年代にやっているのだから、「ただの元スパイ」としては十分すぎる出世コースだろう。人脈を築くこと、そのためには裏の世界とつながることともいとわない、手段を選ばないスタイルがすでに築かれていたことがよくわかる。

 90年代はソ連崩壊によって長くロシアが苦しんだ時代だ。そのため、2000年代に颯爽と登場したプーチンはロシア国民の期待を多く背負ったらしい。実際に2000年代のロシアは経済的には好況なディケイドで、BRICSと呼ばれる巨大な新興国家に名を連ねるようにもなる。このことは、当時高校生だった自分も現代社会や政治経済で学んだことだ。

 少し話を変えるが、廣瀬陽子の『ハイブリッド戦争』の中で、今のロシアを代表するPMC「ワグネル」についての記述がある。しかし、ワグネルの実態はまだよく知られていない。なぜなら、記者やジャーナリストがワグネルに近づこうとすると、「消される」からだと廣瀬は述べている




 このドキュメンタリーでもプーチンの闇、たとえばマネーロンダリングなどに接近しようと様々な人が登場するが、迫り切れない。全員が「消される」わけではないものの、核心に近づくことはできない。不都合な人間を排除する方法はいくらでもあるのだろう。

 1999年にはモスクワで高層アパートの連続爆破事件が起きる。このタイミングでプーチンは首相に就任しており、事件後にチェチェンへの侵攻を開始した。



 非常に奇怪な事件であるが、その後のチェチェン侵攻にあたってのプーチンのロジックは一貫している。目的のためなら手段を選ばない。敵を敵たらしめるために、自分の国の無実の民間人すら犠牲にする。同時に、まだ政治家として知名度がほとんどなかったプーチンが自分の存在をアピールするためにあちこちに登場したとドキュメンタリーでは語られる。

 このドキュメンタリーの邦題は「プーチンの道」となっている。彼の歩んだ足跡を表すという意味では悪い訳ではない。ただ、原題がway(roadではない)なので「方法」と解釈してもよいはずだ。いかにして彼は地位を駆け上がってきたか、そのhowがつまったドキュメンタリーであり、ある意味一貫してきたその手法(人脈構築に余念がなく、目的のためには手段を選ばない狡猾さと冷徹さを発揮する)は2022年にも顕在化している。

 もっと根本的に重要だとされるプーチンの歴史観についてはあまり触れられていない。これについては例えば以下の本で補う必要があるだろう。それでも、わずか50分ほどでプーチンの脳内と彼の歩みを把握できるという意味では、オススメの一本である。少なくとも2022年を生きるわたしたちは、彼の脳内を覗き見る価値はあるだろう、大いに。

ファシズムとロシア
マルレーヌ・ラリュエル
東京堂出版
2022-02-26



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burningday at 22:56│Comments(0)documentary 

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「幼保無償化による再分配の失敗」という統計的ファクトの解釈と、今後必要とされる議論を整理するナラティブによる揺さぶりと、二人の巡礼 ――『ドライブ・マイ・カー』(2021年)