Days

日常と読書日記。 受験生日記は閉幕です。

監督:マイケル・マドセン
脚本:マイケル・マドセン、イェスパー・バーグマン
日本版公式サイト:http://www.uplink.co.jp/100000/

見:2012/2/2@アップリンク渋谷

映画『100,000年後の安全』

 最初に見たのはNHKのBS1「世界のドキュメンタリー」で放映されていた49分の短縮版だった。(*1)淡々と進んでいく放射性廃棄物の”納棺”の映像は、北欧の深い森と白い背景と相まって長い長い埋葬のようだった。事実上、誰にも思い出されることのない状態を目指すのだから、埋葬といってもおかしくはないだろう。弔問者を予定しないという例外を残して。
 今回渋谷アップリンクで1週間限定で79分バージョンが上映ということで2月2日に見てきた。原発にまつわる映画を見るのは去年の4月にこれも渋谷で「ミツバチの羽音と地球の回転」(*2)を見て以来。この映画もなかなか興味深かったんだけど感想残してないんだな、惜しいことをした。

 映画本編について。色々と語り口はあるんだけど、時間への挑戦とその不可能性(おそらく)なのかなあ、と思いながら見ていた。
 100,000年後の安全という邦題にあるように、放射性廃棄物が安全とされる水準とされるまでには10万年の期間が必要らしい。オンカロという施設を100年間かけて作り、そこにデンマーク国内の放射性廃棄物を集めることにより”埋葬”を果たす―が目的なわけなのだが、10万年という数字にまったくもってピンとこない。
 10万年前と言えばちょうどこの前NHKスペシャルでやっていたように、ホモ・サピエンスやネアンデルタールの時代である。もはや人間ではない。もちろんそのころから今まで存在する建築物などない。

 もちろん数字だけをとらえて不可能性への挑戦とも言えない。重要なのは10万年間建物が存続することよりも、いかにオンカロ内部の放射性廃棄物が外の世界に影響を及ぼさないか、である。オンカロはあくまでも棺であり、遺体たる放射性廃棄物を覆うためにはそれだけの棺が必要だった、ということだから。あくまでフィンランドにおいては。
 この映画はだからオンカロ自体を告発しようという映画ではなく、オンカロなどというとてもとても壮大なものを建造しないと葬れない放射性廃棄物の存在だとか、それを排出する原子力発電というシステムを批判するものである。
 ただ、それもどちらかというと控えめなのはオンカロのドキュメントに傾斜している部分が多いからだろう。オンカロの事業会社だとか、中で作業員として働いている人たちの様子とか、登場人物は限られているしとりわけ多いともいえない。
 真っ暗で奥深いオンカロを撮影するのは一定の困難も極めただろうな、という演出がいくつかあって非常におどろおどろしく感じた。これは最初にテレビで見たときより、真っ暗な中で大きなスクリーンで見たときのインパクトのほうが当たり前だけどかなり大きくて、別にホラーでもサスペンスでもないのだがそれらを見ているような感覚にもなったのが印象的だった。

 不可能性という話に戻ってみよう。実は10万年という時間そのものではなく、10万年だろうが100年だろうが、わたしたちの未来を想定することはそもそも可能なのか、という問題に立たされる。だから実の問題は技術面よりも、想像力でありシミュレーションなのだ。
 オンカロの内部に放射性廃棄物を未来の世代に否応なく残すことになる状況で、とりうる方法はふたつだと映画の中で語られる。ひとつは、完全に忘れ去られること。もうひとつは、なんらかの方法で警告を伝えること。このふたつの方法は議論されているがまだ二分されていて決着はしていない。映画のなかでも両方の立場の人がそれぞれの持論を語る。批判としては、前者の場合は世代を超えた責任の問題になるし、後者の場合はその方法が問題になる。100年ならまだしも1,000年後を想定するとしても言語とか変わっているでしょう、とか。
 さっきも書いたけどあくまでオンカロのドキュメントであって、デンマーク国内で原発や放射性廃棄物の問題がどのように人々の中で受け止められ、議論されているかという様子は描かれない。このへんが少し入っていればリアルな感覚が分かってきたのだけれど、という感じは少しした。
 それでもまあ、想像することやシミュレーションができないなかでも何らかの決定をせざるをえない。議論を繰り返してもおそらく完全な解はないだろうし、より良い決断をしていかざるをえない。それはむろん、原子力発電そのものがとりまく問題でもあるだろうね。

 そんなふうなことを思いながら、じっと頭をぐるぐる回している79分だった。普通の映画の半分程度の長さだけどすごく長いような気もしたのが不思議だった。見終えたあともなお、どんより、じわじわとくる。そういえばこれ今年初めて見た映画だ。
 
映画『100,000年後の安全』


*1 内容紹介はこちら。来月にまた再放送されるようなので未視聴のかたはぜひぜひ。

*2 鎌仲ひとみさんという日本人のドキュメンタリー映画の監督がてがけた映画。2010年公開。瀬戸内海の祝島という小さな島の人々と、その近くに原発を建設しようとする中国電力の30年にもわたる戦いのお話。と書くと陰鬱にもなるけど映画の雰囲気はめちゃくちゃ明るいしユーモアたっぷりなので(もちろんシリアスな部分も描かれるが)見ていて単純に面白かった。その祝島のパートと、スウェーデンの電力事情をドキュメントしたパートが描かれる。なんで日本のような技術力のある国が自然エネルギーに力を注がないのか、という趣旨の発言が印象的だった。
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