生まれる家は選べないが、自分の人生は選択できるはず ――『あのこは貴族』(2021年)2021年3月の読書記録

2021年03月31日

人間関係とコミュニケーションを繊細かつ力強く ――『ファーストラヴ』(2021年)





見:イオンシネマ高松東

 島本理生の書いた「ミステリー小説」である直木賞受賞作を堤幸彦が映画化するということでこれは絶対見たいなと思っていた。タイミング的に本作と『シン・エヴァンゲリオン劇場版』を同日に見ることになったのだが、この映画だけでもうかなり大満足という気持ちを抱いた。どの役者も役柄を存分に演じていたことや、犯罪とそのカウンセリングを題材にした難しいイシューを正面から上手く取り上げたことをまず評価したい。

 この映画には心理学者である福島哲夫が監修に入っており、パンフレットにもコメントを載せているように、心理職が本作を見ても大いに楽しめることだろう。また、以下の原作レビューでも触れたが心理職であってもおそらく馴染みが深いとは言えない司法面接の場面が多く取り上げられていることも映画化する意味(一般の人が多く触れられるという意味で)は大きいと感じた。



 前置きが長くなったが、本作のために髪を切った北川景子や、「チャラいが有能」な弁護士をそのまま体現していた中村倫也、そしてメディアからサイコパスと揶揄された殺人事件の被疑者を芳根京子が非常にうまく演じている。ここで指摘したい上手さというのは演技の技術的な上手さというよりは、感情表現の上手さだ。

 北川景子は公認心理師の真壁由紀を演じるが、由紀は淡々とカウンセリングをするキャラではなく、どちらかというと情に入ってしまいがちなキャラでもある。本作の場合、彼女がなぜそこまで被疑者に肩入れするのかというところもミステリーとして重要な要素になっているので、純粋にカウンセラーとしてふさわしくないわけではない。むしろ弁護士と適宜連携して被疑者のカウンセリングを進める様子は有能だと言ってよいだろうし、クライアントに共感する能力も必要なことだろう(もちろん一線を引いた上で)。

 そのパートナーである弁護士、庵野迦葉を務めるのが中村倫也だ。有能さを自負したような自信と、その危うさを常にはらんでいる面白いキャラクターを演じつつ、クライアントに対して真摯すぎる由紀をセーブする役割を迦葉は担っている。二人の過去を適宜挿入する中で、社会人になった二人の間に残った禍根がどのように氷解していくかも見どころで、二人が感情をぶつけ合う様は鬼気迫るシーンが多い。

 そして、二人にとって重要なのが庵野我聞であり、演じる窪塚洋介だ。迦葉の義兄であり、由紀の夫でもある我聞は、映画の中では基本的に目立たない。「目立たないが、そこに確かに存在することが重要」という役割を、気づけばアラフォーになった窪塚が好演している。自分が前に立つのではなく、後ろあるいは誰かの横に「居る」という演技を窪塚がしているのは単純に面白いというか、役者の円熟味を感じる二時間でもあった。

 内容については原作をなぞりながらなんとか二時間に圧縮したなという形でまとまっている。映画で印象的だったのは、パンフレットで西森路代が詳しく触れているように映画を通じてフェミニズムの要素を浮き彫りにしていることだ。真壁由紀自身が結婚後もバリバリ働く女性であり、自宅でも仕事をするシーンが何度か描写される(そして自宅ではいつも料理をしたり妻を気遣う我聞を窪塚が好演している)こともその要素の一つだろうなと感じるし、その由紀と、芳根京子演じる環菜が共通して秘めている傷にしっかり向き合っていることが強く印象に残る。それくらい、由紀と環菜の面接の場面はインパクトが強く、かつとても繊細である。

 そして、性被害という傷を取り上げることである。島本理生は芥川賞候補にもなった「夏の裁断」でこのイシューを取り上げているし、引き続き関心のある題材であることがうかがえる。「夏の裁断」の経験があったからこそ、長編の中で、しかも二人分の過去の中に性被害とその傷を導入するという難しいことをやっているのだろうと感じた。

 映画の中でも傷を描き、そしてそこからの回復や癒しをどのように表現するかが、実は最も重要な要素となってくる。ゆえに由紀と環菜、すなわち北川景子と芳根京子の鬼気迫るようなコミュニケーションの応酬が素晴らしかった。どこまでが演技で演技でないのか分からないような、キャラクターが乗り移っているのではないかと感じるほど力強く、かつ繊細に演じていた芳根は本当に見事だったし、冷静と情熱の間を行き来して彼女を受け止めようとする北川の演技も同時に素晴らしかった。二人がそれぞれに役を強く演じることで相乗効果も生まれたのだろうなと、先に引用した舞台挨拶のコメントを聞いていると感じる。そして、とりわけ環菜が背負ってきた抑圧とか呪いとか傷とか、それらに大胆に切り込んで行く危うさも描きながら告発するまでの流れをダイナミックに描く様子はさすが堤幸彦である。

 原作から映画、映画から原作はどちらでもハマる映画だと思う。もう公開が終わった地域が多いかもしれないが、足を運べる人はぜひぜひという作品だ。

ファーストラヴ (文春文庫)
島本 理生
文藝春秋
2020-02-05


 本作は一年前にNHKでもドラマ化されており、こちらは真木よう子が主演している。こちらは見逃したがオンデマンド配信されているようなのでそのうちチェックしてみたい。




このエントリーをはてなブックマークに追加
burningday at 12:26│Comments(0)movie 

コメントする

名前
 
  絵文字
 
 
生まれる家は選べないが、自分の人生は選択できるはず ――『あのこは貴族』(2021年)2021年3月の読書記録