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2019年04月26日

黄前久美子の飛躍と彼女のアイデンティティ ――『劇場版 響け!ユーフォニアム 〜誓いのフィナーレ〜』(2019年)



見:大阪ステーションシティシネマなんばパークスシネマ(二回目)

 原作である『響け!ユーフォニアム 波乱の第二楽章』前後編では、今回の映画部分と『リズと青い鳥』にあたる部分から構成されていたわけだが、下巻に相当する『リズ』をユーフォシリーズの直系ではなく別の作品として映画化し、そして満を持して「劇場最新作」として今回の映画が公開された。制作段階では同時公開も狙っていたようだが、実際には約一年のブランクを空けたことで丁寧に作られている印象を受ける。なにより、ポストリズ青としての映画製作になっているな、と思われる描写、演出が随所にあった。原作通りの流れにするとリズ青のほうが後に公開されていても自然ではあるが、あえて逆にすることですぐれた原作を京アニ流に大胆に再構成、アレンジした、というのが大きなポイントではないかと思う。

 原作については二年前の秋に発売当時に読み、その評価はmediumにアップしているのでそちらもご覧いただきたいわけだが、つまるところ改めて黄前久美子というのはどういう女の子であるのか?というテーマを突き詰めているのだと感じていた。この原作のエッセンスは、原作最新刊である『響け!ユーフォニアム 決意の最終楽章』にも引き継がれているが、映画でも久美子演じる黒沢ともよの抜群の演技も相まって(ほんとうにこの人はすごい)より魅力的に映るのがとても良い。

 おそらく一般的なストーリーなら高坂麗奈を主人公にしたほうがドラマチックであるだろう。中三時のコンクールの悔しさを抱え、鳴り物入りで高校デビューし、一年の夏からトランペットのソロパートを勝ち取る。これだけでも十分すぎるくらい主人公格である。でもユーフォシリーズの場合、その麗奈においてもあくまで久美子の視点から語られることに意味がある。どちらかといえば平凡な、普通の吹奏楽部員だった中学時代の久美子が、麗奈の涙に感化されたところからすべての物語が始まっていく。この映画でもそのシーンが回想されていただけに、改めて印象に残った。ここが物語のスタートであるからこそ、久美子を主人公に据えることに意味があるわけだ。

 今回の映画で二年生に進級した久美子は、卒業していった旧3年生たちの喪失感も味わいながら、新しく部に加わった様々な一年生たちと向き合っていく。とりわけ低音パートに加入した4人の一年生にスポットが当たるが、その中で問題児筆頭なのが、表向きは「良い人」を演じているようで腹の底をなかなか表に出してこない久石奏であるだろう。たた奏がやっかいなのはまだわかりやすく、個人的にはダブル鈴木のうちのみっちゃんの抱えているジレンマの方が、表向きにはわかりづらく、見えづらい。こうした新入部員への心理的アプローチで苦慮する久美子に、先輩兼一年生指導役としての成長を垣間見た。


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 やや先取りになってしまうが、原作最新刊では次のようなやり取りがある。久美子たちの世代は滝先生に一年生の時から育てられた世代ではあるが、下級生にあたる奏以降の世代は「すでに北宇治が強かったから」入部した世代である、と。この感覚の違いは、たとえば高校スポーツの世界でもよくあることだとは思うが、チームでパフォーマンスを出すことが大事である一方、学年やパートごとの集団による感覚のズレは常に存在する。

 だからというわけではないかもしれないが、気づけば下級生たちに「黄前相談所」と名付けられた久美子の「カウンセリング」は、そうしたズレを少しずつ解消していく。優しくなりすぎず、でも厳しくなりすぎない。そうした久美子の姿勢が、少しずつ奏の中にも変化を生んでいくのが面白い。

 先ほどから何度か久美子の成長という言葉を自然と使ってきたが、久美子からすると「成長」という言葉は少しむずがゆいかもしれない。あすか先輩はまだまだ遥かに遠い存在であって、容易に超えられるものではない。どちらかというと、ブレのなさと、フォアザチームの精神の両立が、ゆるぎない信念として久美子の中に確立したのが今回の劇場版なのかなと思う。すでに出来上がっている集団に入っていった一年生の時とは異なり、自分たちの世代が十分主役になっていいということ。かつ、新しいメンバーたちをどのように受容していくのかということ。こういうところは、日々組織にもまれている社会人の立場の方が、久美子に共感できることかもしれない。

 しかしともすれば久美子自身に大きな負担がかかり、つぶれてしまいかねない。でもすぐそばに麗奈がいる、葉月がいる、緑輝がいる、そして優子や夏紀や、秀一がいる。久美子が優れているのは一人で抱えすぎないこと、そしてさっきも書いたブレのなさである。テレビシリーズを通じて作り上げられた「もっとうまくなりたい」という純粋な思いが、いまでも久美子を力強く支えている。だからこそ、奏とのあの雨の中の疾走が生まれるのだ。

 ほんとうに黄前久美子は魅力的なキャラクターになったと改めて確認できる、彼女のアイデンティティが凝縮した、すばらしい110分だった。あと、一切セリフのない『リズと青い鳥』の主役二人が、最後の最後に美しいシーンを演じて見せるのも、ずるい演出である。


※参考
誰かのためには生きられないが自分の人生を生きることはできる ーー『リズと青い鳥』(2018年)
成長する黄前久美子と役割を果たす小笠原晴香 ――『劇場版 響け!ユーフォニアム 〜届けたいメロディー〜』(2017年) 
高坂麗奈へとたどりつくまでの奇跡的な軌跡 ――『劇場版 響け!ユーフォニアム 〜北宇治高校吹奏楽部へようこそ〜』(2016年)










リズと青い鳥[Blu-ray]
種敦美
ポニーキャニオン
2018-12-05





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