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日常と読書日記。 受験生日記は閉幕です。

 このエントリーは2月16日に行われた、【ものを書くための、読書会 vol.21(テーマ:「私と本」)に参加した際のエッセイで、30分即興で書いたものを掲載します。接続詞や助詞などをやや直した以外は、当日発表したものとほぼ同じです。文の展開がややごちゃごちゃしていますが、即興ということもあるのでご了承ください。

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 私がかつて難病患者でなければ、こんなに本を読まなかっただろう。もしくは、本を読んだり、文章を書くことが楽しいと思えるのは、もっと後だったと思う。(※神経系の難病に罹患し、闘病していた時代があったというお話です)
 最初に長い入院にしたのは5歳のころで、5歳の男の子にとって入院生活はまああまりに退屈なものだから、病室を抜け出して他の病室に不法侵入するか、誰かから差し入れられたスラムダンク全巻(※当時まだ未完だったので、既刊の全冊)を読むのが数少ない楽しみだった。退院した後、「俺は天才だ」と叫びながら、しかし桜木花道ではなく三井寿にあこがれてシュート練習をしたのをよく覚えている。
 次に長い入院をしたのは10歳の時だが、この時は病状が重かったので、本を読む余裕はなかった。
 その次が13歳の時で、この時に小説を読むことに真に目覚めてしまった。この頃、2ヶ月ほど入院したものの比較的病状は軽かったので、たくさんの本を持ち込んでいた。橋本治に出てきたジェフリー・アーチャー(※今回課題となって輪読した橋本のエッセイ)の『ケインとアベル』や、ワイルドアームズ3のノベライズや、『聖の青春』で有名な大崎善生のデビュー小説や、要はジャンルというものが分からないから、新刊として売っていたものと、親の本棚にあってものを持ち込んだのであった。
 一番退屈をしのげたのは司馬遼太郎を読んでいた時だ。文庫で8巻ある『竜馬がゆく』を読むのは、流行のマンガを読むことよりも面白かったと思う。

 この時の経験がなければ、すでに遊びで始めていたインターネットで本の話をしたり、書評を書くためにウェブサイトを13歳の年に作ることはきっとなかった。もちろん、先の人生にもきっかけはあったと思う。でも、この時に入院していなければ、ゼロ年代初期のインターネットを楽しめてなかったのではないか。
 そもそも今の自分の原型はすべてこの時にある。平日は陸上部で毎日走り、家に帰っては本を読み、チャットをするなどしてネットで遊ぶ。この後の人生でたくさんのことを経験するが、走ること、本を読むこと、文章を書くこと、これらを三位一体でやっていたこの時はとても楽しかったし、今の自分を支えているのも13歳の自分のおかげだと思う。
 だから今でも、2月になると地元で丸亀ハーフマラソンを走るのが楽しい。走りながら文章のアイデアを考えることもよくある。読むことと書くことと、走ることは社会人になった今では仕事のストレスを発散させるための、とても安価で有効な方法だ。そしてもちろん、今いるこの場所(※カフェみずうみにおける読書会のこと)も、遠征という形で日ごろのストレスから解き放たれて、読むことと書くことを楽しんでいる自分がいる。
 だから今の私は、13歳だったころの自分感謝しかない。今後の人生においても、自分の原点だったリトルバーニングが、病院というとても不自由な空間で編み出した自由な生き方を、忘れてはいけないと思う。
 あれから気づけば16年経ち、2019年2月16日の今日、私は29歳になった(※事実です)。苦しかったことを乗り越えて、ここまで生きてこられたことに感謝したいというのが、私と本の間における重要な関係性である。 (了)







ケインとアベル (上) (新潮文庫)
ジェフリー アーチャー
新潮社
1981-05-27



パイロットフィッシュ (角川文庫)
大崎 善生
KADOKAWA / 角川書店
2012-10-01




◆追記
 病気のことについて追記する。追記する理由は上のエッセイではあまりにも説明してないから(即興なので許してほしい)ということと、13歳以降の至って健康な自分を知っている人からすれば、かつての自分がこうだったということは知らない場合が多い。
 わざわざ話すネタでもないので当然といえば当然だが、逆に地元の同級生や当時の教師はほぼ全員が自分が病気していたことを知っているはずで、このへんのギャップがあることを、エッセイを発表するまで忘れていたせいもある。なので改めてここで、コンパクトに、ではあるが少し病気についての追記を行う。
 私がかつて経験した病気は多発性硬化症・視神経脊髄炎/重症筋無力症の合わせ技だったが、いずれも当時の難病指定56疾患に指定されていたため、特定疾患医療受給者証を取得し、公費による難病医療助成を受けて治療することができた。その後も一年ごとに受給者証の更新を行ってきた。
 現在は「難病法」の施行により約300疾患にまで拡大されたが、私自身は13歳時の再発以降は長らく軽症患者であったため、現在は受給者証を所持していない。ただ、軽症患者を助成の対象から切り離して良いのかどうかについては議論がある。
 私と同じ病気を経験した人の著者としては次のものに詳しい。

難病東大生
内藤 佐和子
サンマーク出版
2009-10-09



 また、大野更紗の著作も、彼女とは違う病名ではあるが症状の出方や、役所に出す書類のめんどうくささなど、読んでいて共感できる(というか昔経験した)ことが多くあった。

 
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