新しい形態の犯罪者集団はいかにして暴かれたのか ――『サイバー地獄:n番部屋 ネット犯罪を暴く』(韓国、2022年)何もする気になれなかった、2日間のこと

2022年06月02日

ハイブリッド戦争の最前線への潜入 ――『Wagner:Putin’s Shadow Army(ワグネル:影のロシア傭兵部隊)』(フランス、2022年)




 以前紹介した『Putin's Way』はプーチン政権の残酷さを時系列的に告発する優れたドキュメンタリーだったが、本作『Wagner:Putin’s Shadow Army』もまた、プーチンがこれまで試みて来た戦争の実情を示す、格好のドキュメンタリーである。2022年だからこそ見るべき、といった類の。



 本作の取材対象である「ワグネル」と称されるロシアの民間軍事会社は、実質的にロシアの傭兵として機能している組織だ。ロシアが関係している民間軍事会社はワグネル以外にも多数あるが、その中でも実力が随一なのは、彼らが多くの内戦に派遣され、アフリカや中東などの各国の政治をかく乱している存在だという事実から伺える。このドキュメンタリーでも中央アフリカ政治と密接に関係し、堂々と、かつ巧みに作戦を実行していく姿がカメラにとらえられている。

 前回も紹介した廣瀬陽子『ハイブリッド戦争』によると、ワグネルに接近したメディアやジャーナリストは過去にも存在するが、その過程でいくつかの不審な死が発生している。廣瀬によると、それらはワグネルによって「消された」のと同じだと言う。かくしてワグネルはジャーナリズムを近寄せない。本作は、元ワグネルの軍人を初めて直接取材できた貴重な記録でもある。(とはいえその男は、自分のやってきたことを堂々としゃべるだけの小物にしか見えなかったが)

 どちらかというと、もう一人の取材対象者、「バシリー」と名乗るワグネルの代理人という肩書の男の言葉の方が重要だ。彼は先ほどの男のように顔を出すことはせず、安全な場所で取材を求めてくる。家族を持つ、表の人生を持ちながら、裏の人生で世界中で仕事をしているという彼のような存在がワグネルを機能させていること、そしてそれがロシアの戦略に寄与していることが見えてくる。

 「プーチンとその側近たちは国際舞台でのロシアの復権を考えています」というロイターの記者の言葉が印象的だ。そのための戦略の一つは、西側をかく乱し、弱らせることだ。バシリーは言う、「冷戦は終わっていない」のだと。これらは今回のロシア・ウクライナ戦争にまさに直結する言葉である。このドキュメンタリーの最初の方でドンバス地方に送られる話が出てくるが、2022年にもまさにワグネルはウクライナのあちこちで暗躍している。

 小泉悠が『現代ロシアの軍事戦略』で行っている次の指摘も、ロイターやバシリーの指摘と重なる。
 
クリミアやドンバスにおいて軍事力が作り出した「状況」は、ウクライナを紛争国家化することであった。ウクライナを征服して完全に「勢力圏」に組み込むのではなく、同国が西側の一部となってしまわないように(具体的に言えばNATOやEUに加盟できないように)しておけばそれでよかったのである。非軍事的手段や民兵による蜂起ではこの目標が達成できないと見ると、ロシアは正規軍やPMCを送り込んだが、その任務は戦争を終わらせないことであり、実際に2021年現在に至るもウクライナは紛争国家であり続けている。「勝たないように戦う」ことがウクライナにおけるロシア軍の任務なのだと言えよう。(p.171)

 ワグネルは表向き(?)は会社なので、マーケティングや広報を行ってリクルーティングを行う。その手法も本作では一部が明かされているが、情報のコントロールや動画メディアを駆使したリクルーティングは、そのまま政治や紛争介入の正当化のための広報戦略といったハイブリッド戦争の手法に近い。

 人集めも、戦争も、いかに正しいか、いかに偉大かといった情報の書き換えにより、正当化してゆく。しかしそれはもちろんゆがめられた事実であり、オルナタファクトであるわけだから、真実を追うジャーナリストが「消される」のも当然だ。ジャーナリストが兵士として志願しないよう、うそ発見器も使うとバシリーは答えていた。

 こうした厳格な情報管理の中で危険な取材を試みたこのドキュメンタリーは、2022年の今こそ見るべき一本だろう。








このエントリーをはてなブックマークに追加
burningday at 00:58│Comments(0)documentary 

コメントする

名前
 
  絵文字
 
 
新しい形態の犯罪者集団はいかにして暴かれたのか ――『サイバー地獄:n番部屋 ネット犯罪を暴く』(韓国、2022年)何もする気になれなかった、2日間のこと