Days

日常と読書日記。 受験生日記は閉幕です。



見:Jaiho

 『アワ・ボディ』に続いてJaihoで配信されている中から気になっていた『オスロ、8月31日』を見てみた。『7月22日』で大量殺人犯のブレイビクを冷酷に演じたアンデルシュ・ダニエルセン・リーが、この映画では34歳の薬物依存患者アンデシュを好演している。彼の特徴は、孤独かつ孤立である。孤独なだけならまだよいかもしれない。ただ、リハビリ施設に入所し、つかの間の「社会」でのひとときを過ごす様子を描くこの映画は、徹底的にアンデシュがいかに社会から孤立した、取り残された存在であるかを描き出す。

 例えば映画の前半で就職活動をするシーンがある。雑誌出版社への面接に足を運び、実際に面接を受けるが、次第に彼は意欲を失っていく。面接の前にはある友人夫妻を訪問しているが、依存症患者で職歴もバラバラな34歳の自分には何もないことを実感させられる。その無力感を再確認した就活の面接で彼は、本当に自分には何も残されていないと悟る(もちろんこれは彼の思いこみ、ではあるのだが)。

 自分には何もない、今もこの先も。ある意味俗にいう「無敵の人」に近い存在になったアンデシュがどういった行動を起こすのかをそわそわしながら見守ることになる。ただ、何か特別なアクションを起こすというより、残された時間をどう生きるのかというミクロな行動や感情の生起に焦点が当たっていく。人生のそのどうしようも無さがそこかしこに表出しているのを淡々と撮り続けるカメラと、表情や言葉の些細な変化で演じるアンデルシュ・ダニエルセンー・リーの演技がとてもよかったと言える。『7月22日』とは違った意味で、まともな感情を失ったキャラクターを演じるのが抜群にうまい。

 夏の終わりでもある8月31日に向けて進むストーリーのせいか、あえてドラマチックに、印象に残るように作っている要素もある。束の間の夢のようでもあり、しかしそれは夢ではなく現実の一部でもあるというアンビバレンスさを詰め込んだ夜から朝にかけてのシークエンスは、アンデシュの心の動きとはおそらく連動していない。彼の心の動きとは無関係に周囲の人間たちはリアルな時間を生きている。ゆえに孤立が際立つ。

 こうした孤立の克服できなさをいくつもの場面で経験することになるアンデシュにとって、このオチ以外はないのだろうという終わり方を選択する。良くも悪くもそれだけと言える映画かもしれないが、社会の中(の人間関係)における孤立、あるいは社会の外にある孤立(社会の中になじむことができない疎外感や無力感など)を描いた映画としては白眉な作品だと言えるだろう。
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