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日常と読書日記。 受験生日記は閉幕です。

 10月から続いていたP.A.WORKSのアニメ『SHIROBAKO』が(半ば予想通りのような)大団円で幕を閉じた年度末を経て新年度に至るってなかなかうまいなと思ったりするわけだけど、新年度になってしまったいまこそ『SHIROBAKO』的なものを求めている人って多そうだよねとも思うわけだ。
 というかたぶん俺もそのうちの一人だろうなという思いがあるので、こういうタイトルのブックリストを作ってみた。
 最初はクリエイターに焦点を当てたお話中心にしようと思っていた(『SHIROBAKO』の絵麻、みーちゃん、りーちゃんやその他ムサニの面々を思いながら)けど、もっと幅広く『SHIROBAKO』的な醍醐味を深く味わうためのブックリストという感じになった。

 あと、10選のつもりが2つ増えて12選になったので、アニメの1クール分ということで毎週1作品消化すればちょうどいいかもしれない。
 いくつか古いものもあるけど比較的ここ数年のうちに読んだものを中心に選んでみたので、興味があるところから手にとっていただけると幸いです。感想も聞きたいです。
 それでは行ってみよう。

◆クリエイターの物語

 『SHIROBAKO』といえばまずなんといっても、アニメの製作現場が舞台ということでクリエイターの群像劇として(良くも悪くもきれいに)できあがっている。
 なのでそんなクリエイターの物語をさらに楽しみたい人向け。

丸戸史明『冴えない彼女の育て方』(富士見ファンタジア文庫、2012年〜)
冴えない彼女の育てかた
丸戸 史明
KADOKAWA / 富士見書房
2012-09-07






 ライトノベル(既刊7巻、外伝2巻)。みゃーもり、りーちゃん枠。
 関東では1月から『SHIROBAKO』放映後1時間弱のうちに放映されていたのでいまさら感もあるかもしれないけど、ファン層がかぶっているかというとそうでもなさそうなので最初に推しておく。
 消費オタクの高校生が一念発起して同人ゲームを作るために周囲の美少女を勧誘(というか攻略)していくタイプのラノベを、『WHITE ALBUM 2』などの作品を書いてきた丸戸史明が執筆というガチ感。アニメ本編は原作の4巻あたりで終わったのでやや尻切れな感じがしたので、続きとかスピンオフを読んでより「なぜ創作するのか」というところをつきつめていけるクリティカルさを味わって欲しい。
 ヒロインの魅力と、「なぜ」という動機の部分がかなり密接に絡んでいるのはあくまで趣味の延長である同人ならではかもしれない。

柳本光晴『響 小説家になる方法』(スペリオールビッグコミックス、2015年)



 マンガ(既刊1巻)。りーちゃん枠。
 廃部寸前の高校の文芸部にヒロインが入部して無双するのかと思いきや、もっと緻密に小説を書くとはどういうことかから始めているところに好感が持てる。
 ヒロインは個人的に公募にも応募しており、個人の活動と部活での活動が並行していくことになりそう。のっけからマンガと比べると純文学の売れなさみたいなものが編集部の話として書かれるあたりのリアリティは(その話をマンガで読んでいるという媒体的な妙味もあって)クリティカル。
 あと帯もなかなか皮肉に富んでいるので、新しいうちはぜひ紙で、というところかな。

吉田基已『夏の前日』(アフタヌーンKC、2010年〜2014年)



 マンガ(既刊5巻、完結済み)。絵麻、みーちゃん枠。
 日吉芸大という美大に通う主人公と、画材屋の女主人との濃密な恋模様と主人公の油絵への思いが交錯していく味わいが楽しい。『水の色 銀の月』にも登場する主人公の前日譚という形で書かれている。
 冴えカノに通じるのは「なぜ描くか」という点と、「誰を想って描くか」という要素が美大生という一人のワナビ−の心情として複雑に絡み合っているところだろう。
 現実なら年上のヒロインに完全に溺れかねないところを、きわどく回避させる吉田基已の器用さが光る。溺れかけていく快楽と、しかし「なぜ」、「誰のために」描くかという根源的な思いの両立はなかなかに難しい。
 最終的にどのような選択をするかについては、多くのクリエイターが密かに抱えている思いの表れなのかもしれない。

日本橋ヨヲコ『G線上ヘヴンズドア』(IKKIコミックス、2003年)


 
 マンガ(既刊3巻、完結済み)。絵麻、みーちゃん、りーちゃん枠。
 日本橋ヨヲコの作品はどれも大好きだけど、この作品の醍醐味は成功の先にも必ず大きな落とし穴はあって、好きなことを続けていくことの難しさと、だから面白いって部分を短い中でうまく両立させているところにあるんだろうと思う。
 物書きと絵描きのコラボは『バクマン』でも使われているネタだが、本気のぶつかり合いが見せる物語のエネルギーは半端じゃない。かつ、物語的なシリアスさとマンガ的なコメディを両立させるのもお手の物といったところで、そのへんは完全に安心して読めるし、しっかりカタルシスも味わえる。
 今回挙げた中では一番昔に読んだので、久しぶりに時間作って読み返してみたい。その勢いで日本橋作品全部ひっくり返す流れにもなっちゃいそうだけど。


◆アニメーションの可能性
 
 『SHIROBAKO』が描きたかったのは結局のところアニメとして表現することの面白さだったのではないかということを、作中作の一つ『アンデスチャッキー』を見ながら思った。
 『アンデスチャッキー』が示したのはもう一つ、職人的なアニメの世界がかつて存在したことと、それが歴史となっていまに続いているという時間の流れだ。
 そうした時間の流れと、アニメという表現の面白さと現場の熱量を伝える(あえてガチな)二冊を紹介する。

トマス・ラマール『アニメ・マシーン』


 
 アニオタには不向きな媒体かもしれないが、アニオタこそ読むべきといった感じのアニメ研究の大著。
 戦前の日本アニメの歴史から宮崎駿、庵野秀明の表現スタイルまでといった長い目線で分析したアニメ研究を日本人ではなく、カナダの日本研究者にやられてしまうのってどうよという気はまあするにしても、たとえば東浩紀の動ポモ理論がどのような形で受容されているのかという一例が垣間見えるという面白さもある一冊。
 クソ分厚いのでさすがに図書館で借りて読んだが、普通に一家に一冊あってもよいくらいの情報量。その膨大な参考文献や図表も貴重なので読むべし、読むべし。


イアン・コンドリー『アニメの魂:協働する想像の現場』
アニメの魂: 協働する創造の現場
イアン・コンドリー
エヌティティ出版
2014-02-24



 こちらは細田守までをフォローした文化人類学のアプローチによる研究書。なのでとにかく現場に入り込み、細田アニメの製作現場やコミックマーケットにまでそのフィールドは及ぶ。以前早稲田で一度拝見したことがあるし、日本にはわりと頻繁に来ているのだろう。
 この本が書きたかったのは「魂」(soul)とふられたタイトルにあることそのままだ。魂はそのまま熱、エネルギーといった言葉に置き換えられるが、日本のアニメーションやその周辺の文化がどのような魂を持った人たち(制作側のみならず、ファン層においても)によって成り立っているかを様々な現場に入り込んで分析していく。
 アニオタとして面白かったのは海外オタによるファンサブ文化に切り込んだところだろう。日本で放映されたアニメの映像に外国語字幕を載せて再編集する形は著作権的に明らかに黒に近いグレーだとしても、一つの海賊文化的な側面の魅力とその魂はあっさり看過できるほど小さいものではない。


 以上、長くなったのでとりあえず前編の6作品まで。後編はまた後日。
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