監督:古厩智之
脚本:古厩智之、大野敏哉
原作:誉田哲也『武士道シックスティーン』
主演:成海璃子、北乃きい

劇場:テアトル新宿

 小説でも話題になっていた武士道シックスティーンが、映画化するという。しかも成海璃子と北乃きいの主演という、最近の10代の女優では一番勢いがあるんじゃないかというふたりが主演ときたら(しかも北乃きいに惚れている身とすれば)見に行かざるをえない。ということで公開初日にすたこらとテアトル新宿に足を運んできた。舞台挨拶直後で、余韻が残るテアトル新宿は公開初日ということもありかなりの人が入っていた。若い人、高校生もいたけど、むしろ中高年といった年配の人が多かったように見受けられる。かわいい女の子ふたりを見に来たんですねわかりm(偏見乙

 北乃きい演じる西荻早苗は東松学園という女子中高一貫校のいち剣道部員だった。中学時代の彼女は、実は全中チャンピオンの磯山香織(成海璃子)に勝っていた。早苗は忘れていたが、根に持って忘れない香織は早苗の高校に外部入学し、剣道部で早苗を発見する。早苗にライバル心むき出しな上に、1年生でありながら剣道部を全国に連れて行く、という気概だけが空回り。東松剣道部は強くはなるものも、主将の村浜ゆかり(高木古都)の反発を買うなど、香織はなじめずにいた。

 予想はしてたが、北乃きいと成海璃子の役回りがドンピシャである。感情あらわにする場面では彼女たちの素に近い形が随所に出ているし、年齢的にも高校生役にはぴったり。20代の役者が高校生役をやって不自然に感じることがままあるが、それは全くなくて、胴着がよく似合っていた。立ち回りもかなり鍛えたようで、本物の剣道部員がエキストラとして入っていたようだが違いが分からないくらい遜色がなかった。このあたりも最低限度ではあるが、これを満たせない映画やドラマはいくらでもあるので、全体として期待通りというよりも期待以上の出来だった。

 香織が剣道部で独走する様や、村浜がそれに対して公然と嫌悪を示す様、ささやかれる陰口・・・など高校の部活という若くて小さな組織間で当然のように怒る軋轢も過度な演出なく自然な形で見受けられるし。村浜役の高木古都という女優は迫力というか、主将としての風格を全面に出していて、あくまでも早苗と香織が主役のストーリーではサブキャラには違いないが、異彩を放っていたのは確か。早苗の友人役だった山下リオはちょい役すぎた、かな。出演していた女優がほぼ全員90年代生まれなんじゃないかと思われるので、新しい世代の中で勢いのある女優を見たい、という人にもオススメしたい。主役のふたり以外にも、後々出世する女優がきっと出てくるだろう。

 見終えて思うのは、ここまで若々しくて極端なくらい純粋な映画は久しぶりに見たということ。高校の部活という本気にならざるを得ない設定は、否が応でも等身大の高校生心理を描写する必要がある。香織のとまどい、早苗の自信のなさ、ふたりに共通する家族の悩み・・・などなど、若い観客は距離感が近く感じるだろうし、大人の観客は昔のことを思い出したり、子どものことに思いを馳せたりしたんじゃないだろうか。それだけのリアルさを感じられたのは、演技者たちも同時に若い存在であることと、

 磯山香織がある悩みを抱え、公然と反発する剣道部員とそれらを見守る顧問の存在が、リアルさを加速させるためには非常に効果的。構成上主人公ふたりにスポットが当たりがちなんだけれど、脇役陣が主役ふたりのサポートに徹していることで、さらに主役ふたりが際だつことにもなっている。早苗の父親の板尾をそこで出すか!とかね。しかもあの役だったら最近見た「空気人形」の板尾を想像してしまうじゃないか、偶然?

 そしてたぶん、香織の悩みは若さゆえだけのものではなく、けっこう普遍的なんじゃないかとも思う。周りが見えずに自分中心になっている人は大人にもいくらでもいる。どういうきっかけで、どこで気づくかは分からない。一生気づかないかも知れない。けれど、気づけたときの大きさっていうのは、その事実以上に気づかせてくれた誰かや何かがあるということで、それがこの世代にとっては大人への一歩という意味での成長にもつながる。これはあとになって分かる大きさだろうし、貴重さだと思う。主役ふたりの表情が、出会ったときと映画のラストでは大きく変わっているのが特徴的。まるで別人である。

 特筆すべきオリジナリティというものはこの映画には存在しない。ただ、出演者が全員本気で等身大の人間を演じ、かぎりなく純粋でシンプルであることが、何よりもこの映画のクオリティを後押ししている。3Dやなんやらで新しさや派手さが期待される一方、こういう手触りを大切にしている映画の存在を大事に思いたい。大事だよね、そういう気持ちも。