Days

日常と読書日記。 受験生日記は閉幕です。

2022年06月

 5月のある日の夜だったと思うけれど、食事をとり、入浴し、部屋でリラックスしていた後、何もする気になれなかった。いつもであれば読書をしたり、勉強をしたり、文章を書いたり、暇だったらスペースに参加していたりする。そうした、自分の趣味の領域のことですら、何もする気になれなかった。布団に寝転んでツイッターを開いてみたけど、タイムラインの内容が全然頭に入ってこない。ただただ文字が並んでいるだけで、その内容が頭に入らないため、見ているだけだ。読んではいない。文字を読む、というごく日常的な行為ができなかった。

 こういう時があるんだなということを、久しぶりに思い出した。もうずいぶん前のことになってしまうが、2013年〜2014年のある時期、うつ状態の診断を受けて当時通っていた大学院の修士課程を休学し、実家にひきこもっていた。次第にリハビリのためにバイトを始めるようになったが、そうやって身体を動かしたり外出できたりができるのはまだまだマシな方で、「何もする気になれなさ」をずっと抱えていたように思う。やりたいことも、やりたくないことも、どちらもしたくない。行動を起こしたくない。何もしないから、ただただ横になっている。そういう生活が、数週間〜数ヶ月ほど続いていたことを思い出す。

 もしかしたらそれに近いのかなと思い、最近起きた「ある日」の夜をやり過ごした。夜はしっかり睡眠を確保したが、朝起きても気分はすぐれず、何もしたくないので起き上がりたくなかった。午後からマックデリバリーの仕事を入れていたため、仕事に間に合う時間にはなんとか起きて、食事を取り、仕事をした。仕事は淡々とこなして、家に帰り、また何もしたくない夜を過ごした。

 翌日は仕事だったので、朝起きて出勤した。仕事も手につかなかったが、なんとかその日一日をやりすごしていた。やり過ごすことでようやく、「何もする気になれない」という気分が消えていたことに気付いた。本も読めるし、ツイッターのタイムラインも読めるし、ネットニュースも読める。ようやく文字が、内容を伴って頭の中に入ってきた。これで、2日間の「何もする気になれなさ」から解放されたことに気付いた。

 2日で終わったからまだよかったのかな、と思っている。初日の夜や翌日の朝などは、これはいったいいつ終わるんだ? という恐怖があった。2013年はとりあえず休むと決めたので、休んでいればよかった。でも今は普通に仕事をしているし、副業も入れているし、大学の講義を受けたり公認心理師試験の勉強もしないといけない。「やらなければならないこと」が多い。2日間で終わったからよかったものも、終わらなければ、これが一週間も二週間も続いたと仮定すると、やはり恐怖だった。

 大谷翔平じゃないが、意図的に休みを入れることも必要だなという(当たり前のことを)感じつつ、早めに回復できてよかったと素直に思った。一度起きたことはまた次も起こりうるので、メモ的に。まあこれも大谷翔平じゃないが、睡眠の質はめちゃくちゃ大事ですね。できるだけ同じ時間に寝て、睡眠時間をしっかり確保するということは基本的だけどとても大事でした、というお話かもしれない。

睡眠こそ最強の解決策である
マシュー・ウォーカー
SBクリエイティブ
2018-05-19




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 以前紹介した『Putin's Way』はプーチン政権の残酷さを時系列的に告発する優れたドキュメンタリーだったが、本作『Wagner:Putin’s Shadow Army』もまた、プーチンがこれまで試みて来た戦争の実情を示す、格好のドキュメンタリーである。2022年だからこそ見るべき、といった類の。



 本作の取材対象である「ワグネル」と称されるロシアの民間軍事会社は、実質的にロシアの傭兵として機能している組織だ。ロシアが関係している民間軍事会社はワグネル以外にも多数あるが、その中でも実力が随一なのは、彼らが多くの内戦に派遣され、アフリカや中東などの各国の政治をかく乱している存在だという事実から伺える。このドキュメンタリーでも中央アフリカ政治と密接に関係し、堂々と、かつ巧みに作戦を実行していく姿がカメラにとらえられている。

 前回も紹介した廣瀬陽子『ハイブリッド戦争』によると、ワグネルに接近したメディアやジャーナリストは過去にも存在するが、その過程でいくつかの不審な死が発生している。廣瀬によると、それらはワグネルによって「消された」のと同じだと言う。かくしてワグネルはジャーナリズムを近寄せない。本作は、元ワグネルの軍人を初めて直接取材できた貴重な記録でもある。(とはいえその男は、自分のやってきたことを堂々としゃべるだけの小物にしか見えなかったが)

 どちらかというと、もう一人の取材対象者、「バシリー」と名乗るワグネルの代理人という肩書の男の言葉の方が重要だ。彼は先ほどの男のように顔を出すことはせず、安全な場所で取材を求めてくる。家族を持つ、表の人生を持ちながら、裏の人生で世界中で仕事をしているという彼のような存在がワグネルを機能させていること、そしてそれがロシアの戦略に寄与していることが見えてくる。

 「プーチンとその側近たちは国際舞台でのロシアの復権を考えています」というロイターの記者の言葉が印象的だ。そのための戦略の一つは、西側をかく乱し、弱らせることだ。バシリーは言う、「冷戦は終わっていない」のだと。これらは今回のロシア・ウクライナ戦争にまさに直結する言葉である。このドキュメンタリーの最初の方でドンバス地方に送られる話が出てくるが、2022年にもまさにワグネルはウクライナのあちこちで暗躍している。

 小泉悠が『現代ロシアの軍事戦略』で行っている次の指摘も、ロイターやバシリーの指摘と重なる。
 
クリミアやドンバスにおいて軍事力が作り出した「状況」は、ウクライナを紛争国家化することであった。ウクライナを征服して完全に「勢力圏」に組み込むのではなく、同国が西側の一部となってしまわないように(具体的に言えばNATOやEUに加盟できないように)しておけばそれでよかったのである。非軍事的手段や民兵による蜂起ではこの目標が達成できないと見ると、ロシアは正規軍やPMCを送り込んだが、その任務は戦争を終わらせないことであり、実際に2021年現在に至るもウクライナは紛争国家であり続けている。「勝たないように戦う」ことがウクライナにおけるロシア軍の任務なのだと言えよう。(p.171)

 ワグネルは表向き(?)は会社なので、マーケティングや広報を行ってリクルーティングを行う。その手法も本作では一部が明かされているが、情報のコントロールや動画メディアを駆使したリクルーティングは、そのまま政治や紛争介入の正当化のための広報戦略といったハイブリッド戦争の手法に近い。

 人集めも、戦争も、いかに正しいか、いかに偉大かといった情報の書き換えにより、正当化してゆく。しかしそれはもちろんゆがめられた事実であり、オルナタファクトであるわけだから、真実を追うジャーナリストが「消される」のも当然だ。ジャーナリストが兵士として志願しないよう、うそ発見器も使うとバシリーは答えていた。

 こうした厳格な情報管理の中で危険な取材を試みたこのドキュメンタリーは、2022年の今こそ見るべき一本だろう。






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