Days

日常と読書日記。 受験生日記は閉幕です。

2022年01月

 前回のエントリーで予告もしたとおり、12月は以下の2冊を取り上げた。

働く女子の運命 (文春新書)
濱口桂一郎
文藝春秋
2016-01-15




 この二冊を続けて読んだのは、いずれも日本の雇用慣行における女性の労働環境を扱っているからだ。濱口(2015)は日本が近代化して会社員や労働者が誕生した戦前〜現代までを扱い、中野(2014)は2000年代の女性の労働環境と育児環境について扱っている。濱口の方が視野が広く、総括的になっているものに対して、中野はもともとの原稿が修士論文という性格上、特定の期間に特定の対象を取り上げたという本になっている。そのため、2000年代の、とりわけ中野のいうハイスペック女性がどのように就労し、結婚し、育児をし、就労継続/退職してきたのかを質的な調査によって浮かび上がらせている。

 中野(2014)が少し不幸なのは、この本で提示されている問いがある程度濱口(2015)によって説明されていることだ。濱口本の中でも中野(2014)が大きく取り上げられているわけだが、中野(2014)で提示された就労継続/退職の分岐の大前提として強調されている仕事のやりがいや職場環境、夫である男性の就労については濱口(2015)を読めばあらかた理解することができる。特に濱口が強調していたのは、日本は欧州と違って包括的な労働時間規制がないことである。

 欧州、特にEU加盟国には共通して労働時間規制が存在している。一週間の労働時間や休日、休息についての細かな規制があり、こうした硬直的な労働規制が一階にあり、その上に育休や時短勤務などの柔軟な労働法制が二階にあるという、二階建ての労働時間規制になっているのが欧州の特徴だと濱口は指摘する。他方、日本では90年代初頭に育児・介護休業法が制定され、その後の改正で制度の保証する内容が手厚くなっているものの、包括的な労働時間規制は2015年時点では存在しないと言ってよかった。その後労働基準法が改正され、大企業では2019年から、中小企業では2020年から新たな労働時間規制が導入されることにはなったが、こうした規制が雇用慣行や育休、あるいは育休後の就労継続に与えた影響がどのようなものかはまだ分からないと言ってよいだろう。



 ジョブ型とメンバーシップ型という大きな違いはあるが、包括的な労働時間規制が存在するEUでは育休や時短のスタッフがいた場合に特定の従業員の労働時間や業務量を大幅に増やす(肩代わりさせる)ことは困難だろう。しかし包括的な労働時間規制が存在せず(一応存在してはいるものの形骸化していると言ってよい)にメンバーシップ型の雇用が前提とされる日本企業においては、育休や時短勤務を選択する女性の労働者が不利な立場に置かれやすい。

 以上のように、濱口が指摘したような雇用慣行の歴史的・構造的問題に中野(2014)は十分言及しきれておらず、彼女の研究や調査を否定するつもりはないものの、今読みかえすと物足りなさがあるのも事実だった。とはいえ、今回濱口(2015)の副読本として中野(2014)を読むことで当時(70年代後半〜80年代前半生まれ。ただし高学歴層/大企業勤務に偏っている)の女性たちがどのように働き、結婚し、出産しというプロセスの中で煩悶してきたかが、一種のエスノグラフィーを読むように具体的にわかるのは面白い体験ではあった。中野(2014)の取り上げた女性たちの一部は氷河期世代に重なるため、世代ごとの就労環境の違いがあるとはいえ、現代においても全く解決されていない問題であることも併せて確認できたことや、スペースに来てくれた方と議論ができたのは有意義な時間だった。

 以下、スペースで言及した情報や参考文献です。



最小の結婚: 結婚をめぐる法と道徳
ブレイク,エリザベス
白澤社
2019-11-29






日本の雇用と労働法 (日経文庫)
濱口 桂一郎
日本経済新聞出版
2011-09-16


松坂世代、それから
矢崎良一
インプレス
2020-08-24











なぜ女性はケア労働をするのか
山根純佳
勁草書房
2021-11-01




セカンド・シフト 第二の勤務―アメリカ 共働き革命のいま
アーリー ホックシールド
朝日新聞社
1990-07T


 感情労働研究で有名なホックシールドのこちらの本は入手困難ではあるが図書館にはあったため、今後読書会として取り上げたい候補の一つ。80年代や90年代のアメリカの仕事と育児の両立の困難さを研究した本のよう。

チルドレン (講談社文庫)
伊坂幸太郎
講談社
2012-09-28









 ツイッターで交流があり、中野(2014)に登場する女性たちと同世代のとかげさんが書いた感想記事。この文章を読んだことも中野(2014)を読むきっかけになったので、改めて感謝です。
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 11月は体調がいまいちでやや失速した分を12月に取り戻した、という感じ。
 抜群に面白かったのは『嫌われた監督』と『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』の二冊。この本はいずれもむさぼるように読んだ。こういう本に出会えるので読書ってやめられないんだな、と思った。『カンバセーションズ』についてはmediumにレビューを書いている。




 前の記事で今年のベストにも次点として入れた『ユリイカ』の綿矢りさ特集と『現代思想』<恋愛の現在>特集も非常に面白かった。この二冊は相通ずるところがあるし、気づいたら恋愛とか結婚とかそれ以外についてずっと考えていた年の瀬だったなと思う。そういうエントリーも上げたしね。

 身近なところでは、ひろこさんのこのエントリーが面白くて、今後の自分の人生の参考になるかもならないかも。


 学生時代のころからアカウントはフォローしていたが、割と最近相互になってやりとりをするようになった。表に出てくる話、出てこない話含めていろいろなことをフラットにやり取りできる同世代のつながりができたのはうれしいものです。

 ちなみに2021年トータルで読んだのは311冊でした。読書メーターに入ってない本(同人誌など)を含めるともうちょいありそうだけど、そこまで細かく数えてないので詳細は不明。



 他、印象に残った記事やエントリーは以下の通り。そういえば衆院選もあったな。



 自分の中で境家先生はゲーム理論の人なので、ここ数年現実政治に対して積極的に発言をなさっているのがなんとなく面白い。面白い、というかイメージを変えないといけないな、という感覚。



 いくつかのBL小説(一穂ミチ、木原音瀬など)もそうだけど、自分が明るくないジャンルの小説を彼女から知る機会はとても多い。いつも本当にありがとうございます。



 遭遇したくはないが、もししてしまった時に何をすべきかは知っておいたほうがよい、という話。一応護身術の心得はあるけど、戦わずに済むならそれが最もよい。





 mediumにレビューをアップしている。



 乗代はもっと早く評価されるべきだと思ったので、ようやく評価が追いついたのはうれしかった。「最高の任務」もそうなんだけど、書くということに対するこだわりや特定の土地に対するこだわりを今後どういう形で小説に落としていくのかは楽しみにしている。後者へのこだわりは、同じく特定の土地を立体的に書くことが多い柴崎友香や滝口悠生と比べると独特な軽やかさがって好きだ。



 いろんな人が書いてるけど、バチェラー役の人がクズな分、女性陣の個性や仲の良さが際立った回だったなと思う。途中からは藤原さんと坂入さんをずっと見ていた。



 新しいエントリーではないけどフォローできてなかったので。2022年こそ倫理学(医療倫理含む)をちゃんとやっていきたい。毎年のように言っているので・・・



 『旅する練習』の感想が読めて面白かったのと、『Shrink』をさすがにそろそろ読まないとな(仕事柄)と思った。



 なぜ日本だけオミクロンが全然広まっていないのか、遺伝や文化的に近しい国である韓国ではヤバいのに・・・というスタンスの記事。結論は「わからない」ということで、その「わからなさ」に至る経緯が詳細にフォローされている良記事。
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 過去のエントリーを遡って確認してみたが6年ぶりらしい。前回2015年は社会人1年目の終わりでした(遠い目)
 いつも通り、今年リリースされたものからの選出なので旧作は含まず。こちらもいつも通り3つずつ選んでるけど順不同です。順不同のベスト3といったところでよろしくどうぞ。


●小説
1.乗代雄介『旅する練習』講談社
2.サニー・ルーニー『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』早川書房
3.カン・ファギル『別の人』

旅する練習
乗代雄介
講談社
2020-12-28


カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ
サリー ルーニー
早川書房
2021-09-02


別の人
カン・ファギル
エトセトラブックス
2021-08-26



●ノンフィクション
1.郝景芳『人之彼岸』早川書房
2.鈴木忠平『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』文藝春秋
3.ケイト・マーフィ『LISTEN』
次点:『現代思想2021年9月号:特集=<恋愛>の現在』、『ユリイカ2021年11月号:特集=綿矢りさ』





LISTEN――知性豊かで創造力がある人になれる
ケイト・マーフィ
日経BP
2021-08-05







●社会科学
1.マイケル・フリーデン『リベラリズムとは何か』ちくま学芸文庫
2.アン・ケース&アンガー・ディートン『絶望死のアメリカ』みすず書房
3.山口慎太郎『子育て支援の経済学』
次点:濱口桂一郎『ジョブ型雇用社会とは何か:正社員体制の矛盾と転機』岩波新書

リベラリズムとは何か (ちくま学芸文庫)
マイケル・フリーデン
筑摩書房
2021-03-12


絶望死のアメリカ――資本主義がめざすべきもの
アンガス・ディートン
みすず書房
2021-01-18


子育て支援の経済学
山口 慎太郎
日本評論社
2021-02-15





●映画
1.『ひらいて』
2.『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』
3.『KCIA 南山の部長たち』
次点:『劇場版 きのう何食べた?』、『ファーストラヴ』

●音楽(アルバム)
1.あたらよ『夜明け前』


2.Pastel*Palettes 「TITLE IDOL」


3.Hakubi「era」


次点:Awesome City Club「Grower」


次点:ユアネス「6 cases」
6 case
HIP LAND MUSIC, FRIENDSHIP.
2021-12-01



●音楽(楽曲)
1.Homecomings「Here」


2.フィロソフィーのダンス「テレフォニズム」


3.武藤彩未「SHOWER」


次点:にしな「ヘビースモーク」


 にしなはこのライブ映像がかなりよいので置いておく。



次点:ヨルシカ「春泥棒」


 ヨルシカも公式がライブ映像の一部をアップしている。配信で見ていたが、そういえばこのライブも今年だったな。

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