4年前、まさに社会人一年目の時に『SHIROBAKO』関係の記事を書いたわけだが、個人的にもうすぐ30歳、社会人5年目で終わろうとするタイミング(最初にフルタイムワーカーになったのが2015年1月という半端だったため)で見ると発見が多くて面白かった。なので個人的に少しまとめてみたいと思い、今回のエントリーを書く。
1クール目で書かれたのは、メインの筋は宮森あおいの奮闘の経験である。新人の制作進行(11話で短大卒であること、10話では「1年経ってないです」と他社のキャラに告白しており12話で95年に2歳ということは1993年生まれの放映開始2014年10月当時で21歳くらいと推定)として日々奮闘する。1話からそれはもうブラックな環境を匂わせながらではあるものの、やりたいことは何なのかを日々探し、社内社外のクリエイターたちとの間に日々もまれながらも同じ制作メンバーからの期待は厚く、着実に経験値を積み重ねる姿は当時同じく社会人1年目だった身からはかなり眩しく見えた。
他方で社会人5年目、環境としては3つ目の場所になって、つまりこの『SHIROBAKO』の5人たちからはキャリアを積んだ身になってから見返してみると何が見えるだろうかと考えてみた。もう一つは、5年目になったいまだからこそまだまだ走りだした彼女たちから改めて教わることはないだろうかとも考えてみた。自分が新人だった時のことは、まあ当時の紙の日記を見れば一部は書いているかもしれないけれど、ふわっとしたこと以外はもうあまり覚えてない(思い出したくないとも言えるが)。だからフィクションを、かつて夢中になっていたコンテンツを改めて見返すことで見えてくるものがあれば面白いなと思ったのだ。実利的なことを言えば、今後の自分に何か生かせるかもしれないな、との打算も込みで。
さて、いくつかポイントをピックアップすると、以下の通り。
・キャリアの浅さゆえに質とスピードの両立で悩む@絵麻(7,8話+12話)
・やりたいことで経験を積めない@みーちゃん(9,10話)
・初めての最終回担当を前にして原画の担当がなかなか見つからない@あおい(11,12話)
絵麻とみーちゃんの悩みは非常に似ている。絵麻は高卒で就職したので3年目、みーちゃんは専門卒なので1年目と推定されるが、二人とも経験は浅いものの着実にキャリアを積み上げようとする過程にある。その段階ゆえの悩みだということは、誰もが仕事をする上で必ずぶち当たる悩みであり(だから絵麻は同僚の井口に相談をする)やがて越えるべき悩みであるということでもある。
この越え方が、絵麻のように相談して解決するようなメンタルやマインドの問題であることもあれば、みーちゃんのように環境を大きく変える必要があるかに分かれているが、悩みをどう越えるかが一つの手段である以上唯一の正解はない。ただ、相談することは常に糸口を見つけるためのヒントになる。みーちゃんは同僚ではなく、かつての仲間たちに相談を持ち掛ける。
その10話。この中で久しぶりに5人が集結し、それぞれの仕事の話で盛り上がりを見せる中(メインはみーちゃんの転職相談)であおいが発するコメントがシンプルでクリティカルだと感じた。
あおい「つまってたその絵コンテが進みだしたのは、どこにたどりつきたいかがはっきりしたからで、そのために何をやればいいのかが見えたんだって」
みーちゃん「社長にも言われました。目標があるんなら、そのために何をしたらいいのか、一度しっかり考えてみたらって」
このやりとりのあと、みーちゃんは転職を決意する。次の場所が決まったわけでもない中転職するのはかなりリスキーではあるが、やりたいことをやるための越え方としては無難なやり方だ。経験の浅い中での転職はギャンブルになりがちだが、とはいえ同じところにずっと居続けるのも同じくらいギャンブルだ。結果的にみーちゃんは前者を選んだ。
それと、どこにたどりつきたいのかは2クール目以降にはあおいにも直接突き刺さるテーゼである。その中であおいは過去のムサニの作品を知ったり、ビッグタイトルを完結させたあとに未来のことを想像したりもする。これはつまり、自分が「何をしたいのか」を知るために「実際どうすればいいのか」をより具体化した形になるだろうなと思う。
少しこれまでの筋とはそれるが、11話で「トライ&エラーって言うけど日々トライ&トラブル」とあおいに向けて語る矢野さんの気持ちもいまなら少しわかる。それは4年前には全然わからなかったことでもある。自分ひとりで仕事をするのでもなければ、自分ひとりで生きているわけでもない。生きていくわけでもない。自分が何をしたいかと同じくらい、誰のために生きるのかとか、ワークライフバランスと言っていいのかはわからないけれど、プライベートな部分も含めて仕事を位置づけるということが、20代のころより30代のころの方がきっと重みを増すのだろう。
どこにたどりつきたいのかもまた、常に一定ではない。キャリアを積む中で微修正していくものだろうと思う。経験の浅い人間と、そこそこ積んだ人間とでは、目指すべき先の視界そのものが違ってくるからだ。視界が広く、大きくなると逆に迷いや戸惑いも生まれるかもしれないが、だからこそ逆説的にゴールを見据えるのが大事なのだろう。あっちこっち行っても何も得られない。最短距離が正解かどうかは分からないが、さしあたりのゴールというかターゲット(目標)があったほうが日々の仕事の効率も上がるものだろう。
先に見据えたターゲットに向かうためには、まだまだ目の前の現実の「越え方」を習得していく必要がある。その時その時でぶち当たるものを一つずつ越えていった先にあるものが何かは分からないが、走高跳のように一つずつ高さが上がっていくことを楽しめるような、そういう生き方でありたいなと、このアニメは、とりわけ宮森あおいはいつだって教えてくれる。
4年前の記事を以下に。後編では「働く」の話をしているのがいまでは少し懐かしい。