2019年01月

2019年01月31日

ポストモダン、歴史修正主義、フェイクニュース、そして三日月宗近の魂 ――『映画 刀剣乱舞』(2019年)



見:イオンシネマ綾川

 1月で期限が切れるイオンシネマのチケットが余っていたのでなんとなく見に行ったが、思った以上に無茶苦茶面白くてとても満足した。「歴史修正主義」というワードがナレーションで登場するあたり、原作ゲームを手掛けたニトロプラスの恐ろしさを感じるけれど、しかし本当にこれはポストモダン的な作品になっているなと思う。

 たとえば『戦国自衛隊』のような作品があって、ゼロ年代にはリメイクも作られているけれど、リメイクはあくまでリメイクで、映像や演出の技術の向上はもちろんあったけれど、それ以外に現代的だと思わせる印象は少なかった。しかし本作の場合、2.5次元ミュージカルを手掛ける俳優たちがそのままキャラクターとして出演することで、2.5次元の映像化に成功しているということ。そして、平成ライダーを多く手がけた小林靖子が本作の作品を手掛けていること。そして歴史修正主義と同じくらい、本作で重要なのはフェイクニュースであるということだ。つまり、騙し合い、コンゲームと言っても良いのである。

 真実の歴史を変更しようとする時間遡行軍と、真実の歴史を守ろうとする刀剣男士たち、といった構造自体は非常にシンプルなものだ。アンチヒーローに対してヒーローがどのように立ち向かうのか。あるいは、時間遡行軍の真の狙いはいったい何なのか? 決戦の舞台として選ばれるのは、あの有名な本能寺の変だが、ここでの防衛戦が終わっても物語は終結しない。本能寺だけでなく、各時間の各地域に軍勢を送っているらしい時間遡行軍にとって、本能寺の変もいわば「陽動」なのではないのか?という疑念。そして、多くの場面で黙して語らない三日月宗近の真意も鍵になってくる。

 面白いなと思ったのは、歴史修正主義というのはあくまで出発点に過ぎないことだ。この物語の真骨頂は、さっきも書いたようにコンゲーム、つまりいったい何が真実なのか?ということをめぐった情報戦なのである。ポスト本能寺の変を経て、明智光秀や豊臣秀吉など、各軍勢はそれぞれの動きを見せるが、本能寺の変が実在の歴史をなぞらなかったことによって、明智や秀吉たちの動きも想定がつかない。そして「生き残ってしまった」信長や、信長を支援する側につく時間遡行軍もまた、狙いを持って行動をしている。

 こうなってくると、刀剣男士側も一枚岩とはいかない。単に、三日月宗近とそれ以外、という構図だけではない。なぜならば、彼らの中には歴史的に信長に縁のある刀剣も含まれるからだ。もちろん、そういった「私情」と任務は直接的には分かれるけれども、ヒーローたちが一枚岩ではないというのを、100分ほどの短い映画の中でも存分に存在感を持って発揮させること(そのビジュアルはもちろんのこと)はさすがだと思ったし、そのヒーローの葛藤を描くことは小林靖子にとってはおそらく得意分野でもあるのだろう。いずれの俳優も舞台版から継続して演じているからか、それぞれの刀剣に見事になりきって素晴らしい演技を見せている。(個人的には日本号がとても好き)

 そんなこんなで、これは本当に見どころの多い作品だ。様々な葛藤を乗り越え、そして一つの真実にようやくたどりついた先に見せる刀剣男士と時間遡行軍による殺陣は本当にお見事。このシーンだけでも、映画館で見る価値はあまりにも大きい。かっこよくて、美しい。成人男性が見てもロマンを感じるのは、歴史のロマンに裏打ちされた物語であると同時に、刀剣男士たちの演技が本当に素晴らしいからだ。たまたま見に行ったにしては、本当にいいものを見ることができたな、と思っている。

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2019年01月14日

最後に愛が勝つ ――『パトリオット・デイ』(アメリカ、2016年)



 2013年のボストンマラソン爆弾テロ事件を題材にした、というのは知っていたがタイトルがまんま直球なこともありやや敬遠する気持ちもあった。ただよく調べてみると、「パトリオット・デイ」とはアメリカの祝日名であり、その日に毎年ボストンマラソンを開催しているということで、当日はお祭りにも似た盛り上がりになるボストン市民やボストンマラソン参加者にとっては重要な祝日ということなのだろう。であるなら、そのままタイトルにしたのはそう悪い感じはしない。

 映画は事件の前から犯人2人が逮捕されるまでを、まるでドキュメンタリーを見ているかのようなリアルさで描く。追跡する側の地元警察官役でもある主人公をマーク・ウォールバーグが演じる。ボストンを愛し、妻を愛する彼は最後まで捜査の先頭に立って犯人を追跡していく。他方で途中から捜査に介入するFBIや地元外の警察との連係に苦心するところは、組織あるあるというか、捜査の規模が大きくなるにつれて複雑さを増していく様もリアルに描写されている。

 犯人となったタメルラン、ジョハル兄弟とその周辺の人間関係への描写も余念がないので、映画の最初から犯人側vs.捜査機関といった構図を見せてくる。ただ、それだけでは単なるクライムムービーにもなりかねない。大事なのは、ボストンという街をどれだけ映画の中で表現するかだろう。多数のキャラクターが登場するが、この映画で最も重要なのはボストンという舞台だからだ。

 うまいなと思ったのは、これはもうだいぶ終盤のシーンではあるけれど、当時のレッドソックスの象徴的存在でもあったオルティーズを筆頭としたレッドソックスの選手たちが行った、フェンウェイパークでの試合前のセレモニーを撮影していることだ。オルティーズはたぶん本物だろうが、役者も映像の中には入っていたので、どこまでが再現で、どこまでが当日の本当の映像なのかはわかりにくかったけれども、マラソンといい野球といい、スポーツを楽しみ市民と選手たちにスポットを当てるということは、それが平和でなければ実現できないことの証でもある。

 エピローグ的なシーンはわかりやすく人や街の「愛」だなと思いつつ、他方で爆弾を使用した銃撃戦は非常にリアルに演出されている。確かにこれは、ちゃんと見ておくべき映画だった。何が起こり、その後にまた何があったのかを記憶するために。悲劇と愛のいずれもを。

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2019年01月04日

2018年12月の読書記録

 12月は2回にわたって、計6日間の東京遠征をこなしたりしつつ、なんとか本も読んだ月だったかな。2019年へ向けての何かがあったかどうかはわからないが。
 mediumには2本だけしかupできなかったので、1月はもう少しアップします。ストック原稿もたくさんあるので。

 upした2本は以下の通り。
7年間待ち望んだ朝吹真理子がいた ――朝吹真理子(2018)『TIMELESS』新潮社
現実と幻想の融解こそが醍醐味 ――谷崎由依(2017)『囚われの島』河出書房新社

12月の読書メーター
読んだ本の数:19
読んだページ数:6047
ナイス数:22

日本の同時代小説 (岩波新書)日本の同時代小説 (岩波新書)
読了日:12月01日 著者:斎藤 美奈子
やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 (13) (ガガガ文庫)やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 (13) (ガガガ文庫)
読了日:12月01日 著者:渡 航
約束された場所で―underground 2 (文春文庫)約束された場所で―underground 2 (文春文庫)
読了日:12月01日 著者:村上 春樹
数学する身体 (新潮文庫)数学する身体 (新潮文庫)
読了日:12月07日 著者:森田 真生
囚われの島囚われの島
読了日:12月08日 著者:谷崎 由依
海市 (P+D BOOKS)海市 (P+D BOOKS)
読了日:12月15日 著者:福永 武彦
自炊力 料理以前の食生活改善スキル (光文社新書)自炊力 料理以前の食生活改善スキル (光文社新書)
読了日:12月15日 著者:白央篤司
二軍監督の仕事 育てるためなら負けてもいい (光文社新書)二軍監督の仕事 育てるためなら負けてもいい (光文社新書)
読了日:12月19日 著者:高津臣吾
ベルリンは晴れているか (単行本)ベルリンは晴れているか (単行本)
読了日:12月22日 著者:深緑 野分
現代思想 2018年11月号 特集=「多動」の時代 ―時短・ライフハック・ギグエコノミー―現代思想 2018年11月号 特集=「多動」の時代 ―時短・ライフハック・ギグエコノミー―
読了日:12月22日 著者:小島慶子,伊藤亜紗,貴戸理恵,ドミニク・チェン,若林恵,松本卓也,今野晴貴,小川さやか,D・グレーバー
生活考察 Vol.06生活考察 Vol.06
読了日:12月22日 著者:
ガルシア=マルケス「東欧」を行くガルシア=マルケス「東欧」を行く感想
時代を感じるエピソードもちりばめられていて、面白かった。アウシュビッツを訪れて収容施設を見学するところや、経済的に比較的うまくいっているチェコスロバキアへの好印象、そして1956年のハンガリー動乱を経たブダペストの市街(戦闘のあとがまざまざと残る)を歩くあたりの章が特に良い。
読了日:12月25日 著者:ガブリエル ガルシア=マルケス
失われた時を求めて(11)――囚われの女II (岩波文庫)失われた時を求めて(11)――囚われの女II (岩波文庫)感想
長い長いヴァルデュラン家での夜会を経たあとの、アルベルチーヌとの最後の日々。私視点なので愛憎たっぷりではあるが、別れの予感をかみしめながら過ごす最後のひととき、という感じかな。アルベルチーヌは自由を求めていたのだろうし、私はそれを与えたくなかった。その末の結末。
読了日:12月25日 著者:プルースト
新版 ダメな議論 (ちくま文庫)新版 ダメな議論 (ちくま文庫)
読了日:12月26日 著者:飯田 泰之
失われた時を求めて(12)――消え去ったアルベルチーヌ (岩波文庫)失われた時を求めて(12)――消え去ったアルベルチーヌ (岩波文庫)感想
永遠に失われてしまったアルベルチーヌへの思いの丈というにはあまりにも長すぎるし、いまさらかよとツッコミを入れたくなるような自己愛に満ち満ちている。悲劇のヒロインとなってしまったアルベルチーヌは、もはや何も語れない。そのことがよち、彼女をミステリアスで美しい存在へとするのかもしれないが。
読了日:12月27日 著者:プルースト
チリ夜想曲 (ボラーニョ・コレクション)チリ夜想曲 (ボラーニョ・コレクション)
読了日:12月27日 著者:ロベルト・ボラーニョ
あまりにも真昼の恋愛 (韓国文学のオクリモノ)あまりにも真昼の恋愛 (韓国文学のオクリモノ)感想
非常に良かった。まず表題作で打ちのめされ、そしてその次の「趙衆均氏の世界」でやられ、後半だと「私たちがどこかの星で」がとても好み。現代特有の生きづらさを抱えるのはどの国の人間でも同じであるなということと、そういう現実をいかに生き延びていくかが書かれている。組織の論理ではなく、自分の論理で生きていく方法を、皆模索しているし、つながりを求めている。
読了日:12月29日 著者:キム グミ
障害者の傷、介助者の痛み障害者の傷、介助者の痛み
読了日:12月31日 著者:渡邉 琢
すべての、白いものたちのすべての、白いものたちの感想
2018年最後に読み終えた一冊で、非常に満足度が高い。本の作りそのものが非常に凝ったものになっているせいもあるだろうが、最初から最後まであまりにも美しくて、悲しくて寂しい。寂寥感、とでもいうべきだろうか。絶望のあとを生きていく人々に寄り添うのは、『ギリシャ語の時間』で試みたことに近いかもしれない。誰だって傷がありながら生きている。めぐりめぐって、それが一つの物語になることもある。語られなかったことを語る人が後から出てくるかもしれないから。あと、できればあとがき(「作家の言葉」)は最後に読んだほうがよい。
読了日:12月31日 著者:ハン・ガン

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